概要
昔、ナガサキアゲハのことを地獄蝶と呼んだ。
大森咲は季節外れの黒い蝶から「子供」を貰い、他の少女達にそれを分け与え始める。しかし、それは「死と言い難き死」をもたらす奇病の始まりであった。咲の兄・良広は奇病の発端が咲であることを知り、妹を助けるべく奇病の原因を調べ始める。そんな中、良広は母・清美が、千房という血華の一族の出であることを知る。千房には、カンナサマ信仰という奇習があった。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!地獄で黒い蝶と交わした契約。人間はその呪いから解き放たれるのか。
現世での罪を果てしなく罰せられる地獄。耐えがたい拷問を加えられ、八つ裂きにされ骨となり、全てが終わったと思ってもその体は一瞬で元に戻り、そこからまた新たな苦痛が一から繰り返される。そんな地獄の苦しみの中で、一人の青年と黒い蝶がある契約を交わした。地獄から彼を助ける代わりに、人間として転生した時に蝶へその血を与え続けるという契約だった。契約によって生まれる子供は、病にも傷にも命を脅かされない身体を持っている代わりに、生涯地獄蝶にその血を与え続けなければならない。
こうして、地獄蝶との終わることのない契約に縛られ続ける血族、千房家。この契約により何にも傷つかない体を持って生まれた子供は、「カンナ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!壮大なスケールで描かれるホラー作品
物語は、恐ろしい奇病が蔓延するところから始まります。本作は処女の女性しか罹らない病気でありますが、このご時世と合わせて、病気の恐ろしさはよりリアルに感じました。
それも、物語のなかの奇病は悍ましい経緯を辿り死に至るのです。治療薬もなく、なぜ感染したのかもわからない……それだけでもかなりの恐怖が潜んでいます。
この奇病の根源を調べ、どうしたら良いのか……物語は複雑に登場人物たちの人生が絡み合いながら進みます。丁寧な伏線が張り巡らされ、物語の展開の予測は不可能です。作者様の才能に脱帽です。
物語には、実在するナガサキアゲハが登場します。実際に調べてみると、黒く美しいアゲハ蝶でした。こうした丁…続きを読む - ★★★ Excellent!!!その世界の深さに浸かり込んでください
夷也さんの作品はいくつか拝読しているのですけれど、この作品もまた素晴らしい物語であったように感じています。
どうしてわたしはこんなに感動するのか、それはやっぱり世界観の深さだと思います。
世間に処女だけが感染する奇病が流行り、それには蝶が関係していることを良広は知る。
良広の妹の咲もまたその奇病に感染してしまうのですが、物語が進むにつれてその蝶にまつわる呪詛の歴史が明らかとなっていく……
わたしはこの作品を惹きつけられたように拝読しました。
足の先から頭のてっぺんまでどっぷりと浸かりこんで。
社会を巻き込む奇病、そして人の澱みをこんなにも浮き彫りにした作品にはなかなかお目にかかれないので…続きを読む - ★★★ Excellent!!!グロテスクな官能に酔え。少女たちの胎内を蝕む、血の華を吸う黒い蝶の呪い
物語は、処女だけが罹る死病が蔓延するところから幕を開けます。
胎に病の種を宿した少女たちは精神が壊れ、やがてグロテスクな死を迎えます。
感染した妹を救うために動き始めた兄は、その原因が母方の血族の呪いにあることを突き止め——
獲物を狙うかのように、少女たちの周りに現れる黒い蝶。白い首筋の、赤い華のような痣。
印象的な色彩と共に綴られていく、忌まわしき血の呪いと隠れキリシタンの歴史。
官能的かつ重厚な文章で、一気に物語世界へと誘われます。
血の通った登場人物の中でも、ストーリーの鍵を握る少年『カンナ』の精神性が非常に魅力的でした。
存在自体が異端である彼の存在意義。運命に抗おうとする姿が、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!奇病が蔓延る。地獄蝶が舞う。すべては秩序の中へ還らなければ、ならない。
地球温暖化が進む地で、原因不明の奇病が蔓延します。
或る特定の女性だけを侵す病は、若くして老化を進ませて精神を狂わせます。
塾講師の青年・良弘は、恋人を奇病に奪われ、妹を奇病に侵されていました。
彼は、妹を死に追いやろうとする病と、どのように向き合うのでしょう。
「カンナサマ」と呼ばれる少年が淡く冷笑する。巡り巡る地獄蝶の輪廻。
冷たく重たく苦しく痛い。そんな運命に生まれた少年は、
そして、奇病に苛まれて若くして老いさらばえた少女は、
はたして、救われるのでしょうか。
還るところは守られた秩序正しき世界で、
不穏に舞っていた蝶も、少年少女たちも、
生死の境から、還るべき場所に導かれる。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!あなたも黒い蝶が怖くなる!
突然流行り出した死に至る奇病にはいくつかの特徴があった。
病に冒されていく妹を助けようとする兄の視点から、章ごとにその視点は変わっていき、じわじわと全貌が明らかになっていきます。その重厚感のある文章、まるで伝承物語のような発想たるや本当に素晴らしく、どんどん引き込まれていきました。
古い言い伝えぐらいにしか思っていなかったことが、奇病で現実を帯びていく。それはまさにホラー。しかもその病に関係しているのは、血華と呼ばれる地獄で地獄蝶との血の契約を背負った者。血華であるカンナは血華であることで普通の生活がままならず、人一倍苦労をしてきた。そのため一筋縄ではいかない性格だけれど、奇病に冒された従…続きを読む - ★★★ Excellent!!!地獄に蝕まれ 蝶に侵され 華は《輪廻》する
その《死病》に侵されたものは生きながらにして、地獄に落ちる。
処女だけが掛かるその《死病》は、罹患すると急激に老いていき、知能も理性も損ない、やがては腐乱した骸だけを残して息絶える。患者らは一様に、みずからのうちに《赤ん坊》の鼓動を感じるという。赤ん坊にたいする執着と多幸感に蝕まれ、患者は恐怖を覚えるまでもなく朽ちていく。
まさに呪いの如き《死病》……
その発端となった悲しき伝承が紐解かれたとき、あなたはなにを想うのか。
遠い昔日の幻想が現実を毒す、薄気味悪くも美しい怪奇譚――です。
頁を進めるほどに、此岸と彼岸の境がじわりと侵されていくような錯覚に襲われ、嵌りこむように物語に没入してい…続きを読む