地獄に蝕まれ 蝶に侵され 華は《輪廻》する

その《死病》に侵されたものは生きながらにして、地獄に落ちる。
処女だけが掛かるその《死病》は、罹患すると急激に老いていき、知能も理性も損ない、やがては腐乱した骸だけを残して息絶える。患者らは一様に、みずからのうちに《赤ん坊》の鼓動を感じるという。赤ん坊にたいする執着と多幸感に蝕まれ、患者は恐怖を覚えるまでもなく朽ちていく。
まさに呪いの如き《死病》……

その発端となった悲しき伝承が紐解かれたとき、あなたはなにを想うのか。

遠い昔日の幻想が現実を毒す、薄気味悪くも美しい怪奇譚――です。
頁を進めるほどに、此岸と彼岸の境がじわりと侵されていくような錯覚に襲われ、嵌りこむように物語に没入していきました。
蝶、華、契り。それらの謎が解けていくと、単なる恐怖の対象でしかなかった《死病》もまた、悲しい由縁あってのものだったのだとわかります。そうして事の発端となった《ふたり》が、地獄から救われることを祈らずにはいられなくなるのです。

民俗学を根として、そこから幻想の枝葉を拡げていくような著者さまの技術は、まさに圧巻でした。
ほんとうに素晴らしい小説を拝読させていただきました。

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