現世での罪を果てしなく罰せられる地獄。耐えがたい拷問を加えられ、八つ裂きにされ骨となり、全てが終わったと思ってもその体は一瞬で元に戻り、そこからまた新たな苦痛が一から繰り返される。そんな地獄の苦しみの中で、一人の青年と黒い蝶がある契約を交わした。地獄から彼を助ける代わりに、人間として転生した時に蝶へその血を与え続けるという契約だった。契約によって生まれる子供は、病にも傷にも命を脅かされない身体を持っている代わりに、生涯地獄蝶にその血を与え続けなければならない。
こうして、地獄蝶との終わることのない契約に縛られ続ける血族、千房家。この契約により何にも傷つかない体を持って生まれた子供は、「カンナサマ」として千房の中で恐れ崇められ、地獄蝶の支配に苦しみながら数奇な運命を辿ることになる——。
そんな千房家出身の母親から生まれた女子高生、咲。ごく普通の少女として暮らしていた咲でしたが、ある日、彼女の背後にふわりと黒い蝶が纏わり付きます。咲はその蝶から恐ろしい「子供」を貰うことに——。
咲からこの「子供」を分け与えられた、親友の由美。彼女は苦しんだ末、思わず目を逸らしたくなるような凄絶な死を遂げます。見る間に処女から処女へと広がっていく奇病。咲の兄である良広は、この恐ろしい奇病の謎を調べ始めます。
地獄蝶と人間が結ばねばならなかった、呪いのような契約。「カンナサマ」として生まれついた子供たちは、この契約に苦しめられ、何とかその契約を断ち切ろうともがきます。地獄蝶と彼らがどのような確執を繰り広げるのか。そして咲から発症した奇病の持つ意味は。現在第40話まで拝読したところですが、物語はまるでサスペンス小説のように克明に場面場面を描き、時にグロテスクで血生臭く、鬼気迫る空気に満ちています。
そして、拝読の途中ではありますが、物語の根底に流れるのは、因果の恐ろしさとでも言うべきものではないかと感じます。地獄蝶の呪いこそ架空のものですが、人間は生まれながらに背負う罪の因果から決して逃れ出ることのできない存在なのではないかと、読みながらふとそんな思いを抱きます。
この物語がどのような結末に向かっていくのか。謎めいた展開を最後まで見届けずにはいられません。この濃厚な世界を、皆様もぜひご堪能ください。
物語は、恐ろしい奇病が蔓延するところから始まります。本作は処女の女性しか罹らない病気でありますが、このご時世と合わせて、病気の恐ろしさはよりリアルに感じました。
それも、物語のなかの奇病は悍ましい経緯を辿り死に至るのです。治療薬もなく、なぜ感染したのかもわからない……それだけでもかなりの恐怖が潜んでいます。
この奇病の根源を調べ、どうしたら良いのか……物語は複雑に登場人物たちの人生が絡み合いながら進みます。丁寧な伏線が張り巡らされ、物語の展開の予測は不可能です。作者様の才能に脱帽です。
物語には、実在するナガサキアゲハが登場します。実際に調べてみると、黒く美しいアゲハ蝶でした。こうした丁寧な設定もまた物語に深みを出しています。
ぜひご一読ください!!
夷也さんの作品はいくつか拝読しているのですけれど、この作品もまた素晴らしい物語であったように感じています。
どうしてわたしはこんなに感動するのか、それはやっぱり世界観の深さだと思います。
世間に処女だけが感染する奇病が流行り、それには蝶が関係していることを良広は知る。
良広の妹の咲もまたその奇病に感染してしまうのですが、物語が進むにつれてその蝶にまつわる呪詛の歴史が明らかとなっていく……
わたしはこの作品を惹きつけられたように拝読しました。
足の先から頭のてっぺんまでどっぷりと浸かりこんで。
社会を巻き込む奇病、そして人の澱みをこんなにも浮き彫りにした作品にはなかなかお目にかかれないのではないかと思います。
人間の汚さやこびりついたような感情をまざまざと描き出し、読者を深い世界へと連れていくのは作者様ならではだと思います。
物語は、処女だけが罹る死病が蔓延するところから幕を開けます。
胎に病の種を宿した少女たちは精神が壊れ、やがてグロテスクな死を迎えます。
感染した妹を救うために動き始めた兄は、その原因が母方の血族の呪いにあることを突き止め——
獲物を狙うかのように、少女たちの周りに現れる黒い蝶。白い首筋の、赤い華のような痣。
印象的な色彩と共に綴られていく、忌まわしき血の呪いと隠れキリシタンの歴史。
官能的かつ重厚な文章で、一気に物語世界へと誘われます。
血の通った登場人物の中でも、ストーリーの鍵を握る少年『カンナ』の精神性が非常に魅力的でした。
存在自体が異端である彼の存在意義。運命に抗おうとする姿が、痛々しくも美しい。
死の影がまとわりつくような輪廻の中、ラストは生への希望が開けました。
まさに死の淵から蘇ったような、稀有な読書体験。素晴らしい読み応えの物語でした!
地球温暖化が進む地で、原因不明の奇病が蔓延します。
或る特定の女性だけを侵す病は、若くして老化を進ませて精神を狂わせます。
塾講師の青年・良弘は、恋人を奇病に奪われ、妹を奇病に侵されていました。
彼は、妹を死に追いやろうとする病と、どのように向き合うのでしょう。
「カンナサマ」と呼ばれる少年が淡く冷笑する。巡り巡る地獄蝶の輪廻。
冷たく重たく苦しく痛い。そんな運命に生まれた少年は、
そして、奇病に苛まれて若くして老いさらばえた少女は、
はたして、救われるのでしょうか。
還るところは守られた秩序正しき世界で、
不穏に舞っていた蝶も、少年少女たちも、
生死の境から、還るべき場所に導かれる。
壮大なストーリーを伝える精度の高い文章。
R15指定ですが、純文学的な美しい表現に感じられました。
物語と文章の妙を是非、味わってください。
突然流行り出した死に至る奇病にはいくつかの特徴があった。
病に冒されていく妹を助けようとする兄の視点から、章ごとにその視点は変わっていき、じわじわと全貌が明らかになっていきます。その重厚感のある文章、まるで伝承物語のような発想たるや本当に素晴らしく、どんどん引き込まれていきました。
古い言い伝えぐらいにしか思っていなかったことが、奇病で現実を帯びていく。それはまさにホラー。しかもその病に関係しているのは、血華と呼ばれる地獄で地獄蝶との血の契約を背負った者。血華であるカンナは血華であることで普通の生活がままならず、人一倍苦労をしてきた。そのため一筋縄ではいかない性格だけれど、奇病に冒された従姉妹の咲を救いたいという思いは本当だった。
咲のためにカンナがとる生死をかけた行動。
本当にうまく行って良かったと思いました。
最初地獄蝶が優勢だったのがカンナの頑張りによって地獄蝶から解き放たれる。
カンナたちの前世や、カンナの現世での辛さを思うと、本当にカンナが解放されて良かったです。
物語としてのレベル、完成度に本当に尊敬を覚えた作品でした。
その《死病》に侵されたものは生きながらにして、地獄に落ちる。
処女だけが掛かるその《死病》は、罹患すると急激に老いていき、知能も理性も損ない、やがては腐乱した骸だけを残して息絶える。患者らは一様に、みずからのうちに《赤ん坊》の鼓動を感じるという。赤ん坊にたいする執着と多幸感に蝕まれ、患者は恐怖を覚えるまでもなく朽ちていく。
まさに呪いの如き《死病》……
その発端となった悲しき伝承が紐解かれたとき、あなたはなにを想うのか。
遠い昔日の幻想が現実を毒す、薄気味悪くも美しい怪奇譚――です。
頁を進めるほどに、此岸と彼岸の境がじわりと侵されていくような錯覚に襲われ、嵌りこむように物語に没入していきました。
蝶、華、契り。それらの謎が解けていくと、単なる恐怖の対象でしかなかった《死病》もまた、悲しい由縁あってのものだったのだとわかります。そうして事の発端となった《ふたり》が、地獄から救われることを祈らずにはいられなくなるのです。
民俗学を根として、そこから幻想の枝葉を拡げていくような著者さまの技術は、まさに圧巻でした。
ほんとうに素晴らしい小説を拝読させていただきました。
人が求めるのは秩序か無秩序か。
この世とあの世の境目が、救いと犠牲との間で揺れ動く。
ひとつの解放は新たな縛りと苦悩を呼び込み、信仰の深い側面を覗かせる。
蝶という形をしたそれを断ち切れるのか。
その人がその人であるための始まりの位置、そこへ立った若い2人の前途が、明るいものとなるように願わずにはいられない。
ただこのことはひとつの終わりであって、全ての終わりではないのだ。
切なく美しく静かな恐怖の世界はこれからも、この先もたぶん、きっと続いてゆく。
季節がめぐり、美しい蝶を見かけた時、あなたはきっとこの物語を思い出す。この蝶はいったい、どこから来たのかと。
早い段階でページ(画面)を繰る手が止まらなくなります。「早く次のカードを捲らせろ」と呟きながら、ページを繰ってしまいます。
作品紹介文にて「人間の尊厳を扱った作品」と有ります。私自身が確固たる尊厳イメージを持ってないので何とも言えませんが、作者の心意気は十分に感じます。
読了後に作品を振り返ると、設定の妙に唸ってしまいました。蝶と華を巡る設定は極めてシンプルです。でも、この設定が秀逸なので、枝葉を伸ばした物語は大木を成して真相を隠し、読んでる最中には結末を予想し難い作品に仕上がっているのです。
ちょっと改行回数が少ない感じがしますが、閲覧者の皆様は匙を投げずに是非、読み進めてみてください。物語としては、かなりハイレベルだと思いました。
また、スプラッター系ではありません。そう言うホラー映画が苦手な方でも、本作品は十分に楽しめると思います。