第21話 歓迎会的な何か

あのどたばた騒ぎから少し経ち、19時を少し回った頃。


久保さんのお店で11人乗りのワンボックスカーをレンタルし、やってきたのは例のファミレス。


大きいタクシーを頼むつもりだったけど、あいにくと出払っていたのだ。


分乗していくのもどうかという感じでレンタカーに落ち着いた。いや、久保さんめっちゃ推してくるし。


のじゃ子と久保さん、俺の3人でハンバーグを食べたのがみなさんに露見し、今日の夕飯は外食となった次第。


メゾン・ド・ヒノデのメンバーが集結したのでした。


人間組のまりえさん、ゆーみさん、えりさん


神社組はやまなしさん、のじゃ子コンビ


テンカイ組の女神花子、クレスティーン京子さん


俺とりゅみこは何グループだ?チームエリュトロン?


久保さんは残念ながらお仕事があるとのことで後から合流予定である。


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時間的に子連れでごった返すアニメタイアップ中の某ファミレス店内。


例のキャンペーンも継続しているらしいが、夜は危険な鈍器が置かれたコスプレフォトブースは閉鎖され、タイアップ要素はおまけのカードのみ。フォトブースは「きっずこーなー」だったのね。なるほど謎の空間。


1時間ほど待たされたが、想定範囲内である。人数おおいし。


「11名でお越しの田中様!お席にご案内いたします」


案内係から声がかかったのは良いのだが。


あれ?1人多い?


後から来る久保さんを足して10人と書いたはずなのに11人いる?なんのSF作品だ?


「大神部長!」


女神花子さんがすっとぼけた声を出し、見慣れない少女を注視する。


ああ、部長ってあの老婆に見えない老婆の人か。どうしてここに。


「「おばあちゃん!」」


ゆーみとえりがきれいにハモって呼びかけると、その少女が振り返った。


「ふたりともひさしいのう。元気にしておったか?おお、まりえも元気か?」


「お久しぶりですー寮母さん」


あれ?お知り合いですか?寮母さんて日の出荘時代の?


やまなしさんはその寮母さんに突然ぺこぺこと頭を下げ始め、ファミレスの待合室はカオス状態に。


「タナカー、置いてくぞー」と、のじゃ子から声がかかり、移動開始だ。


入れ替わりに出ていくお客さんの中に、一瞬後輩の姿が見えたような気がしたけど、まさかなー。


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お店の一番奥にあるお誕生日席にご案内されたメンバー総勢11名。


久保さんがナイスタイミングで現れ、そろってご入店である。


「あ!ゆーみちゃん!えりちゃん!こっちこっち!」


「男子!騒がないで!」


途中の席で彼女たちの級友らしきグループと遭遇、男どもが色めき立つが、同席していた女子によって押さえつけられた。


「「こんばんはー」」


軽く会釈をして通過する二人。


「ゆーみさん、えりさん。今日って何か集まりとかあったんじゃ?」


「ええっと、隣の組のグループ会だと思います。私たちの組のグループ会は先週やりましたので大丈夫です」


二人から返事が。そいえば双子は同じクラスなのか。グループ会とは一体なんぞや?


申し合わせたかのように迷いなく席に座り始めるみなさん、おろおろしていた俺はなぜか主賓が座るお誕生席に押し込められてしまった。


---


「それでは田中さんの寮長就任を祝して乾杯!」


「「「かんぱーーーい」」」


全員がゲームカード付タイアップセットを頼むことになり、ずらずらと並んだあつあつハンバーグの群れを凝視するみなさん。


音頭取りは女神さん。こういったことはドジらない人なので不思議だ。


して自分、寮長っすか?いつの間に肩書が。


みなさんそろってソフトドリンクでのどを潤し、ハンバーグにナイフが入る段階で手の止まっている人を発見。


「このしゅわしゅわするのがこーらというのですね。そして、お肉…四百年ぶりくらいかしら。山鳥といのししは食べた記憶がありますが、牛はどうだったかしら…たしか清兵衛さんとこの荷引き牛…」


今聞こえたのは、やまなしさんの声か。引退した農耕牛を食べた記憶があるのですね。


「突然おしかけてしまってすまんのう」


俺の隣に座っているのは例の老婆に見えない老婆の方。


みなさんにはおばあちゃんに見えているらしいが、俺から見ると10歳くらいの女児である。以前の寮長、いや寮母さんらしいけど。


「例のげぇむ機で少々尋ねたいことがあって「こちら」に降りてきたのだが」


俺の修行マシーンとして活躍していたらしい32ビットのゲーム機、そしてソフト。


後でその筋の人?を連れてくるので見せてほしいという。


「ええ、かまいませんけど」


もっちゅもっちゅとお肉を咀嚼する元寮母さんのお口のまわりを紙ナプキンで拭きながら答える俺。


やるほうもやられるほうも何かおかしいと思わないと。


昔、こんなシチュエーションがあったような、なかったような。


なんだっけな。


---


『えりちゃん、この後クラス会の集まりでカラオケ行くんだけど一緒にどう?うちのクラスの女子もいるから、だ、大丈夫だよ。こっちでお金出すし』


店の端っこにあるお誕生席にいるのに、店の中央付近にあるドリンクバーから聞こえる不穏なセリフが俺のループし始めた思考を中断させた。


人を辞めてしまった俺の聴力はおかしい。こんな騒がしい店内、遠くの声を普通に拾えるなんて。


先ほどゆーみ、えりの双子に声をかけてきた隣組グループの男が4人ほど席を立ち、飲み物のお代わりを取りに行った「ゆーみさん」の後を追っていったので気にしていたらこのありさまだ。


あの二人、結構人気者だったりするんだろうか。


「私、ゆーみです。うちのかわいいえりちゃんに何か御用でしょうか?」


いつの間にか目立つ色合いの髪留めを入れ替えていた二人。


同じ学生服で名札なし、髪留め以外はほぼ一緒なので、普通の人は見分けがつかないだろう。


ちなみに外出時は指定の制服着用らしいですよ。まぁ、普段着もいつもお揃いですけど。


「え、あ、あの?ゆーみちゃん?その…?」


名前を間違えた不届きな男どもは突然の事にうろたえはじめた。


ゆーみさんから出る青いオーラは割と不機嫌な感じで男どもの灰色オーラをけん制している。灰色とはすごい色合いのオーラだ。何か憑りついているんだろうか?


俺もグラスを手に席を立ち、不埒な男どもの背後に立って鉄槌を下そうと近づくと。


「ゆーみちゃん?ご、ごめんなさい!うちの馬鹿連中がご迷惑を!ほら、あたしらでお金払ったからカラオケ行って部屋で清算するよ!」


隣のクラスの女子らしき人物が男どもを引っ張っていき、事態は収束した。


---


「大丈夫だった?ゆーみさん」


「田中さん!」


コーラらしき飲み物が入ったグラスをドリンクバーのカウンターに置いてから、がしっと真正面から抱き着いてくる彼女。


俺のおなかに彼女の鼻息があたってこそばゆい。


ゆーみさんのオーラの具合から特に取り乱した様子は見られないが、そこを言うと機嫌を損ねるのは間違いないので、背中を軽くぽんぽんしておく。


「怖かった?と、とりあえず席に戻ろうか?」


「もうちょっと。田中さんのおなかを吸ってから」


上目遣いでみつめてくるのは反則です。猫吸いみたいな感じで俺のおなかをたしなむのはどうかと。ハンバーグのにおいとかしますか?


ここ、ドリンクバーにいらずらをする不届き物をけん制するための防犯カメラとかあるので、社会的に抹殺されそうなシチュは避けたいのだけれど…。


「らぶらぶーーーー!うちのままとぱぱみたい!」


飲み物を取りに来た他所の女児がお口あんぐりで見上げてましてよ?


---


「いいなー。田中さん!今度はえりを助けに来てください!」


かろうじて社会的地位を維持したままドリンクバーの離脱に成功した俺、そして、今しがたの出来事をみなさんに報告するゆーみさん。


と、それに食いつくえりさん。ちなみに僕の横っ腹に食いついて吸っている最中です。


「ん?タナカからなんというか良いにおいが」


「あるじさま!りゅみこも!」


「血糖値上がってアグレッシブになってるのか!」


えりさん、そしてくらいついてくるおかっぱ女児を引きはがしていると、まりえさんと目が合った。


「どうします?さっきの件、学校に相談しますか?」


「そうねぇ…従姉妹に聞いてみましょうか。クラス会の趣旨からも外れてますし」


二人の保護者であるまりえさんの意見をうかがうと、二人の通う学校で教師をしている従姉妹さんに確認をしてくれることに。


早速スマホを取り出し、SMSで連絡を取り始めたまりえさん。


夜遅くに子供たちだけでカラオケに行くのはちょっとねぇ。基本は20時までらしいです。それも保護者付きで。


そして、クラス会の謎が解けぬまま、ファミレスでのお食事会は解散となったのであった。まる。


ちなみにタイアップカードの開封は皆さんにお願いして帰ってからやることに。


あそこで開けたら不正を疑われるレベルでスーパーウルトラゴージャスエクセレントレアが出そうな気配がしたので。

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