第12話 戦神タナカはフラッグメイカー
異世界の皇女をひざに乗せ、思案にふけっていると。
「あるじー!」
「タナカ!」
振り返ると、ファッション雑誌から飛び出したモデルかと見まごう二人の女児が!
「田中さん、こんな感じになりました!」
少し釣り目な感じな「のじゃ子」は狐耳を隠すフードのついた春っぽいピンク色のトップスに大きな飾りポケットのついたデニムの短パン。おしっぽ様はウェストにつけるアクセサリのような感じに見える。
おっとりした竜の巫女のトップスは襟の大きな白いブラウスにフリルのついた薄いピンクのカーディガン、下はアースカラーのミニスカート。と思わせるキュロット。
二人ともおそろいのニーハイを着用している。
どう見ても上下で二千円とは思えぬ…。ちなみにニーハイは三足で980円でした。お子様用なのでそれなりのお値段です。
「おう!よく似合ってる!。ゆーみ、えり。ありがとう」
「「おやすいごようです!」」
ひざの上にいた皇女の体がぴくん!と動いた。
彼女のお尻から精神状況を読み取る俺。いや、オーラが見えるからあれなんだけど。先ほどまでくすんだ赤だったオーラは好奇心の明るい赤となり、着替えを終えた二人に向かって流れている。
「あんな感じの服欲しかったりする?」
振り返った彼女の表情は、期待と不安がごちゃまぜになったものであった。
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「イノウイエ!」
「皇女、戻られましたか!」
「ちきうー」での事情聴取を終え、女神と共に箱庭世界「シェーダ」へと戻った皇女。
玉座の間でイノウイエと再会。女神は地上には降りず、そのまま「星団連合(レギオン)」の集会へと顔を出すべく資料を作り始めた。
ちなみに巫女を介して話すのはパフォーマンスであり、いつもは王宮の一室にこもっている。
「皇女、そのお姿は…」
イノウイエはいつものお仕着せの和服から、急に垢抜けた服装になった皇女を見て驚いている。しかも、どう見ても地球産の子供服。
赤系統のシャツの上に薄いピンクの花柄パーカーを羽織り、ボトムは白い水玉の入った赤いミニスカート。グレーの5分丈しましまレギンスにクロ○クス風のサンダルといういでたちだ。
「この羽衣は戦神のタナカ様に頂いたものだ。タナカ様はすばらしい神だ。わらわの愚行を何の対価もなく不問にしてくださったうえに、「罰」と称してこのような羽衣をくださったのだ」
その無垢な瞳はイノウイエを捕らえておらず、箱庭世界を通り越し「ちきうー」に向けられていた。
(おお、なんということ。これまでわたしばかりを見ていた皇女が…。喜ぶべきことだが釈然としない部分もある)
精神年齢はそろそろ八十を超えるイノウイエ。皇女は孫としか見ていなかったが、自分が手塩にかけて育てた娘が他の男に興味を持つとなるとその心境は複雑なもの。
いわゆる親ばかである。本人に自覚は無い。
戦神タナカ。大海原を荒らしまわっていた巨大な星賊(せいぞく)をたった一騎で壊滅させ、千を超える箱庭を開放した。
彼の駆る紅き竜は、数多の箱庭が浮かぶ大海原の端から端まで一晩で七回往復出来るとも言われている。
彼は「ちきうー」の準一級神だと箱庭世界の統括をしている「テンカイシステムズ」から説明を受けた。
(タナカ神…。あの竜を操っていたのは私の知る人間ではなかったのか。聞き覚えのある声だと思ったが、年はとりたくないのう)
Q 急にボケが来た。
A 急や。
信じて送り出した愛娘のような存在が豹変して帰ってきたことがショックだったのか。
ちなみに前の世界の妻に操を立てこちらでは結婚するつもりの無いイノウイエ。皇女という楔が抜けて、彼の決心が鈍るのもそう遠くないのか。
一応、幼馴染ポジションの美しい女性が何人かいたりする。タナカ(仮名)が聞いたら怒り出しそうな事案である。
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「調査?」
いきなり翌朝。
お子様二人は双子と共にマンションに泊まりに行ったのだが、朝起きたら二人とも俺にしがみついて寝ていた。
俺の何がいいのかよく分からん。俺を起こしに来たゆーみとえりも布団に入ると言い出し、ひと悶着あった。制服がしわになるでしょ!と、どこのオカンだよ俺。
皆さんで朝ごはんを食べ終わり、学校と職場にそれぞれの方々を送り出した後、キッチンに立って片づけをしていると洗い物を手伝っていた女神から例の皇女が住まう箱庭世界「シェーダ」の調査に同行するようにと言われたのだ。
「調べるのは田中さんが壊滅させた魔法生物の残骸、それと被害状況ですかねー」
「あるじー。また「どんぱち」するー?」
まだパジャマのままでうろついている竜の巫女がわくわくした感じで俺にしがみついてきた。
いや、あれ以上壊したら箱庭がぶっ飛ぶかもしれん。
「残念なのじゃ。社をもぬけの殻にするわけにはいかんのじゃ」
のじゃ子はお留守番である。早く保護者が帰ってくればいいのだが。女神さんの同僚が様子を見に来てくれるという。
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「結界ペグ起動!シリアル4000番から順次開始!」
女神の掛け声と共に境内を覆うようにして薄い緑色の膜がドーム型に立ち上がると、外界の音が一切聞こえなくなった。
「この杭の内側は臨時の神域となり、普通の人は認識すら出来ません」
あの一億相当の銀の杭か。
「それじゃ、この辺でいいかな。大体二十メートルくらい離れておけばよいか。
乗り物は自前である。というか、どうやって世界を渡ったのかその検証も含まれている。
「いけにえ」の服を着せた竜巫女を境内の真ん中に立たせると、彼女の体は急速にサイズを増していく。
「チェンジ!「エリュトロンセイバー・ノーマル」」
真っ赤なボディに黄色いラインが入った通常モードのエリュトロンセイバーが出現。竜形態だとはみ出しそうなので。
同時に俺の体にも変化が!
「うわ。またしても真っ黒な悪役スーツ!」
外骨格を思わせるスレンダーな防弾スーツは、凶暴なハチをイメージさせる。紫色の不透明なバイザーで顔もまったく見えないし、これなら俺だとばれないだろう。
もちろん社長に。
「それじゃ女神さん、行きましょうか」
女神のでっかいケツを機体の上に押し上げて後部座席に押し込むと、自身もコクピットに滑り込む。
「メインエンジン点火!タキオン粒子変換開始!時空跳躍器官エネルギー充填完了!次元羅針盤問題なし。と」
後部座席で何か叫んでいる女神。別の次元からエネルギーをくみ上げるタービンの音がうるさすぎて何も聞こえない。インカムつかって!とゼスチャーしても通じない。
『あるじーいいよー!』
「エリュトロンセイバー発進!」
直後、後部座席から悲鳴が!
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