第22話 ご注文は鬼退治ですか?

メゾン・ド・ヒノデの皆さんを送った後、ぎりぎり営業時間内でレンタルしたワンボックスカーを返却。


お子様たちが学校に行くとなると、なにかと外に出る機会が増えるし大勢乗れる足車を増やしたいところだ。もちろん経費で。


返却手続きをしてもらった久保さんは自分の車の前で何か声にならない悲鳴をあげている。


また出たのかインフレレアカード!


あまり長居すると久保さんが帰れないので、預けておいた自分の車に乗り込みレンタカー屋を後にする。


そういえばエナドリ飲みつくしたっけと思い、途中のコンビニに寄ることに。


---


「うわ、これはまた昭和的な」


車を止めて外に出ると、コンビニ前の駐車スペースにたむろする若人の群れが目に飛び込む。


派手に飾り付けられた単車十台あまりが悪魔召喚魔法陣のように並べられ、その輪の中で金髪トサカ頭の連中が誰かに因縁をつけていた。


「おれの大事なバイクにぶつかっておいて、ただで済むとおもうなよコラ!」


大声で怒鳴りつける金髪トサカ頭。手にはお約束の鉄パイプ。


絡まれているのはどこかで見た制服姿。ゆーみやえりと同じ中学生だろうか。女の子が三人うずくまって震えている。


コンビニの店内はもぬけの殻。客はおろか、店員の姿もない。


とりあえず警察に連絡…。と思ったが、絡んでいる金髪トサカの様子がおかしい。


突然地面から吹きあがった真っ黒なオーラに包まれたトサカ頭。


「テメエ、バイクコワシヤガッテ コロス、コロス…ウガアアアアアアアア」


中心人物と思われるトサカ頭の着ている豪華な刺繍の入った黒い革ジャンがミチミチミチと音を立てて膨れ上がり、ぱぁん!とはじけ飛ぶ。


人とは思えない、紫色の肌を露出したその姿はまさに。


「ぎゃああああ!鬼ーーーー!」


他のトサカ頭は悲鳴を上げ大事なバイクを捨てて一目散に逃げだした。


現場には紫のトサカ鬼、そして取り残された三人の少女。無造作に置かれたバイク。


「これは女神さん案件だ!」


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「呼びましたか田中さん!」


「おおう!」


いきなり目の前に現れた女神さん、そして見慣れない方々数名。


「負の力のゆらぎが検出されたので、急いで来てみたのですが…結界針の用意を!対魔障壁展開!」


いつもと違ってきりっとした表情の女神さんが見慣れない方々に指示を出し簡易神域セットが準備されるが、状況は待ってくれない。


「これ間に合わんぞ」


口に出すのと同時に体が動いていた。


---


少女三人はだらだらと続く中学の伝統行事、クラス会を抜け出して帰る途中だった。


春休み中に彼女を作りたい男子が無理に女子を引き留め、強引に口説いてくるのでいい加減うんざりし、気の合った3人で会場にしていたカラオケ店を出た。


22時を回り子供だけで移動するのは危険と判断、カラオケ店近くのコンビニに入って保護者に連絡を取ろうとしたのだが、入り口前にたむろする前世紀の異物十数台が入店を阻止。


「おい、ぶつけたら弁償だからな!ケケケ」


めちゃくちゃにおかれたバイクをすり抜けようとした三人をからかうように、バイクにまたがりハンドルを小刻みに動かすトサカ頭の連中。


ついには前輪が少女の足に触れ、大げさにバイクを倒し「壊した!」と大声をあげるトサカ頭。


様子を見ていた客はその場を離れて警察に連絡するも電話がつながらず、店員もバックヤードにある非常ボタンを押したが発報しなかった。


つじつまあわせの余波か、あるいは災悪(サイアク)の訪れか。


その場に渦巻く負の感情が冥界の淵を開き、この世ならざるものを引き寄せた。


---


「ウガアアアアアア!」


少女たちに振り下ろされた無慈悲な鉄パイプ、凶悪な金棒は届く前にへし折られた。


「ウガ…」


武器をへし折られ困惑する紫の鬼はたった今目の前に割り込んだ存在に気づく。


全身黒づくめの騎士。


ただ居るだけ。その存在は巨大な山に感じられる。


「あれ、エリュトロンセイバーを呼んでないのに変身してるのは何故」


左手で折れた金棒を奪い取った状態で、自身の体を確認する黒づくめの騎士。


「女神さん、これでぶん殴ってもいいんですか!」


「だ、だめです!田中さんが殴ったら器の魂まで消えちゃいますので時間稼いでください。こっちでやります!」


「だってさ。ちょっとまってようか、トサカ鬼でいいのかな」


「コロス!コロス!」


地獄からはい出した鬼は突然現れた理不尽な存在に殴りかかる。


暗闇から解放され、現世で悪事を重ね、より強い存在へと変わるためには目の前のこれが邪魔だった。


「あんまり暴れられると困るんだよね」


鬼の繰り出す鬼速のこぶしは残像となって黒騎士に襲い掛かるが、そのすべてがかわされた。


「レベル0デコピン!」


ずどん!と空気を震わせる重い一撃が紫の鬼の額を撃ち抜き、鬼は気絶した。


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「君たち、大丈夫?」


春先だが、夜はまだ冷え込む。


冷たいアスファルトの上に座り込む少女3人を改めて見ると、先ほどファミレスにいたメンツだと気づく。


3人から出る青黒のオーラはひどく乱れ、精神的に参っていると思われる。


店員がいれば暖かい飲み物を買えるのに…さっきの結界針で締め出されたままか。


ひとまず3人を立たせて暖房のきいたコンビニ内のフードコートに座らせた。


とはいえ歩けないので1人ずつ餅抱きで運んだのは秘密。


「田中さん、冥界鬼の確保終わりました!器となった人間の後処理はこっちの警察に投げます!」


冥界鬼とは?いま投げるって言った?


「冥界鬼は次元の隙間から漏れる悪意の塊といった感じでしょうか。心の弱い人間に乗り移って器にして悪事を働き、増長します。神力の弱まった場所に出ることが…ああ、神力はつじつまあわせとは別件です」


先ほどの紫鬼をデコピンしたらトサカ頭から分離して紫色のスライム状に変化、処理班の手で特殊なカプセルに封じ込められた。


器となったトサカ頭は上半身裸で駐車スペースに伸びている。トサカ頭の心配は1ミリもしていない。自業自得だ。


「警察との交渉で暴走族同士の喧嘩で処理する手筈になっています。逃げた者も含め記憶の改鋳、防犯カメラの映像も対応済みです」


女の子が襲われたのにどうして?と疑問に思ったのだが、何か裏でも?


「3人が長時間拘束され、事情を聞かれることになりますので…」


トサカ頭も含めて記憶は書き換えるが、彼女たちへのとばっちりは避けたいと。なんとなく腑に落ちないが、忌まわしい記憶が消えるなら…。


「あ、ありがとうございました…田中さん?であってますか?」


3人のうちリーダーっぽい子が正気を取りもどした。


「女神さん、名前覚えられちゃいましたけど」


「あ、あれ?記憶操作は終わっているはずです!」


自分では名乗っていない。


たぶん女神さんの言葉に神力が乗っていて、何かしらの影響を与えたっぽい。


やっぱりポンコツだろ、女神さん。


エナドリを買う為にコンビニ寄ったのに、鬼退治とは。


ご注文された覚えはないぞ。

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