第16話 子守役は金髪ドリルのお嬢様

女神おきゃくさん、終点ですよ!」


「うえっ!乗り過ごした!…って。田中さんやめてくださいそういうの!」


コクピットの後部座席で立ち上がろうとしてキャノピーに頭を打ち付けた女神さん。「ぎゃん!」って聞こえたぞ。大丈夫か、エリュトロンセイバー。


無事に神界化したままの境内に戻ってきた俺たち。


女神さんを降ろしてからエリュトロンセイバーを竜巫女に戻す。


「あるじー!さっきあたまごつってした!いたい!」


ばふっ!っと頭突きをかます竜巫女。いけにえの服以外でヘンシン出来ればいいのに。


「あれは田中さんが…ええと。それじゃ、ペグを回収します!」


女神さん。どこから取り出したのか、一抱えほどもある古めかしい茶色の木箱コンテナを地面に置くと、「ぱかり」と蓋が開く。


うわ。箱の周囲にギザギザした歯が!ミミックか。竜巫女がドン引きしてる。


境内を囲むようにして刺さっていた銀色の杭が「しゅぱぱぱぱっ!」と引っこ抜かれて箱に吸い込まれる。


いま、ごっくん!って聞こえたぞ。


「連続使用は二十時間くらいが限度でして」


そうなると「向こう」へ泊まりで出かけるのは無理か。あっちの情報をもっと仕入れて、あの子の異世界転移を防ぐ手段を考えなきゃいけないのに。


神界化のためのヴェールが薄れて緑がかった景色が揺らめくと、神社の周りから環境ノイズが怒涛のごとく押し寄せる。


閑静な住宅街だと思っていたが、結構五月蝿いんだな。向こうの荒野が静か過ぎたってのもあるけど。


車の音、話し声、工事の騒音。人の営みを感じる音だ。


その中にノイズではない、心地いい声が聞こえてきた。


---


「田中さーん!」


境内に走りこんでくる紺色セーラー服姿の女子。ゆーみ、えりの二人が学校から帰ってきたようだ。


「どこかにおでかけでしたかー?」


境内に突っ立ってればそう思われるか。


「ちょっと仕事してきた」


まぁ、間違いではないな。


「あるじー」


咄嗟にジャケットを羽織らせておいた竜巫女がなにやら目で訴えている。


「何か食べるか?」


こくこくとうなずく彼女。


女神さんもですか?その前に竜巫女に服を。


---


「タナカー!」


「のうふ!」


境内横にある管理棟に戻ると、玄関先でのじゃ子が俺のみぞおちに突っ込んで255のダメージ!肺から空気が押し出されて変な声が。


「あいつ、神の使いたる我をいじめる!」


「い、いじめるだなんてとんでもないですわ!親睦を深めようとゲームを」


のじゃ子に続いて現れたのは立派な金髪縦ロールを装備した緑の瞳の美少女。背はゆーみよりちょっと高いくらい。服装はお嬢様学校にありがちな紺色のブレザーと膝丈のスカートだ。ニーソがまぶしい。


山脈は…上背に取られたか。


彼女の手には「うのう!」というカードゲームが。


あれで、のじゃ子をカモってたのか。


女神さんの同僚が来るって言ってたけど、この子?


「「田中さんのお知り合いですか?」」


双子の声のトーンがちょっと低い。オーラが乱れてる?


---


「わたくし、クレスティーン・京子と申します。新学期より、こちらの学校にお世話になりますの」


中学二年。双子と同い年ってことか。


父親の転勤で。という設定なのかと思ったら、本当に転勤らしい。


女神さんの同僚じゃなかったの?「後で詳しく」というモールスサインをウインクで送ってくる女神さん。それ俺でもわかりにくいですよ。


双子も女神さんの知り合いと分かり、のじゃ子の面倒を見てくれていたと聞いて幾分オーラが落ち着いてきた。


「それならそうと言ってもらえれば。てっきり同棲相手かと」


なにやら不穏な会話が。同棲か…。いてえ。胸に何か刺さった。


「田中さん?」


うつむいた俺を覗き込むゆーみ。近いですよ?


「いや、なんでもない。昼飯何にしようか考えてた」


「「チャーハン!」」


双子からリクエストが入ったのでチャーハン。中華なべってあったかな?


玄関先に突っ立っていても始まらない。


---


「タナカー!おかわり」


「あるじーもっと!」


食堂に鎮座するアイランドキッチンは戦場と化していた。司令官(コマンダー)のように指揮棒ならぬ中華なべを振るう俺。


ゆーみ、えり、京子も手伝って、ああ、女神さんは何かやらすとダメらしいので、のじゃ子と竜巫女をサポートにつけてテーブルの片づけをお願いした。お子様二人がオプションみたいだ。いや、オプションは…。女神さんににらまれた!


ご飯追加で炊いて置かないと夕飯の分が無いぞ?ちなみに昔懐かしいガス釜なので炊き上がりがいい感じです。


中学生組は食事の後ですぐに打ち解けて、なにやら密談をしている。彼女たちのオーラは不思議な動きをしているが、あまり見つめているといけない気がする。京子は白いオーラだ。女神さんと同じような…。やはりテンカイの関係者なのか?


「「けふっ!」」とげっぷの出るお子様二人に冷ましたお茶を出していると、女神さんが廊下の影からちょいちょいと手招きを。


「どうしたんです?」


「すいません。本当は姉のほうがシッターに来る予定でしたが、今確認したところ手違いが」


あっちの世界にいるときはこちらと通信など出来ない。世界をまたいでいるので当然といえば当然だが。


京子の姉がテンカイの関係者、一応ヒト種らしいが神界との橋渡し役をしているという。こちらで女神さんの付き人のような役をしていると。


「彼女の家族が引越しのトラブルで…入居先がダブル、いえトリプルブッキングしたらしいんですよ」


なんとまあ。親子四人で入る予定の一軒屋に三組?どういうこと?


「もしかして「つじつまあわせ」の余波とか言わんですよね?」


俺以外にも被害者が。つか、そんな不幸は連鎖させるなよ。神だろ?


「いえ、そ、それは断じて。単純に仲介ミスらしく…」


家の売主が三社に見積もりを出させて三社とも内定客を連れて来たと、鉢合わせの現場で大変な騒ぎに。


転勤族には最後の砦か。四月までもう時間もないし業者も焦ったのか?。


「それで、女性陣三人はひとまずメゾン・ド・ヒノデに入っていただき、お父様だけは涙を飲んで駅前のウィークリーマンションに…今、手続きの真っ最中らしく」


ああ、あそこか。築数十年の。ウィークリーだなんて横文字使っているけど、木造の一部屋だからな!俺も一時期お世話になったし。


そうなると京子もお隣さんか。あと、女神さんの付き人。どんな女性なんだろ。と、フラグを。

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