第17話 レトロなセーラー服の白百合少女

「本当に何百年ぶりかしら…」


テンカイシステムズの保養所である温泉宿を早々に離れ神社へと戻ってきた、のじゃロリ狐が「主神」と呼ぶ存在。


肉体を手に入れた後、調整もそこそこに。いや、調整の必要は無かった。神社に眠っていた彼女の遺髪からDNAを抽出し、再構築された体だ。


彼女は行きの大人びた和装とは異なり、人間界の、主に日本国で女子生徒が着用する「せえらあふく」に身を固めている。


生贄となって命を落としたのが十五歳くらい。そのときの容姿をほぼ再現した「仮初の器」に適した服装ということで選ばれたのだ。


背中の半分まで伸ばしたつややかな黒髪が、境内を渡る風にゆれる。


頬を撫でる風、境内の湿った土の香り、木々の枝が擦れ合う音。鳥のさえずり。ここ数百年、直接感じることの出来なかったもの。


そして…。


「タナカー!どうしてなのじゃー」


境内でえさをついばんでいたすずめが一斉に飛び立つ。


境内の隣に建つ、かつて神々が人の姿となって暮らしたという家から身内の叫び声が。


「あ、あの子は一体何を騒いで…」


感傷に浸るまもなく、狐が叫ぶ現場へと足を運んだ。


---


「秘儀!ヤマオロシ」


俺がカードを切ると、


「ヤマオロシx2!」


京子が待ってましたとばかりに上乗せ。


「とどめのヤマオロシx4」


続いてえりのダメ押しが決まった!


「だーーーーー!」


のじゃロリ狐の前に積まれたカードが一気に増えた。


「ふー」とため息をつく女神さん。竜巫女は「ふっ!」っと手札を確認。


ぽけっとしてるけど、意外とゲーム強いんだよな、巫女。まぁ、ゲームに取り付いた神だし。


「最初配られたカードよりふえたのじゃー」


みんなが捨てたカードの山の半分くらいが、のじゃ子に降りかかる。早く減らしたら勝ちというルールにあってこれは手痛い。


俺が起爆させた捨て札押し付けカード「ヤマオロシ」が二人を通過し、最後に「ヤマオロシ」カードを持っていなかったのじゃ子に着弾!


さっき焦って使ったから二枚は無いだろうという計算。ちなみに特殊カードは使いきりだから山には戻らない。逆転の目は無いということだ。


「じりりりりりりりん」


管理棟の玄関に取り付けられた呼び鈴が鳴らされた。いまどき珍しい電磁ベル式。


「はーい!」


勝手知ったるなんとやら。ゆーみが立ち上がると、ぱたぱたと廊下を走って玄関先へ。


彼女は既に投了した後なので問題ない。


と、思ったらものすごい勢いで戻ってきた。


「田中さーん!お客様!」


客?ゆーみのオーラが若干だが乱れている。


「俺、途中抜けするから今回は負けで」


「ほ、本当か!タナカ!そなたは神か!」


目じりに涙をためて俺を見上げるのじゃ子。元はといえば俺が仕掛けてドツボにはまったのに。


もしかしてチョロイさん?


---


「あのう、どちら様でしょうか?」


玄関先に咲いた一輪の可憐な白百合とでも言おうか。ぺこり、と頭を下げる少女。さらさらの黒髪が流れる。俺の知り合いではなさそうだが。


「田中様、申し訳ございません。うちの狐子(ここ)を預けたままに…」


かなりレトロなセーラー服に身を包んだ、十五歳くらいの少女がもじもじしながら立っていた。白いリボンってどこの学校?


その儚げな表情は浮世離れしすぎて…。オーラは白か。テンカイシステムズの関係者?


「申し遅れました。私、隣の神社で主神をしていたヤマナシでございます。訳あって人の姿を得ましたのでそのご挨拶も」


やはり神の関係者。していたって過去形?人の姿を?どういうこと?


「女神さん、何か聞いてます?」


僕の隣にいつの間にか現れた女神さんに尋ねる。


「す、すいません!先ほど連絡があったようなのですが」


女神さん、カードゲームに熱中しすぎて電話出てなかったんですって。


「あうっ!」


つむじをぐりぐりしておいた。


うむ。これって双子に話すわけには…。


と、思ったらシナリオは出来ていたようだ。


---


カードゲームを中断し、食堂に集まった面々。今度は勝ちそうだったのじゃ子が「むー」という表情に。


「来月より祖父に代わり神社の手入れを任されました、月見里(やまなし)と申します。妹が大変お世話になりまして…」


いわゆる通い神主、いや資格は無いので社殿の管理人ということか。ご近所に住んでいることにしようと思ったがそもそも人の住まいは無い。神様だし。


のじゃロリも普段は実体化していないそうで。主神が人になり、おつかいのじゃ子は宙ぶらりん状態に。


二人とも自動的に「メゾン・ド・ヒノデ」に入居と相成りました。と、女神さんから。テンカイシステムズの息がかかっているそうですよ。


「それじゃ、やまなしさんも転校生ってこと?」


えりが「?」って顔に。


そっちに話が転んだか。確かにセーラー服着てるし。


「転校…」


首をかしげる彼女。のじゃ子は先ほどから固まったままである。理解が追いつかないのか?


「ぴこーん!」と女神さんの電話から変な着信音が!


「あ、あう…。た、田中さん!緊急連絡です!」


スマートフォンぽい端末を俺に見せる女神さん。


「三人の編入手続きが完了しました?」


三人?


---


「いや、大丈夫か?」


のじゃ子と竜巫女、来月から小学一年生。やまなしさんは中学二年に編入。


何の準備もしていないぞ。大丈夫じゃない。


「学用品一式と必要な物資は明日送られてくるそうです」


そもそも隣の神社の神様が人になるってどういう?


「田中さん、ちょっといいですか?上の者が直接お話をしたいと」


女神さんに手を引かれ、外に出てから神社の本殿に。女神さんって時折結構大胆だよね。俺どきどき…しないけど。


例の神界化キットで本殿の内部に即席亜空間を作る女神さん。


「地区統括部長がお見えになられました」


社殿の空間がゆがみ、黒い塊が出現。それは徐々に人の形となる。


黒っぽい着物姿のおばあさま。だろうか。いや、白髪だが何かが…。


---


「ああ、楽にするがよい」


年季の入った板張りの本殿で正座をしていた俺に足を崩すようにと。これは長話の予感。


隣に座る女神さんもむちむちした足を崩す。いや、見ないですけど。


「いや、それほど手間は取らせぬ」


あれ、口に出したっけ?


「わしはこのあたりの神を束ねているテンカイシステムズの統括本部、大神(おおかみ)というものじゃ。今回、そなたが巻き込まれた「つじつまあわせ」じゃが、その影響か分からぬがテンカイシステムズの神管理サーバにも一部エラーが発生しておってのう」


「エラーですか?」


神さまもインデックスタグをつけて仕分けされてるのか…。なんかシュールだ。


「うむ。地上に居るすべての神はテンカイシステムズが掌握し、神力の再配分が滞りなく行われるよう細心の注意が払われておる。じゃが、例外エラーが発生したのじゃ」


大神さんは俺をじっと見つめる。


「そなた、いつ「神」としての自覚を持った?」


俺?

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