第18話 その男、最凶のゲーマーにつき

神になるには。


1.元々神であった。

 これは目の前に居る大神さん。生まれつきってやつですね。いや生まれるという概念が正しいのかなぞですが。


2.信仰心を集め、神の力に変換する。

 さっき尋ねてきたヤマナシさんが該当すると。詳しい話は後で。


3.とにかく修行。

 どんな修行だろうか。人を捨てるほどの苦行といえば、自身を仏にする荒行しか思い浮かばない。女神さんはこのパターンらしい。意外と苦労人なんだな。いや、人じゃないか。


と、代表的なパターンが示されたが、俺の場合、どれにも当てはまるとは思えなかった。


「そういえば、俺って女神さんより神格が上だって言ってましたよね?」


もれ出る力は強力らしく、社長のいる世界の神と皇女に粗相させてしまったのはまずかった。


「そこの女神に指摘されるまで分からなかったと?」


大神さんがありえないという表情を。というか神になったかどうかの判断基準ってあるんですか?


「いや、今でもぶっちゃけわからないんですが…そういえば」


人体から流れ出る気のようなものが見えるようになったのはいつだったか。


記憶をたどると、ゲームソフトに血を落としたあたりに行き着いて…。


---


「なんじゃこれは!」


急ぎ、現在の住まいにもどってゲームソフトとハードを持ち、神社の本殿に取って返した俺。カードゲーム中の人たちには気付かれませんでした。ちなみに神界の出入りは自由です。俺。エリュトロンセイバーを覆っていた結界と同じですので。


大神さんはやおら立ち上がり、俺に詰め寄る!彼女はいつの間にか擬態が解け、幼い少女のような顔立ちになっているが言わぬが花ってやつ?


「そなた、これをどこで手に入れた!」


ゲームショップで買い求めた何の変哲も無い32ビットCPUを搭載したCD-ROMドライブ付きの据え置きゲーム機とそれにセットするゲームソフトの円盤。


ソフトのパッケージには俺が落とした血の跡があり、ちょうどエリュトロンセイバーの上にあった。


ついでに竜巫女が出てきた事も伝えた。


「このようなものが下界に出回っていたのか…機械の内部に偶然の産物とは思えぬほどに精巧な…霊的な力を高める仕組みが備わっておる。付喪神が成長したのはその影響だろう。そして、それじゃ!光る板を裏返してみよ!」


変な力を授かった俺には良く見えた。本体に組み込まれたメイン基板に刻まれた文様。そしてCD-ROMの盤面にうっすら光る暗号のような文字が。


「もしかしてマニ車的な…」


回すことで徳が得られる茶筒のような物体。太陽光で自発的に回るやつもある、アレだ。


俺は何かを忘れるため、このゲームを朝から晩までやりこんだ時期があった。今となっては何を忘れたかったのか、それすら思い出せない。


「つまり、俺の力や竜巫女が顕現したのが、マンダラ的な基板を備えたこのゲーム機にマニ車的なCD-ROMをセットして遊んだ結果だと?」


一度に1%しか上がらない自機のボーナスパラメータを5000%にまで増やすほど。当然だがクリアできないことのほうが多い。やりこんだ回数は…思い出せない。


「これ俺の苦行に当たるんですか?」


「そ、そんな…」


女神さんが信じられないモノを見る目で俺を射抜こうとしている。


この人はどんな荒行に耐えたのだろう。そのむちむちした…いってえ。


「ふ、ふとってなんかいません!適正です!適正!」


わき腹をえぐられ、悶絶する俺。神力は分からないけど、物理的な破壊力なら上だろう。女神さん。


それならば体験してもらいましょうか。苦行を。


---


「ばきゅあーん」


「な、何が起こったんですか!田中さん!」


良くある両手持ちコントローラのスタートボタンを押したら自機が爆発した。素人(ニュービー)にはそう見えるだろう。


「これでもまだ50%ですよ?」


レベル設定により、5000%にまで増えたパラメータを50%に落としているのに。


本殿に現れた巨大な仮想スクリーン。そこで女神さんに俺の苦行を味わってもらおうとしたのだが「ゲームを開始」することすら出来ない。


自機のパラメータが上がるイコール敵も強くなる。


このゲーム、頭がおかしいのは「強くてニューゲーム」が成り立たないのだ。


大神さんもぽかんとした表情でスクリーンを見つめている。


十回やっても一秒先に進めない。


初めて同僚にやらせたときも同じような反応だったなぁ。


「ちょっといいですか?俺がやってみますので」


女神さんからやや汗ばんだコントローラを受け取り、レベルを5000%にセットしてからスタートする。


数知れない試行錯誤(リトライ)によって組み上げられた最適解。それを1ドットのずれも無くトレースする。


---


「とまぁ、こんな感じで」


30分後、5001%へのランクアップ画面が表示され、ゲームクリアとなった。久々の全ステージプレイだが問題ない。


「写経だな。これは。おそろしく速く、緻密で、暴力的な」


大神さんが張り詰めていた「気」を散らした。オーラが拡散するのが見える。


エリュトロンセイバーがたどる道筋は経典のソレと同じ。


「これを使えば誰でも神に近づけるかと危惧したが、安心した…。少なくとも「人」にあれをやらせるのは無理じゃ。田中氏、しばらくは女神の指示に従い、あの家で過ごしてほしい。例の子供じゃが、異世界への渡航阻止計画については追って連絡を入れるとしよう」


大神さんは詳細を調べると言い、ゲーム機の型番などを控えてから来たときと同じように黒い塊となって消えていく。


あ、おばあちゃんに戻り忘れているのを伝えてなかった。まぁいいか。どうしてあんな擬態をするのかも聞きそびれたし。


「田中さん、本当は何者なんですか?」


「さぁ…」


そろそろ管理棟に戻らないとちびっ子たちが騒ぎ出しそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る