第19話 最新家電に戸惑う土地神

「あるじー!」


「おふ!」


ばしゅ!っという感じで、みぞおちに頭突きを入れる竜巫女。


「みんなべんきょーってのをはじめたー」


結界を解いた本殿を出て女神さんと共に管理棟に戻ると、カードゲームをやっていた面子が教科書やノートを広げ、粛々と課題を片付けていた。


「タナカー。それはなんじゃ?」


もうひとり、勉強とは無縁そうな狐娘が現れた。


俺の手には据え置きのゲーム機とソフトが入ったキャリングバッグが。


「あーこれはなー。昔…」


今ほどグローバルネットワークが普及してない頃、LANパーティーといってPCを持ち寄って遊ぶ催しが度々開かれていた。


インターネットという言葉も一般的ではなく、昔は電話線を使ったアナログモデムをわずか9600bpsという超低速、いや、当時は超高速だったが…。


しかもゲームをやる際はサーバクライアント方式、参加者の一人が親(サーバ)になって、複数の接続先を受け入れることになるのだが、それなりのデータトラフックがあるゲームをアナログモデムごときで捌き切れるものではない。


そんな訳で、速度(レスポンス)重視のFPSなどをプレイするには難しいものがあった。後は電話料金。


いまどきテレホタイムといっても通じないだろう。


そこで、場所を借りてPCとCRTモニタを持ち寄り、ローカルネットワークを組んで遊ぶのが流行ったのだが…。


「長い!そこまでのせつめいはもとめておらん!」


狐娘に怒られてしまった。


ぽしょぽしょと狐耳に情報をインストールする竜巫女。


「つまりは出先で「げーむ」をするための「せっと」をつめこんだふろしき、ということじゃな」


「いぐざくとりぃ」


女神さん、それ俺のセリフ。ちなみに二本のレバーでロボットを動かして対戦させるやつは結構ハマリマシタ。


---


勉強中のみなさんを放置し、再び本殿に戻った俺。


宿題の邪魔にならぬよう、二人、いや三人のお邪魔虫を連れてきたのだ。


ゲームやりたい!というので。


「女神さん、さっきのバーチャルモニタって出せる?」


「すいません、あれは神界の備品でして」


まぁ、そうだろうな。


「タナカ!これは使えるか?」


本殿の隅っこに鎮座する古めかしいテレビ。管理棟にある物よりもかなり新しいが、やはりブラウン管だ。


氏子からの寄贈品らしい。


「以前は主神さまが「ひるどら」というのをみていたんじゃ。じゃが、しばらく前から映らぬようになってな」


まぁ、そうだろう。アナログチューナモデルだし。


テレビ台の中に接続を断念した思われるデジタルチューナを発見したのはその数秒後だ。


惜しいな、テレビの出力端子にRCAケーブルがささっているとは。


裏番組録画用の端子だったよなこれ。


---


「あれ、ゲームは?」


「後で!」


たまたま外付けチューナの設定中にアニメタイムが始まり、「三人」が肩を並べて視聴中だ。


女神さん、そんなに食い入るように見なくても。


「あるじー。続きはー?」


「そうじゃ!がけから落ちたあの者はどうなってしまう!」


「ひどいですよタナカさん!ここまで引っ張っておいて来週だなんて!」


俺のせい?


まぁ、何十回目かの再放送なので結末は知っているが、いわぬが花であろう。


つじつまあわせで改変されていなければ。


「主神さまにしらせてくる!」


アニメが終わってから知らせにいくのが狐娘スタイルか。


---


はええ。


ものの三十秒くらいで二人とも来た!


「ありがとうございます!狐子(ここ)を通じて氏子の方に何度かお願いをしたのですが、どうしても映らなくて」


主神さんはノートとシャーペン持ったままだ。


主神、今はヤマナシと名乗る女子中学生が目じりに涙をためて何度も頭を下げる。


「あれ?ヤマナシさんはメゾン・ド・ヒノデに移られるんですよね?テレビなら」


確か主要な家電は全部そろっているはず。


「お恥ずかしながら…」


最新家電は初体験で一つも動かせなかったらしい。


うーむ。本殿は音声認識ドアとかあって割とハイテク化されているのに。


女神さんに家電の説明を!とアイコンタクトを取ったら、速攻で視線をはずされた。


「田中さん!管理人としてのお仕事ということで」


男子禁制なのに入ってもいいんだろうか。


「田中さん、人じゃないですから…ぎゃああああ!い、いたいです!ごめんなさい!管理人です!人です!」


女神さん、目が疲れているようなのでちょっとだけこめかみのつぼを押したら静かになった。


ナチュラルに人外認定をしないでほしいものです。神になったつもりは無いので。


---


ヤマナシさんと狐娘、そして女神さんとやってきたメゾン・ド・ヒノデ。


エレベータ付の五階建て女性専用マンションだ。


「へぇ…」


月並みなため息をつく俺。女性専用という触れ込みどおり、エントランスからして乙女の園といったオーラが湧き出している。


いや、本当にオーラが出ているけれど。あ、誰かいるのか。


ピンクと赤というなんともな取り合わせ。ホールに置かれたソファに座る二人の女性の後姿が見える。


挨拶をしようと思ったら、二人とも席を立ち正面にあるエレベータの中に消えていった。手をつないで。


上向きの矢印が光り、上昇を始めたエレベータを見送る俺。


「ちなみにヤマナシさんのお部屋は?」


二階だというので階段を使って。


---


「結構広いですね」


「この子と二人ですと、広すぎるかなとは…」


3LDKの一般的な間取り、いや、居間が広いのか。


「主神さま!ならばタナカの家に!ちょうどいい広さの部屋が余っていた!」


「そ、それは…どうせい?」


それはドラマの知識ですか?ヤマナシさん。


のじゃろり狐ならともかく、見た目JCと一つ屋根の下はHANZAIって言うんだぜ。


外に声が漏れたのだろう。やや不機嫌な感じのオーラが二つ、マンションのドア前に出現した。


水色と赤色だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る