第20話 いわゆる修羅場的な状況
「ぴぃん↑ぽぅん↓」とチョウシッパズレなサウンドを奏でる呼び鈴が室内に響き、「はーい!」と返事をしながらぱたぱたと玄関へ走っていくヤマナシさん。
そういえばヤマナシさんの下の名前なんだっけなと思っていると、玄関先に不機嫌オーラを噴出した女子二人が姿を見せた。
「田中さんを呼んでほしいって管理棟にすっごくきれいな人きてるんですけど、もしかして彼女さんですか」とのたまう「えり」さん。
うんうんとうなずくゆーみさんは自身の胸元で両手を握り、ファイティングポーズを取っている。
彼女…同僚…いやそんな…。第一「田中」は偽名で…。
「二人ともちょっとごめん!」
「「きゃっ!」」
俺は玄関をふさぐようにして立っていたゆーみとえりの間をすり抜け、スニーカーを履く時間ももどかしくマンションの廊下を駆け抜けた。
両手に残る、なんかもにゅむっとした感触と共に。
やべぇ。つかんじゃったよ。
二人のおしりさま。
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「「田中さーーーーん!!!」」
おしりをつかまれた事に抗議したいのか、追いかけてくる二人を振り切って、階段を転げ落ちるようにして降り、マンションのエントランスを出て管理棟へ向かうとどこかで見かけたポリバケツブルーの車と紺色の事務服に身を包んだ長身の女性の後ろ姿が。
どたばたした足音に気づいたのか、振り返った女性の顔にも見覚えがあった。
「田中さん、御呼びたてしてすいません!近くを通りかかったものでご挨拶をと思いまして」
「久保さん?」
レンタカー屋の受付に居たレイヤーのおねいさんだ。
追いついたゆーみとえりが俺の背中にへばりつき、久保さんを威嚇する。
「「がるるるるるる!!!」」
仕返しとばかりに俺のおしりさまをつねる二人。いてえ。
「まぁ!なんてかわいらしい!あの作品の双子コスが似合いそう!」
久保さん、だめな人の目になっている。いわゆるしいたけ目ってやつだ。
「「きゅーん…」」
危険を察知したのか、双子はしっぽを巻いた子犬状態だ。
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「わざわざすいません」
「いえ!あの子の巫女装束からインスピレーションをたくさんいただきましたのでそのお礼に」
彼女が手にしていたのは、例のファミレスで撮影されたのじゃ狐のミニアルバム。
アニメの舞台を切り抜いてきたようなフォトブースで撮影された女児は、例の撲殺ステッキを構え、不敵な笑みをたたえていた。
あと、肉を喰う場面とか。
「タナカー!」と、おっとり刀で駆けつけた当の本狐が自身の写真集を見て目を丸くする。
「ワシ!デビュー!」
いや、違うと思うけど。
「田中さん、この女の人とどんなごかんけーなんですか?」
背中にへばりついていたゆーみが再起動し、すらっと美人の久保さんを見つめる。
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「「焼肉以上、彼女未満ってことですかーーーー」」と綺麗にハモった双子。
なにそれ。近頃のJCってそんな言葉が流行ってるの?
普通に友人じゃだめなの?って思うんだけど。
レンタカー屋でのやりとりを「あわあわ」しながら説明する久保さんだが、お仕事の時間は大丈夫なのだろうか。
騒ぎを聞きつけ、ヤマナシさんや管理棟に残っていたメンツも顔を出して神社の境内は修羅場めいた様相を。
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