第3話 崩壊するアパート、そして新たな住処
女神曰く、あそこに長く居てはいけなったと。
社長が異世界に飛ばされて改変が起こり、俺がその輪から外れてしまった現在、社宅として存在していたアパートを引き払う必要があった。当然だが住人は俺一人となっている。
急いでレンタルしてきた二トントラックに女神と一緒にそれほど多くない家財道具をガンガン積み込み、最後に大切なレトロ据え置きゲーム機を抱えてアパートから離れた瞬間。
「うお?」
二階建て八部屋の木造安アパートは夕日の中で揺らめくと、一瞬のうちに更地と化した。
押入れに残っていたらしい雑誌類がバサバサと空き地に降り注ぐも、地面に触れる前に消え失せた。
もしも、あそこにいてずっとアニメを見ていたら。
「アパートの消失に巻き込まれ、輪廻の輪からも外れていたかもしれないですね」
また怖いことをさらっと…。
「そういえば、この空き地ってどうなるんだ?」
「神力が失われているので、それが溜まるまで十年くらいはこのままですよ。よくあるじゃないですか?街中にぽつんと空き地があったり、どうやっても流行らないお店しか建たない場所とか」
微妙なところをビシバシとつつく女神。
あれらは地脈的に神の力がいきわたらない場所で、住んでも店を出しても長続きしないそうだ。
しかし、このアパートは元々潤沢に有った神の力が強引に引き剥がされてしまったのだ。
社長と共に。
彼に関わるものが「力」に変換され、異世界の糧となったと。力を失ったアパートは構成力が無くなり、ゼロとなる。
「土地の力だけでなく、建物や設備、預貯金なども変換されるのです。ですからこの「物質世界」の住人が一人でも異世界に渡ればその世界は十二分に潤い、少なくとも数十年は安泰なのです」
まぁ、ひっぺがされた余波を食らった俺はいい迷惑だが。
預貯金?もしかして今までの数年間、会社からもらっていた給料って。
あわてて貴重品袋をまさぐり、通帳を取り出す俺。
説明しよう。貴重品袋とは万が一の災害に備え、現金や印鑑、通帳などをすぐに持ち出せるよう絡めて入れておく袋のことだ!普段は一万円の激安耐火金庫に入っているぞ。非常持ち出し袋は静岡県民なら常識かもしれないってばっちゃが言ってた。
つか、本当に役立つとは思わなかった。貴重品袋。
「大丈夫です。つじつまあわせをしておきましたので!」
「入金元が「カ)テンカイシス」になってる?」
さて、これで家なし子になってしまった。帰る実家も無いし。
「大丈夫ですよ、女神にどん!とおまかせよ!」
本当にどん!ってくらいあるからな。山脈だけは。
山脈だけ。
大切なことなので二度いいまし
いてぇ。すね蹴られた。
---
「ここかー。うわー。豪華だなこりゃ」
すっかり日が落ち、青白いLEDの街灯が田舎道を照らす時間。
女神のナビに従ってトラックを転がしてやってきたのは、元のアパートから一キロほど離れた場所。
古くからある神社のすぐ隣に建つのは五階建ての近代的なマンションだった。
「メゾン・ド・ヒノデ?」
「はい!元々は日之出荘という平屋の木造アパートだったんですが」
火が出そうとか何か出そうとか、ろくでもないニックネームがついていたそうな。
「管理されている方が高齢のために引退なされて、お孫さんが引き継いだんです」
その時に建て替えたそうで。
女性専用って書いてあるよ?学生歓迎?
「あー。期待させてしまってごめんなさい!お部屋はあちらです」
ぼやっとしたレトロな白熱電球の街灯に照らし出されたのは、神社の境内脇にひっそりと佇む二階建ての一軒家。
非常にぼろっちい。
目を凝らすと看板らしきものが。
「棟人理管 荘出之日」
なにかでそうだわ!
---
「ほほぅ ほほぅ ほほぅ ほほぅ」
神社の境内にそそり立つオオクスノキの樹上にいる大型のふくろうがこちらを警戒し、しきりに鳴いている。いや、ミミズクか?
「こんばんは!ほーちゃん!」と挨拶する女神。
「ほほぅ」と返事をするふくろう?
「もしかしてお友達ですか?」
「いえ、あの子はここの神社の使いですよ」
「ほぅ」と口から漏れる俺。おめめをぱちくりして首をぐりんぐりんねじるふくろう。
やつらの首は270度くらい廻るって何かで見た気がする。
「よろしく!」と声を掛けると、ふっと音もなく飛び立ち、真っ暗闇の中に消えていった。あまり歓迎されてない?
いつまでも境内で油を売るわけにも行かず、トラックを一軒家の玄関先に横付けし、せっせこせっせこと荷物を運び込む。
「いやあ、新しい人が来てくれてよかったー」
エンジ色のジャージ姿の女性、年齢は二十歳前後か…。彼女が荷物の運び込みを手伝ってくれている。まぁそんなに荷物は無いのだが。
「へー!すごいねこれ!実機見たの初めて!」
「みせてみせてー。わー!おたからだ!」
家の中は女神とあと二人ほど、掃除をしてもらっているのだが。
荷解きもしてくれるのはいいけど、何がそんなにめずらしいんだ?
はてさて、「新しい人」とは一体。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます