第7話 のじゃロリ狐を拾いました

「くもつー!くもつをもってたもれー」


二トントラックの助手席で足をばたつかせる狐耳の幼女。


境内に突然現れた彼女は俺に近づくと「くもつ!」と叫び、タックルをかましてきた。


俺は「くもっ!」と謎の悲鳴を上げることに。


「どうしてなのじゃ!最近くもつが少ないのは!」


巫女装束狐耳のじゃロリって属性付きすぎじゃね?


盛大に腹を鳴らした幼女を放置するのも危険なので、車を返すついでに「くもつ」を買おうと思ったのだが。


幼女に「なんかにおう!」といわれたのでそういえば風呂入らずに寝たよなと、出る前にシャワーを浴びたり、とりあえず幼女に買い置きの菓子を食べさせたりと忙しく、出発が大幅に遅れた。


信号待ちをしている最中、助手席でぎゃいぎゃいと騒ぐ彼女に自然と車外の視線が集まる。視線の多くは下校中の学生。今日は午前中だけなのか。


窓を閉めているので声はそれほど聞こえないようだが、二トントラックの特性上フロントガラスが大きく、中が丸見えなのです。


「なぁ、あんた。もしかして俺以外にもあんたが見えるのか」


「なにをいうておる!何のための顕現じゃ!人から見えなければ主神様の使いにいけぬではないか」


うわあ。トラックにコスプレ幼女載せた俺超不審者。


「必ず、絶対、マストバイで供物を買いますのでもうちょっと静かにしてもらませんか?」


それでないと俺捕まりますよ。


---


「まぁ!よく出来たコス…お洋服ですわね!お耳と尻尾もまるで本物!どちらのサークルの」


レンタカーを返しに行くと、窓口のおねえさんが「のじゃロリ」を見て鼻の下を伸ばしている。昨日は見かけなかった人だ。


いやいや、普通の人にサークルとか言っても通じないと思うよ。


事務員さん向けの紺色のOL服に身を包んだ、スレンダーな感じの方。身長は俺と同じくらいか。


のじゃロリ狐は知人の娘ということにしておいた。


「く、久保くん。仕事中だぞ!趣味の話禁止!」


彼女の上司が怒っている。それを無視する彼女。


「はい、お車の確認と清算が終わりました。きれいに使っていただきありがとうございます。次回も当店をよろしくお願いいたします」


と、名刺を差し出してきたおねいさん。久保さんですね。先ほどお名前をお聞きしてます。


「あの、こちらのお嬢様のお洋服のことで少々お尋ねしたいことがありまして」


名刺の裏側にプライベートの連絡先が。いつの間に!


「は、はあ。分かる範囲で…それでは…」


くもつくもつー!と歌いだした「のじゃロリ狐」をおぶって店を出ようとした俺。


「あのう、どちらまで…もしよろしければ」


ぐううううう。と狐のおなかが鳴りました。


---


「課長!今日の昼食は外に出ます!その代わり午後の当番は私が!」


「まぁ…分かった。お客様を困らせることの無いように」


レンタカー屋の裏にある従業員用駐車場。


かわいらしい色合いの軽四に近づいた彼女は、おもむろに隣の車に乗り込んだ。


「きしゅきしゅきしゅ…ぼおおおおおん!でろでろでろでろでろ…」


すげえ。どんな車かと思ったら青色の水平対向エンジン車だ。


「失礼します」と後部座席にのじゃロリ狐を、俺は助手席に。シートベルトよし!


「すごい車ですね。ずいぶんと手がはいっているようですし」


「お洋服と同じくらい、車大好きなので!あの、ファミレスでよろしいですか?実はキャンペーン中で」


「どうする?ファミレスって分かる?」


後ろのはらぺこ狐にたずねる。


「うむ。わかるぞ。にくをしょもうする」


肉か。狐って肉食だよね。木の実も食べるんだっけ?


ずばばばばばば…と走り始めた車。


トルク太いなー。


---


お昼ちょっと前だが、ずいぶんと混み合っているファミレスの店内。


「確認させていただきます!こちらタイアップのセットハンバーグが三点!すべてライスで、ドリンクバーはあちらにございます!にゃん!」


アニメコスの店員さんが一礼し、厨房へと入っていく。にゃん?


「間に合ってよかったにゃん!」と久保さんの頬が緩む。


お堅いイメージのあったファミレス内は何かのキャンペーン中らしく、アニメの世界から抜け出てきたような人で溢れかえっていた。


コスプレのお客様割引というポスターが。


木を隠すなら森の中。


これならのじゃロリ狐も目立たない!


かと思われたが…。なんつーか素材がハイグレートなのですよ。一応神様の使いなわけでして。


ちらりちらり、とこちらの席を伺う女子学生のグループ。何のコスだろう。


おそるおそるといった感じで代表者がやってきた。


「あのう、突然すいません。写メ…写真撮影させていただいてもよろしいでしょうか?」


「かまわんぞ!かくさんきぼうなのじゃ!えんじょうはだめぜったい」


どこでその知識を得た!


店内を見れば…ファンシーな壁紙をはっつけた撮影ブースまで作ってあるとは…。背景はアニメの舞台っぽいな。


備え付けの小道具から撲殺ステッキを選び、それを構えてポーズをキメるのじゃロリ狐。


あっという間に人が集まりグラビアアイドルのような待遇を受ける狐。久保さんも参加している。席には俺一人。


「お待たせいたしました!タイアップハンバーグセットですにゃん」


じゅわあああああ。と鉄板の上で油が跳ねまわると肉の香りが鼻腔を刺激する。


油がぴちぴちするのを「ほおおおお」と眺めていた同僚の顔を思い出す。


冷めるぞ。同僚!といないはずの彼女を探し、気落ちしそうな自分にカツを入れる。


「のじゃ子、肉が冷めるぞー」


「なに!それはならんぞ!」


撲殺ステッキを持ったままこちらに歩いてくる。めらめらとオーラが出てる。黄色いオーラだ。


そういえば、境内で見たときより力が増している気が。


「それ返してきて!」


---


「ふーふーあーん。なのじゃ」


どこで聞いたのだ…。


巫女装束と鉄板焼きハンバーグの相性はすこぶる悪い。袂にソースが付く!


のじゃロリ狐はエプロンを付け、ひな鳥のように口を開け、右隣に座る久保さんが切り分けたハンバーグを突っ込んでいる。


左手でさりげなくおしっぽさまに触れているのを対面に座る俺は見逃さなかった!


「もしかして本物ですか?手触りが。それにあったかい?」


「狐の尾は力の象徴。もっと敬うのじゃ!タナカ!くわぬならよこせ!」


どうか生のしっぽだと気づきませんように。


あれ、いつ名前を教えたっけ?肉は渡さん!


---


久保さんはのじゃロリ狐の巫女装束を思うさま撮影。何でもここまでの縫製は素人には無理!とよだれをたらす勢いで。


食事代は彼女が出すというので俺はタイアップ商品のおまけを彼女に渡した。のじゃロリ狐は抱えたまま離さない。


「れ、レア!スーパーウルトラゴージャスプレミアムエクセレントレアきたあああああ!」と久保さんが吼えている。


俺の分は大当たりだったようだ。やっぱり人間やめてるよ俺。つかレアの表記長いな。カードゲーム社会も超インフレ起こしてるのか。


ファミレスの駐車場を出て十分ほどで月ぎめ駐車場に到着。


ぽつんと置かれた年代物のロータリーエンジン車は、昨日の異変などなかったかのように…。


「本当、三十年も前のデザインとは思えませんよね!」


車好きには分かるようだが…。時間がやばくないですか?


「す、すいません。そろそろお店に戻らないと!今日はありがとうございました!いいお洋服が作れそうです!それではまた!」


久保さんの車が遠ざかるのを二人で見送る。


「ふう。くもつではらがみたされた」


ぽっこりおなかをさするのじゃロリ狐。袴きつくない?


---


本当になんとなく。


気が付くとアパートの跡地に向けてハンドルを切っていた。


月ぎめ駐車場のすぐ近くなので、避けて通るつもりだったのに。


「タナカ!止まるのじゃ!」


助手席にいるのじゃロリ狐が叫んだ。


跡地を指差し、おしっぽさまをごんぶとにして叫ぶ、のじゃロリ狐。


「竜だ!赤い竜が地面に突き刺さっているぞ!」


「そんなばなな。いや、本当だ」


春うららかな陽だまりの中。アパートの跡地に斜めにぶっささった謎のごつい物体。


『あるじーたすけてー』


物体から漏れ聞こえる弱々しい少女の声。金属製の尻尾も力なくゆれている。


全長:25m 全幅:15m 機体乾燥重量:16トン


主機関:タキオン粒子変換エンジン


機体構造体:古代竜の骨、筋肉組織


主装甲:セラミック複合素材、古代竜の鱗 他


制御系統:古代竜の脳と神経節を核とした完全独立バイオナーブシステム


主武装:古代竜の生体レーザー発振器官x2(1000万kw級)


補助武装:30ミリ物理弾頭機関砲x2 無誘導小型ミサイル 他


昨日俺が乗っていた「エリュトロンセイバー」がどうしてこんな場所に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る