第五章 猫叱るより猫を囲え

 京介は、駅の近くにあった公園で時間をつぶすことにした。ベンチに座り、一人のんびりとコンビニで買った団子を食べる。これがなかなかに美味しい。

 ちらほらと、乳幼児を連れた母親が公園にやってくる。それを目を細めながら眺める。

『京介さんっ』

 頭上からかけられた声に、少しのデジャヴを覚えながら京介は上を向いた。

「マオちゃんどうし……、どうしたのっ?」

 軽くかけた声が、思わず大きくなる。視線の先に居たのは、くしゃくしゃに泣いたマオだった。

 急に大声をだした京介に視線があつまる。さすがにそれが気になって、慌てて声を小さくし、

「どうしたの?」

 手招きすると、マオは隣に座った。ぼろぼろに泣いた彼女の頭を撫でる。

「隆二は?」

『茜さんのとこ』

「ああ、お墓見つかったんだ」

『違うっ』

 しゃくりあげながらマオが叫ぶ。

『違う違う違うっ、待ってたっ。あの人、本当に待ってたっ』

「待ってた? 茜ちゃんが?」

『幽霊になってまで、待ってたっ』

「……そっか」

 二人の絆は、まだ切れていなかったのか。茜はそこまで隆二のことを思っていたのか。あの二人は人間と化け物の壁を越えたのだろうか。それなら、自分は。

『あたしっ、居られなくなっちゃうっ』

「……え?」

 マオの叫びに、京介は思考を中断させる。

『あの人が幽霊なら、ずっと隆二と一緒に居られる。そしたら、あたしっ、あの家に居られない。もう居場所がないっ』

 そうしてマオは膝をかかえ、そこに顔を押し付けた。

「マオちゃん……。いくら隆二でも、マオちゃんを見捨てたりしないよ」

 いや、違う。

「隆二だからこそ、マオちゃんのこと追い出したりしないよ」

 同族の中で、一番情が深いのが彼なのだから。

『だけどっ』

 マオが顔をあげ、吠える。

『隆二が追い出さなくても、あたしっ、あんな顔する隆二と、あの人のところになんか居られないっ』

「……そっか」

 それもそうかもしれない。

『もうやだ。謝りに行こうなんて言わなきゃよかった』

「……マオちゃん」

『……嘘だよ。謝りに来たのは、よかったと思ってるよぉ』

 マオは、抱えた膝に顎をのせた。

『隆二、悲しそうだったから。辛そうだったから。自分のこと責めて。だから、謝りに行こうって言ったのは、後悔してないよ。だって隆二のこと、心配だったから。だけど。こうなるなんて、思ってなかったから』

「優しいね」

 マオの頭をそっと撫でる。

「隆二のこと、考えてここに来たんだもんね」

『優しくないよ。知ってるもん。本当に優しい人は、こういう時に、こうやって喚かないもん。本当に隆二のこと考えてたら、大事な人と一緒に居られるようになってよかったね、って言うんだよ。知ってるもん』

 だけどっ、と続けた声が、また一段と涙声になる。

『だけどっ、あたし、よかったねなんて言えない。あたしは、あたしが、隆二と一緒に居たい……』

 そのまま顔を膝に埋める。

『……こんな風に我が侭だから、駄目なんだよね、あたし。いつも隆二を困らせて、迷惑かけて。だから一緒に居られなくなっちゃう』

 くぐもった声。

 京介はしばらくそんなマオを黙って見ていたが、

「マオちゃん」

 その腕をそっと引く。マオの体が少し京介の方に傾く。マオが顔をあげる。

『……京介さん?』

 涙に濡れたその緑色の瞳を正面から捉えて、京介はいつになく真面目な顔で問いかけた。

「なら、俺と一緒に居る?」



 居候猫がいなくなった。

 最初は気を使ってどこか少し離れたところで待っているのかと思った。しかし土手周辺を探しても見つからず、隆二は慌てて来た道を戻った。こんな不慣れな土地で、一体どこに行ったというのか。

 最初はただの早足だったのが、気づいたら駆け出していた。不安が胸をかすめる。迷子になっていやしないだろうか。なにかあったんじゃないだろうか。

 駅近くまで戻ってくる。公園の横を抜けようとした時、公園を覆うように生えた木々の間から、ベンチに座る見知った後ろ姿を発見した。

「京介!」

 名前を呼ぶと、京介は不機嫌そうな顔で振り返る。

「マオ、知らないか?」

「……いるよ、ここに」

 不機嫌そうに吐き捨てられた。

「そっか……」

 それに安堵する。とりあえずいるならば、いい。

 京介は何故か眉を吊り上げ、

「はやくこっち来い」

 冷たく言うと、隆二にまた背を向けた。

「何怒ってるんだ?」

 小さくぼやきながらも、入り口にまわりベンチに駆け寄る。

「マオ!」

 ベンチの上、体を丸めるようにして横たわっているマオの姿に、少し焦る。なにか、あったのか。

「どうした?」

「大丈夫、眠っているだけだよ」

 近づくと、確かに眠っているようだった。マオの頭を撫でる。

「……泣いたのか?」

 頬に残る涙の後を見て、そう問いかけると、

「そんなに心配ならもっと大切にしてあげたらどうなんだ?」

 冷たく吐き捨てるように言われた。

「……お前、さっきから何怒ってるんだ?」

「そんなことも言われなきゃわかんないのかよ」

 睨みつけられる。

「茜ちゃん、会ったんだってな」

「ああ」

「お前のことだ、久しぶりに茜ちゃんに会って、会えて、マオちゃんのことなんかころっと忘れてただろ」

「……否定は、しない」

 だけど、お前だって俺の立場だったらそうしただろが。言い訳は、なんとか飲み込んだ。

「考えなかったわけ? 茜ちゃんが待ってるのみて、マオちゃんがどう思うかって」

 まあ無理だよな、とバカにするように笑われる。なんだっていうんだ、さっきから。

「居られなくなる」

「は?」

「茜ちゃんが幽霊になっているなら、隆二とずっと一緒にいられる。そうしたら、自分はもう隆二の家に居られなくなる。そう言って泣いてたよ、マオちゃん」

「……そんなこと、あるわけないだろうが」

 そんなバカなことで悩んでいたのか、この居候猫は。今更追い出すわけ、ないだろうが。

 もう一度、バカな居候猫の頭を撫でた。

「大体、幽霊だからって茜とずっと一緒にいられるわけないだろ」

 成仏した方がいいに決まっているのだから。

「マオちゃんにそんなこと、わかるわけないだろ」

「……そうかもしれないが」

「マオちゃん、泣いてたけど、こうも言っていた。それでも、謝りに行こうって言ったことは後悔してないって。隆二が辛そうだったから、ここに来たことは後悔してないって」

 何か言おうと口を開き、結局何も言えなかった。眠るマオを見る。

 そんなこと、思っていてくれたのか。でも、考えてみればいつもそうだったかもしれない。自分勝手で、自由気ままで、気分屋で。振り回されているけれども、彼女の思考はいつも神山隆二に向いていた。茜の話をするときだって、辛いなら話さなくていいと、言ってくれた。

「……ありがとう」

 小さく呟き、その頭をもう一度撫でた。

 未だに不機嫌そうな顔で京介が言葉を続ける。

「マオちゃんがあんまり泣くから、俺思わず言ったよね。なら俺と一緒に居ればいいって」

「お前なっ」

 簡単に言う京介に、かっとなった。

「なんで怒るんだよ」

「無責任にそういうこと言うなよっ」

「どっちが無責任だよ、俺は本気で言った!」

「茜からは手を引けってあんなに言ってたお前がかっ? ずっと、永遠に、マオの面倒見るつもりがあるっていうのかよっ」

「茜ちゃんとマオちゃんはまた別だろうがっ」

「何がっ」

「茜ちゃんは人間で、マオちゃんは幽霊だろ。前提条件が違うっ。俺は、マオちゃんならずっと一緒にいてもいいと思ってる」

「ふざけんな」

「ふざけてるのはお前の方だっ」

 一際大きな声で叫ばれ、指をつきつけられる。周りの視線が集まるが、もうお互い気にしていない。いられない。

「盗られたら困るなら、最初から盗られないようにしろよっ!」

「盗る盗らないってなんだよっ。そういう話してないだろっ」

「してるだろ。大体、マオちゃんに断られたつーの!」

 吐き捨てるように怒鳴られた。それに次の言葉を出そうとしていた口が止まる。京介はゆっくり息を吐き、落ち着きをいくらか取り戻してから、

「隆二じゃなきゃ、意味がないってさ」

 俺ってば超惨め、と続ける。

 隆二は再びマオに目をやる。今の騒ぎでも起きる気配はない。よほど、疲れているのか。

「隆二」

 名前を呼ばれて、京介に視線を移す。すっかり落ち着いた彼が、珍しく真剣な顔で言った。

「マオちゃんを茜ちゃんの代わりにするのはやめろ」

「代わりになんてしていない」

 心外だな、と続ける。心の底から。こいつがなにを考えているかわからない。マオが茜の代わり? バカを言うな。

「マオが茜の代わりになんかなれるわけないだろ」

「……そっちかよ」

 うんざりしたように京介がため息をつく。

「ナチュラルにひどいんだよ、お前は」

「大体なんで代わりなんていう発想がでてくるんだ? マオは幽霊なんだから茜とは違うだろ」

「だからそっちかよ本当お前はだめだなこの唐変木」

 先ほどとは違い声を荒げることはないが、妙に早口で苛立っているのが感じられる。

「何怒ってるんだよ。大体、マオが幽霊で茜とは違うって言ったのはそっちが先だろ」

「確かに言ったけどさ、そうじゃなくて。なんで言わないとわかんないんだよ。茜ちゃんもマオちゃんもこんなののどこがいいんだよ」

 あからさまなため息をついて、京介は両手で顔を覆った。そのままの姿でしばらく固まる。どうしたものかと隆二も黙ってそれを見ていた。

「いや、もういいや」

 小さく呟いて、京介が顔をあげる。

「うん、とにかく俺が言いたいのは、もうちょっとマオちゃんのこと考えてあげろよ、ってこと。それぐらい、お前にだって出来るだろ」

「なんかバカにしてないか」

「なんでバカにされないと思うんだ」

 本気でこいつ大丈夫か、とでも言いたげな顔で見られる。

「まあ、いいや。今日のところは」

 言いながら京介は立ち上がり、

「とにかく! 俺は先に帰るからな。ちゃんと仲直りしてから帰って来るんだぞ」

 そうして後ろを向く京介を、

「ちょっと待て」

 隆二は引き止めた。なにもいわず京介が振り返る。顔になんだよお前、と書いてある。

「金がない、貸して」

 その、なんだよお前という顔に右手を突きつけた。

「花買ったからあと千円しかない」

 それでは帰れないことぐらい、さすがの隆二でもわかる。

「はぁ? なんで遠出するってわかってるのにそれぐらいしかもってないんだよお前はッ! 貸してって言うのは返すあてがあるときだけにしろっ!」

「じゃあ頂戴」

「子供かッ!」

 言いながらも京介は、財布からお札を抜き出し、隆二に手渡した。

「新幹線の切符買えるか? 無理だよな。わかんなかったら駅員に聞け。それならできるよな?」

 じゃあな、と京介は振り返り、

「京介」

「まだなんかあるのかよ」

 うんざりと振り向く。

「鍵。もってないだろ」

 そこにポケットから出した鍵を投げた。

「家、入れないだろ」

 当たり前の事実を指摘しながら告げると、

「お前がいつまでたっても合鍵作らないからだろ!」

 苛立ったように一度足を踏み鳴らし、京介が怒鳴る。

「帰りが遅くなっても、起きて待ってるなんてしないからな! 外に居ろ! 寧ろ野たれ死ね! この唐変木っ!」

 とんでもない罵倒だった。あいつ何をあんなにかりかり怒ってるんだ? カルシウム足りないんじゃないか?

 ずんずんとやけに早足で遠ざかって行く背中を見ながら思う。まあ、心配してくれているんだろうな、と好意的に解釈し、隆二はベンチに腰を下ろした。

 丸まっているマオの頭を撫で、少し考えてからそっと自分の膝の上にその頭を載せた。まあ、これぐらいのことは、しても罰が当たらないだろう。

 真っ昼間から男二人が怒鳴り合っていたからか、公園の人影はめっきり減っている。遊んでいた子どもには悪いことをしたな、とちょっとだけ反省した。



「なら、俺と一緒に居る?」

 真面目な顔で京介に言われて、マオは面食らった。

『へ?』

「隆二と一緒に居られないなら。俺と一緒に居る?」

 言われた言葉をゆっくりと吟味する。

 確かに京介はマオのことが見えて、マオに触れる。隆二と同じだ。それに、隆二より優しいし、隆二と違って外で話しかけても怒らないし、疑心暗鬼ミチコのことも詳しいから話していて楽しい。

 だけど、

『……でも、隆二じゃなきゃ嫌だ』

 いつも冷たくて話しかけてもあんまり構ってくれないし、ましてや外で話しかけると無視するし、すぐにバカにしてくるけど、

『隆二の方がいい』

 違う。

『隆二じゃなきゃ、意味がない』

「……だよね」

 京介は困ったように笑い、マオの頭を軽く撫でた。

「そうかなとは思ったけど」

『ごめんなさい』

 せっかく、優しくしてくれたのに。

「ううん。マオちゃんが隆二のこと好きなのは、知ってるから」

『うん』

 そうだ。マオにとって隆二は特別なのだ。特別に大切な人で、ずっと一緒に居たい。隆二じゃなきゃ駄目だから、一緒に居られないかもしれないことが、こんなにも悲しい。

『……帰りたいな』

 居候猫でいいから、またあの家に置いていて欲しい。

 目を閉じる。感情がぐるぐると回っていて気持ち悪い。さっきみたいな顔をマオに向けてくれなくてもいい。構ってくれなくてもいい。本当はもうちょっと構って欲しいけど。でも、構ってくれなくてもいい。困らせないように頑張る。だから、また、一緒に暮らしたい。

 ぐるぐる回った感情と一緒に、気づいたら眠ってしまっていたらしい。目を開けると、空が見えた。それから、

「おはよ」

 つまらなさそうに呟く隆二の顔。

 よく見たら、膝枕されていた。

『ふぇっ』

 奇声をあげて飛び起きた。



 勢い良く飛び起き、距離をとる居候猫を見て、少し胸が痛んだ。そんな怯えんでも。

『りゅ、りゅ、隆二?』

 声が裏返っている。

『な、なんで。あれ、京介さんは?』

 事態が理解できないとでも言いたげに、きょろきょろ視線をさまよわす。

「帰った」

『え、あ、そうなの?』

「とりあえず、落ち着け」

 言って隣を指さすと、マオは恐る恐る隣に腰掛けた。いつもより、隆二との距離があいている。

『隆二。……あの人は?』

「いったよ」

 できるだけ何事もないように答える。

『え?』

「成仏ってやつ」

『え、だって、一緒に居無くていいの?』

「幽霊は成仏した方が良いだろう」

 言って、マオを見て少しだけ笑う。

「お前は違うけど。マオは、俺と同じだろ?」

『……そう、同じ穴の狢なの』

 少しの沈黙のあと、マオがそう呟いた。

「心配しなくても、マオのこと放り出したりしないよ」

 軽く手の甲で頭を叩くと、

『なっ、なんか、京介さんから、聞いたのっ!』

 真っ赤になって慌て出した。ああ、秘密にしておいて欲しいことだったのか。

「いや、別に。心配してんのかなーと思って」

『してないしっ! 別に平気だし!』

 体の横で握りこぶしを作って叫ぶ。叫んでから、

『……ちょっと寂しかっただけだし』

 小声で付け足した。それに少し笑みがこぼれる。

『なんで笑うのっ』

 見咎められた。

「別に」

 言いながら頭を撫でる。マオは小さくなんか言っていたものの、手をふり払ったりしなかった。

「マオ」

『ん?』

「今日は、ついて来てくれてありがとな」

『……ん』

 マオが小さく頷く。

「おかげですっきりした」

『……それはよかった』

 マオの返答は、まだちょっとひねくれたような言い方だったが、顔は少し笑っていたからきっともう平気だろう。拗ねたフリをしているけれども、隠し事の出来ない彼女のことだ。少し笑っているその顔が、今の心境の正解だ。

「……なあ、マオ、一つだけ、聞いてもいいか?」

 撫でていた手を離して尋ねる。

『な、なに。あたし別に泣きわめいたりしてないからねっ』

 聞いてないのにあっさり自白する。ほら、嘘がつけない。

「泣きわめいた?」

 ちょっとからかってみると、

『例えばの話ですっ!』

 怒鳴られた。

 茜に言った、可愛いし見ていて飽きないというのは本当だ。茜も対外感情が顔に出るタイプだったが、その比ではない。感情が顔に駄々漏れで、隆二には予測不可能なことばかりする。マオが来てから、毎日が本当に刺激的で楽しい。

 でも今は、からかって遊んでいる場合じゃない。

「まあ、マオが泣きわめいたかどうかはともかく」

『泣いてないからっ!』

「マオは、俺の過去の名前、気にならないのか?」

 いつか、京介が来た日にした会話を思い出しながら問いかける。

 泣いてないっと怒鳴った顔のまま、次の抗議のため身構えていたマオは、投げかけられた質問が理解出来なかったのか、きょとんっとした顔をした。

『へ?』

「だから、名前。京介が来た時に話しただろう。神山隆二になったきっかけ」

 マオは少し考えるような沈黙の後、

『ならないよぉ?』

 当然のような顔をして笑った。

『だって隆二は隆二だもん。あたしにとって隆二は出会った時から隆二で、今でも隆二だもん』

 それからちょっと眉をひそめて、

『……隆二にとっても、あたしはマオだよね?』

 伺うように尋ねてくる。その意味をしばらく考えて、

「ああ。マオはマオだよ」

 一つ頷いた。G016なんていう番号は知らない。マオはマオだ。きっと、そういうことだろう。

 マオは満足そうに一つ頷き、

『ん! だから隆二も隆二!』

 そう、断言する。

「……うん、ありがとう」

 酷い質問だと、思わなくもない。ここに京介がいたら、罵倒されたことだろう。だけど、これからもマオといるためには必要な質問だと思った。マオと一緒にいても、茜との約束を破らないと、今度こそ破らないという確信が欲しかった。

『あたしは隆二と居られればそれでいいの』

 機嫌を直したのか、自分の中でなにか折り合いをつけたのか、マオはいつもより少し広くとっていた距離をつめ、隆二に抱きついた。

 それを素直に受け止め、隆二はマオに笑いかけた。

「帰ろう、うちに」

 茜への罪の意識が完全になくなったとは言えない。でも軽くなった今なら、以前よりも素直に帰ろうと言える。今なら、マオとちゃんと向き合える。マオと二人の暮らしを、ちゃんと考えていける。

「そうしてまた、あの赤いソファーに座って、二人でだらだらとテレビでも見よう」

 あの赤いソファーは、やっぱり一人には大き過ぎるから。

 マオはぱぁっと満面の笑みを浮かべると、

『うんっ』

 大きく頷いた。

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