第1幕 13話

「……次から次へとおかしなやつらが出てくるな……」

 三人が去った後、まず出てきた言葉がそれだった。

「向坂郁……調べないといけないっスね。あいつは手強そうな気が……」

「……そうだな」

 自分でああ言うからには、きっとそれなりの実力者なのだろう。

「……そろそろ帰るか」

 すっかり遅くなってしまった。

 じきに日も落ちるだろう。

「おーい! 睦月ー!」

 そう思っていると、突如俺の名が呼ばれてビクッとする。

 い、今の声……まさか……

「ここ、ここー!」

 焦りながらキョロキョロしていると、土手の上にいる人が目に入った。

 なっ……

「ナナ君……!?」

 なぜここに!?

 仕事帰りなのは見てわかるが、動揺のあまりそんな冷静さは失っていた。

「そこで何やってんだ? その二人はお前の友だちか? いつも睦月が――……」

「あーっ! 待て待て! そういうのいいから!!」

 全力ダッシュで土手を駆け上がり、ナナ君に体当たりをした。

「いってぇ! 何てことをするんだ!」

「挨拶とかされても、あいつらも困るって!」

「でも、お前……」

「いいから、いいから! じゃあ! また明日!」

 呆気にとられている二人に早口でそう言い、俺はナナ君の背中を押して早々にその場を離れた。

「おい、睦月。駄目じゃねぇか。お前が世話になってるんだから、友達にもちゃんと俺から挨拶をだな……」

「わかった。わかったから。説教はいくらでも聞くから、それだけは勘弁してくれ。恥ずかしいし」

「は、恥ずかしい……!?」

 あ、ヤバい。本音が出てしまった。

 ナナ君の表情は明らかにショックを受けている。

 漫画だったら間違いなく『ガーン』と、書かれているだろう。

「恥ずかしい……睦月が俺のことを……」

「いや、あの。そうじゃなくて」

「睦月がとうとう反抗期にっ……!」

「そういうのやめろって!!」

 面倒な人だな!

「……冗談だよ。ちょっと言ってみたかっただけ」

「……あ、そう……」

 何だったんだ。このやりとり。

「でも俺、お前に友達がいるとわかって安心したよ」

 ……そんなにボッチに見えるか、俺は。

 好き好んで人を避けてきたとはいえ、そう言われると少しショックな気もする。

だが。

「ナナ君がいれば友達なんてどうでもいいよ、俺は」

「お前なぁ……」

 呆れた顔で、ナナ君は俺の頭を髪がぐしゃぐしゃになるくらい激しくなでた。

「バカなこと言ってないで、今いる友だちはちゃんと大切にしろよ」

「……わかってる」

「ちゃんと弁当は残さず食ってるか? 食べないと大きくなれないぞ」

「食べてるよ……って、ガキ扱いすんじゃねぇよ。もういくつだと思ってたんだ」

 未だに幼い子どものように思われているのではないかと、時々不安になる。

「ごめんごめん。お前ももう高校生だもんな。悪かった」

「……。」

 怪しいな……

「さぁ! 今日の夕飯は何にしようか? スーパー寄って帰るか! 平日のこの時間に、こうやって一緒にいられるのは珍しいからな」

「……そうだな」

 この人といると、自然と笑みがこぼれる。

 ナナ君。

 やっぱり俺、あんたといられるなら友だちとかどうでもいいよ。

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