第1幕 5話

 こうなったらもう……腹をくくってやるしかないのか。

 校庭にはゾンビがうじゃうじゃといる。

 俺が何とかしなければ、こいつらは……

 正義の味方なんて柄ではないが。

 言っている場合ではない。

 無意識のうちに俺は、フェンスから身を乗り出し下へ向かって飛び降りていた。

「リーダー!」

 二人の悲鳴が聞こえてくる。

 普通に考えてそんなことをすれば間違いなくあの世行きだが、綺麗に着地することができた。

 その理由を考えることより、自分以外皆敵というこの状況をどうにかする方法を考えるのが先決である。

 ゾンビ達が俺に気がつき、こちらへ向かってきた。

 まずい。

「攻撃だ! アマリリス、お前の力を見せつけてやるんだ!」

 完全に観覧者と化した魔女の声が、遠くから聞こえてくる。

 俺の持つ……力……

「そうだ! 今こそ使うんだ!」

 魔女がそう叫んだのと同時に、俺は襲ってきたゾンビを殴り飛ばした。

「……物理攻撃!?」

 なぜか驚いている魔女。

 構わず俺は他のゾンビも殴っていく。

「待て待て待て! 殴るって! ちょっと!」

「何なんだよ、さっきから! こっちは戦ってんだ!」

 敵を倒しながら、俺は怒鳴る。

「アマリリス! お前はそれでも魔法少女か!?」

「少女じゃねーし!」

「せっかく力に目覚めたというのに……! 殴るとは! なんて野蛮な! 不良か!」

 ごちゃごちゃうるせぇ!

 俺は魔女を無視することにした。

「ええい! まどろっこしい! お前には魔法があるだろう!!」

「ぎゃーっ!!」

 するとなぜか、あの二人の悲鳴が聞こえてきて、顔を上げる。

 二人……いや、二匹がこちらに向かって屋上から降ってくるではないか。

 反応が遅れた俺は、顔面で二人を受け止めることとなった。

「ぎゃあっ!」

「いってぇ!」

 痛いのはこっちだっつーの。

 一体何なんだ。

「うわああぁぁ! ゾンビに囲まれたぁ!」

 ウッシーが俺の足にしがみつく。

 お前はそれでも不良か。

「ア、アマリリス! これを!」

 アザミンが物騒な物を渡してきた。

 剣だ。

 その小さい体でよくこんな物を持てるな……というツッコミはさておき。

 衣装と同じピンク色で可愛らしく装飾されているとはいえ、剣は剣だ。

 魔法少女に相応しくないのでは。

 色々と文句はあるが、ひとまず受け取る。

「あわわわわ……」

 アザミンも俺の陰に隠れる。

 ……こいつら……

 まぁ、いい。

 ひとまずこの場を何とかしなくては。

 剣なんてもちろん扱ったことなどないが、体が勝手に構えていた。

 これはあれか?

 呪文とか唱える感じなのか?

 ――ええい、考えている間などない! ままよ!

 俺は剣を大きく一振りした。

 一番近くにいたやつを目がけて切ったつもりだが……

 波紋を描くように風が吹き荒れ、校庭にいたゾンビ達は次々に倒れていった。

「……」

 呆気にとられる俺達。

 ただ、一つ。

 わかったことは。

「チートかよ!!」

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