第1幕 11話
人目もあるし、俺たちは河川敷へ向かった。
「リーダー。ここは俺らに任せてください」
なぜかマスコット二人が前に出る。
「ちょっと待て……。お前らはマスコットだろうが」
「今回のは魔法少女絡みじゃないんでしょ? だったら俺たちが殺ってもいいんじゃねぇの?」
「うーん……」
その辺の線引きが実に曖昧だ。
「リーダー、よく考えてみなよ。今のリーダーが戦ったところでポイントにならないんだぜ。一人だし。無駄に体力使うだけだって」
ウッシーがまともなことを言い出した。
「おうおう! 何でもかかってこいよ!」
嬉しそうに、双葉は素振りをしだす。
……ん?
俺たちは首をかしげた。
「……バット?」
何でこいつ、バット持ってんの?
「あの……すみません、それ……」
「何だ? 俺の愛バットがどうかしたのか?」
愛バットって何だ。
「素手じゃねぇの?」
「え? 誰が丸腰で戦うっつった?」
それはそれは、素晴らしいほど爽やかな笑顔だった。
「正々堂々と勝負しろやぁぁぁ!!!」
ツッコミが追いつかなくなり、冷静さを失ったアザミンが殴りにかかった。
アザミンの奇襲をものともせず、双葉はヒラリとかわしていく。
こいつも弱いわけではないんだよな……
昼間はあんな負け方したけど。
俺は温かい目で戦いの行く末を見守る。
アザミンの方も、振りかざされるバットをかわすにかわし、殴られるのを今のところは回避している。
あんなもん、打ち所が悪ければ即死だな。
命がけの戦いをしているな……と、超他人事のように見つめる俺だった。
「おいおい、そんな体に見合ってねぇ大きさのもん振り回して、そろそろ疲れてきたんじゃねぇのかァ!?」
そういう自分こそ息切れしつつも、笑っているアザミンの方が悪役っぽく見えるのは気のせいか。
「そっちこそ息が上がってるぜ? 年齢的にキツいんじゃねぇの?」
「一つしか違わねぇだろーがぁぁぁ!!!」
ブチ切れたアザミンが拳を突き出す。
それに対抗し、双葉も思いっきりバットを振った。
しかし、見事に空振りし、双葉の体はよろめく。
バットの頭が下を向いたその隙を狙って、アザミンはそれを蹴り飛ばした。
「もっと俺を楽しませてくれぇぇぇ!!」
一方、アザミンはイカれた殺人鬼のようなことを叫んで、さらに殴りにかかる。
お前が一番悪人面してるじゃねぇか。
武器を失った双葉も、拳を固める。
夕日を背景に、河原で拳を交わす男子高校生。
どこの青春漫画だ。
「――ちょっと待ったぁ!」
そんな男二人の決闘に、待ったをかける者がいた。
先程より言葉を発していなかった、ウッシーだ。
「これを見ろ!」
言われた通りに見ると、ウッシーが月影を人質に取っていた。
「なっ……! ふざけんなっ! そいつを離せ!」
「おっと動くなよ!」
助けに行こうとした双葉だが、ウッシーが月影の喉元にキラリと光る何かを押しつけたのを見て立ち止まる。
あれは、まさか……!
俺は目をよくこらす。
ステンレスの……定規……だと……!?
一体そんな物で何ができるというんだ……!?
「近づいたらこいつの命はない……わかっているな?」
「くっ……! 卑怯な!」
……何だこれ。
茶番か?
「卑怯? ククク……笑わせるぜ。戦いに卑怯もくそもあるかよ!」
どっちが悪役かわかねぇ台詞だな!
「こいつを無事に返してほしくば、認めろ! 負けをな!」
……言っていることが小せぇ。
人質も心底どうでもいいって顔しているし……
――こいつらが楽しいならそれでいいか……
「ちくしょおおぉぉっ!」
跪く、双葉。
アザミンとウッシーは悪い顔をしている。
人質は眠そうだ。
「残念だったなぁ。一年坊主。これが現実ってやつさ。」
「もういっぺんお勉強して、出直してきな!」
下品に笑い合う二人。
地面を殴りつけ、悔しがる双葉。
……しかし。
「――こんな所で終わってたまるかァァァ!!!」
まだヤツの目は死んでいなかった。
あれ。何かこいつの方が主人公っぽいな。
「こいつ! 状況わかってんのか!?」
「おい! 人質がどーなってもいいのか!?」
焦り出す二人。
「うおぉぉぉぉっ!!」
アザミンを無視し、双葉はウッシー目がけて走って行く。
「ぎゃあっ! こっちに来るなぁぁ!」
「止まれ! テメェ!」
ウッシーは慌てふためき、アザミンは双葉の後を追う。
その、慌てたウッシーは自分の背後に月影を隠そうとしたが、勢い余って押すような形となってしまった。
月影もまさか、そんなに強く押されるとは思ってもみなかっただろう。
バランスを崩した体はある方向へと倒れていく。
「やべっ」と、ウッシーは言った。
その先は、そう。
川だったからだ。
水遊びにはまだ早い時期だ。
「――咲ッッ!」
誰よりも先に、双葉が手を伸ばした。
月影も差し出された手をつかむために、腕を伸ばす。
間一髪のところで、両者の手が繋がり合い、俺たちは安堵の息を漏らしたが。
それも束の間。
「……あ」
双葉の足は、すでに地にはついていなかった。
数秒後、激しい水しぶきがあがった。
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