第1幕 10話

 今日一日、無駄に疲れた。

 これからこんな日々が続いていくのか。

 ……先が思いやられる。

「リーダー。これからどうしましょうか。一位目指すなら、癪だけど誰かの力を借りなきゃいけないし」

「んあー……」

 放課後。

 アザミンの問いにも生返事で返してしまう。

「魔法少女って、そんなに沢山いんの?」

 ウッシーの素朴な疑問に、ああ。と、アザミンは答える。

「正確な数は把握できていないが。こうやってランキングを付けるほどにはいるらしい」

「ほえー」

「だから数としては、フラッシュフィッシュのほうが圧倒的に少ない」

 ……それ、可哀想だな……

「何人いんの?」

「うちの学校に各学年五人ずつ。」

 全部で十五人。

「少なっ! 十五人で回してんの? 大変だなぁ」

 鬼畜シフトになるな……

 さすがに同情するぜ。

「余計なお世話だっつーの」

 背後でそんな声がして、振り向く。

 例の双葉璃紅とやらが、仁王立ちでそこにいた。

 隣には、あの忍者キャラもいる。

 げぇ……

 本日二回目のご登場かよ。

「昼間のリベンジだ!」

 向こうはやる気満々だが、俺は帰る気満々だ。

「……相方さんは非常に眠そうですけど」

「寝起きなだけだ!」

 起こしてやるなよ……

「勝負しろ! アマリリス! お前のことは聞いているぞ。」

「……何を?」

 それ、昼にも言ってなかったか?

「雨宮睦月。二年。成績優秀で一目置かれる存在だが、常に近寄りがたいオーラを放っている一匹狼。しかし、最近は学校の問題児、日傘薊ひがさあざみ合羽潮あいばうしおを従えている。その裏には、二人の抗争を止めたという話もある」

 ……本名まで知られてるってわけか。

 俺だけではなく、この不良たちのことも。

「よく知ってんじゃねぇか。ストーカーか?」

「敵のことを知っておくのは、当然のことだろうが」

 淡々と忍者は返す。

「つまり俺が言いたいことはだな」

 さっきはあっさり負けたというのに、双葉の顔はえらく自身に満ちあふれていた。

「別に魔法少女の力なんざ借りなくとも、アンタは強いってことだ! 俺は純粋にその強さに興味がある!」

「……イカれてんのか」

 こいつ、ただのケンカ狂か。

 そこら変のヤンキーより質が悪いぞ。

「俺とケンカしようってか……。よーくわかった。で、相方さんはどうすんだよ」

「相方言うな」

 間髪を容れずに訂正が入った。

「……やりたきゃ勝手に殴り合いでもなんでもすればいい。敵としてなら俺も参加せざるを得ないが、私闘なら帰って寝る。」

「お前一日のほとんど寝てるじゃねぇか!」

 ツッコんだのと同時に、双葉は胸ぐらを掴まれた。

「うるせぇんだよ。ポイントにならない戦いをしたって、体力を無駄にするだけだろーが」

「す、すんません……」

 月影は盛大に舌打ちをして、乱暴に手を離した。

 仲いいのか、悪いのか……

「早く帰るつもりだったのに、巻き込みやがって。この単細胞が」

「さっちゃんひっど……」

 “さっちゃん”呼びが気に入らないらしく、無言で月影は双葉の足を蹴った。

「やるならさっさとしろ。ただし、俺は観戦するだけだ」

 観戦する気もねぇだろ、こいつ。

「んなこと言って、勝てる自信がねぇだけだろ」

 煽ってやると、バカみたいに噛み付いてはこなかったが、にらまれた。

「おい……あんなわかりやすい挑発に乗るなよ」

「……わかってるっつーの」

 意外にも双葉に諭されている。

 すました顔をしているわりには、案外短気なのかもな。

「お前がやられたら、仇は討ってやる」

「誰が負けるかってぇの!」

 ……昼は負けたくせに……

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