第1幕 3話

 何だ……こいつ……

「出たな……!」

 魔女は警戒した様子になる。

「危機的事態を理解できないお坊ちゃんには、現実を見ないとわからないらしい」

 すげぇ悪役っぽいセリフを言っているのに……

「まァ、見とけ。今この世界がいかに危ういかを」

 なんてダルそうなんだ!

 セリフと態度があっていない!

「おいコラ……まさかとは思うが……」

 俺は魔女に言った。

「ああ、お前の思っている通りだ。そいつがフラッシュフィッシュ……No.1の中ノ条重虎なかのじょうしげとらだ」

「どうも~」

 呑気に中ノ条は手をふった。

「№1……? ということは」

「フラッシュフィッシュを取り仕切る、言わばボスだ」

 いきなりラスボス自らのお出ましかよ――……!

 いいのか、それでいいのか!?

「よ~し、それじゃあいっちょやったるかぁ……」

 とは言うが、中ノ条が起きる気配はない。

「おい……テメェやる気あんのか?」

 金髪が尋ねる。

「うーん……めんどくせぇから他のやつに任せるしィ……」

 ズッコケそうになった。

 やる気ねぇじゃん、こいつ。

「ほらほら……見てみ? 運動場を」

 フラフラと人差し指でさすので、俺たちはもう一度グラウンドの方を見下ろした。

「な、何だ、アレ!」

 前髪が驚いた声を上げる。

 さっきまで石化していた生徒たちが……動き回っていた。

 正常に、ではない。

 その目に理性はなく。

 もはや、あれは。

「ゾンビみてぇ……」

 金髪の言う通りだ。

 映画なんかでよく見る……そんな感じだ。

 でも、待てよ。

「石のまんまのやつもいるじゃねぇか……」

 みんながみんなゾンビ化、というわけでもなかった。

 一体何がしたいんだ……?

「――ああっ!!」

 二人が声を上げた。

 ゾンビたちが石になっているやつを襲い始めたのだ。

 これって、まずいのでは……

「俺らと違って、ああなったやつらに理性はない……問答無用で罪のない人々を襲うぞォ~」

「……あの石は破壊されたらどうなる」

「うーん、見たまんまだよネ。それでその人は終わり」

つまりは。

その人の命はそこまでってことか……?

ありかよ、そんなの……!

「――さァ、どうする?」

 妙に引っ掛かる物言いだった。

「お前に選択肢はないぞ! アマリリス! 人類の危機だ! 戦え!」

 ここぞとばかりに叫ぶ魔女。

「アマリリス?」

 二人が首をかしげる。

俺だってなんのことかわからない。

 「受け取れ!」

 すると、魔女が何かを投げ寄こしてきた。

 ……ピアス?

 それも……ピンク色の花の形をした。

 女物じゃあ……

 これをどうしろと。

 眉をひそめていると、突然、まばゆい光に俺は包みこまれた。

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