第2幕 5話
「わーっ!」という、二つの声が聞こえ、風は止んだ。
俺たちには何の害もなかったが……
「助けてー!」
やつらのマスコット二匹が、水溜りに落ちてもがいていた。
「一日さん!」
「いまりーん! 助けてー!」
二匹はどんどん遠くへ流されていく。
「九龍……! お前っ……!」
涼白流菜をつかんだまま、九龍をにらみつける。
「あいつらを人質に取ったからって、俺らが焦るとでも思ったか!? 死ぬほどどうでもいいわ!」
何だって?
「ひでぇ! 鬼かよ!」
「ハチぃ! 見損なったぞぉー!」
叫ぶマスコットたち。
「ありゃ。俺の読み外れた?」
あはは。と、九龍は呑気に笑う。
「俺もそれっぽく叫んでみたが、正直一日さんたちがどうなろうと興味ない……」
溺れるマスコットたちを見下ろし、赤いやつがボソッとつぶやく。
「いまりんまで俺たちを裏切るのか!」
「ひどい! 信じてたのに!」
……本当にこんなやつらが二位……?
「いや、本当ッスからね!」
俺の疑いの目を見て、アザミンが慌てたように言った。
「……でもまぁ、死なれても後味悪いんで」
そうつぶやき、飛び込みの選手のように赤いやつは水の中へと消えていった。
「
さすがにこれには焦ったようで、相方は涼白を手放した。
「いってぇ!」と、涼白はしりもちをつく。
「椿君は期待を裏切らないねぇ」
九龍は相変わらずニコニコしたままである。
どこまでも不気味なやつだ。
「
「うるせぇ! さっきまで泣いてたくせにもう復活かよ!」
手すりに足をかけ、まだギリギリ顔をのぞかせている倉庫の平たい屋根に飛び移った。
そして、マスコット二匹を抱え流されてきた赤いやつを引き上げた。
「ありがとうございます、先輩……」
「いきなり飛び込むなよ。ビックリするじゃねぇか」
「すみません」
二人がそんなやりとりをしている一方で、さっきまで泣いてたのが嘘のように、涼白が吠えていた。
「なんかわかんないけど、ムカついてきた! 勝負しろ!」
「あんた本当何なんだよ! 自分勝手だな!」
「お前に言われたくねぇわ!」
完全に俺たちは蚊帳の外だな……
わりと本気で帰りたい。
しかし、水は退いていないしな……
「今日という今日は再起不能にしてやらぁ。もう二度と俺にケンカをふっかけられないようにな!」
「やれるもんならやってみろ!」
何やら二人でケンカを始める。
何でもいいからこの洪水おさめろよ。
「アマリリス、あいつがいないぞ!」
ウッシーが俺の服を引っ張る。
あいつ……?
見ると、さっきまで近くにいた九龍雷火の姿が消えていた。
どこに行ったのかとキョロキョロすると、隣の校舎の屋上へ移っていた。
いつの間に……
「……何しているんだ? あいつ」
涼白の友人とかいう男子生徒の石像の前に立っている。
「全く……大人しく友だちのままでいればよかったものの……」
やつの右手に炎が灯される。
何をする気だ!?
慌てて止めに行こうとするが、どう見ても間に合わない。
あいつは、危険だ。
直感でわかる。
何とかしなければ――……!
反射的に体が動き、やつに向かって手を伸ばしたときだった。
「――バカな真似はやめろ」
バシャッと、九龍に大量の水が降り注いだ。
「……椿君」
バケツを持った、赤いやつが肩息をして立っていた。
……どこから持ってきた?
「どういうつもりだ。私情を挟むのはそちら側も禁止されているはずだが」
「アハ。……そうだったね。あまりにもこの人が目障りなもので、つい」
ヘラッと、石になった人を指さしながら、やつは笑った。
「ただでさえ先輩の友達だからって、一番近くにいて邪魔だったっていうのに、それが恋愛感情に切り替わったって? 目障りなことこの上ないよね。許されるならこの力で消し去りたいところだ」
本気だ。
マジで言ってやがる、こいつ。
目が笑っていない。
その目を見て寒気を感じてしまった。
「……貴様の思考は、やはり危険だ」
「どこが? 誰だって自分のものを奪われたら、気分悪いじゃん」
「涼白さんはものじゃない」
「わかっているよ、そんなこと」
「九龍雷火、いい加減自覚しろ。お前のそれは――……」
赤いやつの言葉が途中で切れる。
「うわーっ!」という叫び声と共に、何かが飛んできたからだ。
そして、その何かは九龍にぶつかり、やつは倒れた。
「いたたたた……って、先輩!?」
九龍の上に乗っかっているのは、涼白だった。
「相変わらず口ほどでもねーな」
赤いやつの相方、青い方が見ると仁王立ちしていた。
どうやら、涼白を倒したのはこいつのようだ。
「あらま……またやられちゃいましたか。俺たちの負けですね」
「何つまらねぇことを言ってやがる。テメェはピンピンしているだろうが」
冷たい目で、青いやつは九龍を見下ろす。
「えー、見てくださいよ。俺、こんなにびしょ濡れなんですよ? これはもう負けでしょ。湿ってちゃあ、火も雷も駄目だ。それに」
九龍は、涼白を大事なものを扱うように、そっと抱き上げた。
「先輩より先に俺があなた方を倒してしまっては、先輩が悲しむでしょう?」
「……ハッ。くそガキが」
絶対的自信。
優勝候補を倒せるというその確証は、どこから得られるのか。
「それではこの辺で。アマリリスさんもまたいずれお会いしましょう」
そう言ってやつは、普通に屋上から出て行った。
水は、いつの間にか退いていた。
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