第2幕 4話

 一瞬、泣き声が止む。

 同時に雨も止んだ。

 涼白はゆっくりと背後を振り返り、叩いた自分物を見て、

「――うわぁぁぁぁん! ぶったああぁぁ!!」

 再び泣き始めた。

 雨もドシャ降りに戻る。

「子どもかっ! 高三にもなって恥ずかしくないのか!?」

 泣き止むと思っていたのか、そいつは少し焦ったような素振りを見せる。

「先輩……可愛い……」

 そしてこちらの一年はそんな無様な先輩の姿を見て、勝手に一人でときめいているのだった。

「おいコラァ! 九龍くりゅう! そこで見てないでテメェも止めろよ!」

 この距離で聞こえていたのか、ヒラヒラ衣装の男子はこちらを指差し吠える。

「……アザミン、あいつは」

「あわわ……あれは、マジカル・ビューティー・フラワーズの……」

 アザミンは何やら震えている。

「それは何だ。一位のやつか」

「違う! 今年に入って、突如現れた二人組だ! 一位の座を奪うかもしれないと言われている!」

 つまりは……

「強いよね、あの人は」

 九龍と呼ばれたその男子が代弁するかのように、俺の顔を見て言った。

「聞いてんのか! 九龍雷火らいか! ヘラヘラしてないで何とかしろ! テメェの先輩だろ!」

 強いと専ら噂のその人は、まだこちらに向かって怒鳴っていた。

「嫌ですよ。俺は先輩が泣いてても可愛いと思えるんで!」

「そんなことは聞いてねぇ! いつにも増してキモいな!」

 というか、いつもキモいのか。

 何だろう…イケメンの変態ほど残念なものってないな……

「友だちだと思っていた人に告白され、裏切りと感じて、涙が止まらない先輩……最高じゃないですか!」

 何が最高なのか全くわかんねぇよ。

「――ぐだぐだ言ってないで、何でもいいからさっさと先輩の言うことを聞け」

 熱く語る九龍の後ろで、冷ややかな殺気を放つ者がいつの間にか立っていた。

 これまた魔法少女なのか、赤系統のヒラヒラ衣装を身にまとい、両肩にはマスコットキャラがそれぞれ乗っていた。

「……ああ、いたんだ。椿つばき君」

 九龍は振り返りもせずに言った。

「当然だろう。先輩がいて俺がいないわけがない」

 どいつもこいつも先輩って……

 こいつは、向こうのエリアにいるやつの後輩なのだろうか。

「伊万里、もういいぜ。そんな変態に助けを求めた俺がバカだった」

 そんな声が聞こえてきたので見ると、涼白流菜は首根っこを捕まれ、屋上から落とされそうになっていた。

 ……とても魔法少女のすることとは思えない……

「ぎゃああぁぁっ! 離せえええっ! 死ぬぅぅ!」

「死にやしねぇよ。ただちょっと溺れるだけっすよ」

「死ぬわ!!」

 バタバタともがくその姿は、見ていてものすごく哀れだった。

「そうきますか……。じゃあこっちも考えがあります」

 ニコリと、九龍が微笑んだその瞬間。

 突風が吹き荒れた。

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