第1幕 8話

 いい感じにまとめたが、完全に納得したわけではない。

 不満がほとんどである。

 そこのところを忘れてもらっては困る。

 俺は乗り気ではない。決して。

「あっ何か来るような気がする」

 突如ウッシーが、何やら抽象的なことを言い出した。

「来るって何が……」

 アザミンが全てを言い終わる前に、周囲が暗くなる。

「こ、これはっ……!」

 それっぽいリアクションをするウッシー。

 おい……嘘だろ……

「ヒャッハー! 見つけたぜぇ! テメェが新顔かァ!?」

 どこからともなく奇声が聞こえてくる。

 見ると、給水タンクの上にうちの学校の制服を着用し、どこぞのヤンキーのようにバットを持った、やや小柄な男子が立っていた。

 ……こっちは羞恥度MAXな格好をさせられるというのに、こいつらは制服のままなんて……ずるくねぇか。

 早速不満が漏れる。

「へっへっへ。噂は聞いてるぜ。俺様と戦え! 新入りぃ!」

「あァ!? お前誰に向かって舐めた口きいてやがる!」

「俺らがテメェを潰してやろうかぁ?」

 真っ先に噛みついていく不良二人。

「やめろ、お前ら……」

 マスコットキャラ達を落ち着かせ、給水タンクの上のそいつを見上げる。

「ちょっと今飯食ってんだけど。後にしてくれないか。」

 言ったところで無駄だろうが。

 ……そういや昨日も昼休みに来られたような。

「何で!? 俺はもう食ったのに! いつまで食べてるんだよ!」

「テメェの都合なんざ知るかよ」

 自己中か。

「俺、次体育なんだよぉ! だから早く戦おうぜぇ~!」

「だから知るかよ!」

 だったら今来るなっつーの!

 こいつ、バカなの!?

「強いって聞いたら戦いたくなるじゃねぇか!」

「うわーっ!?」

 やつは俺たち目がけて飛び降りてきた。

 振り下ろされたバットを寸前のところでかわす。

 標的を失ったバットは地面に激しくぶつかり、鈍い音がした。

 あ……危ねぇー……

あんなもんで殴られたら死ぬって!

「何だよ。早く変身しろよぉ」

 唇を尖らせ、子どもみたいに拗ねた顔をする。

「まさかあの格好が恥ずかしいから、とか思ってんの!? はぁ。んなもん今更こっちは気にしてねぇよ」

 それも少しあるけど、制服のままでいいやつに言われると何か腹立つな!

「昼休み終わっちゃうじゃーん! 早く早くー!」

「うっせぇな! 高校生にもなって、ガキみたいに駄々こねてっ……」

俺の言葉が途中で止まる。

人の気配を背後で感じたからだ。

俺が振り向くのと、地面から人が現れ凶器的な物を振りかざしてきたがほぼ同時だった。

「――おわっ!?」

 間一髪のところで、それも避ける。

「チッ」

 そいつは舌打ちをした。

 え? 何? こいつ、地面から出てきた?

 いや、違う。

 地面じゃなくて、俺の影?

 いやいやいや。どっちにしてもおかしいって。

 人が影から出てくるなんて、そんな。忍者みたいな……

 忍者?

 俺はそいつをよく見てみた。

 なんかこいつ……忍者みたいな格好をしているというか……

 服装は制服なんだけれども。

 ほら、よく漫画とかに出てくる忍者って首にマフラー的な物を巻いてるじゃん?

 風なんて吹いていないのになびいてるじゃん?

 こいつがまさにそんな感じなんだよ。

「お前……今、忍者をディスっただろ」

 バレてるし。

「は? 何のこと?」

 とりあえずすっとぼけておく。

「ふん……まぁいい。忍の力、思い知らせてやる」

 うわー……こいつ、マジで忍者キャラなんだ。

 フラッシュフィッシュってこういう感じなの?

 ヤンキーもどきに忍者?

 痛いわー……

「……双葉。さっさと始末するぞ。またディスられてる気がする」

「え? そうなの? 俺らディスられてんの?」

 直感かよ。

 鋭いな。さすが忍者。

「でもさ、こいつ変身しようとしないんだぜ」

「ふん。さすがにここまで追い詰められたら、しないわけにもいかないだろ。」

 忍者君の言う通りなんだけどね。

 それよりもこれ、二対一じゃねぇか?

 昨日も一人でゾンビの大群を相手したけどさ。

 それとこれではまた訳が違うよな。

 こいらは一体……何番目くらいになるのだろうか。

「アマリリス! ここはもう戦うしかない!」

「力を見せつけてやるんだ!」

「……」

 お前らはいつの間にマスコットに変身したんだ?

 ……くそっ。やるしかないのか。

 戦ってもどうせこれは得点にはならないんだろう。

 そう思うと少しやる気が失せるけどな……

 ブレザーの右ポケットが、眩しく光り出す。

 例の変身するときに必要となるピアスだ。

 クリスタルフラワーという名称らしい。そのまんまだ。

 仕方なく耳に付けると、俺は光に包まれた。

「よっしゃあー! きたきたぁーっ!」

 バット野郎の喜ぶ声が聞こえる。

「いっけぇー! アマリリス!」

「いつもの台詞、言ってやれー!」

 ノリノリの二匹の声も聞こえてきた。

 変身用の光も止み、俺は……魔法少女アマリリスとなった。

 そして、大きく息を吸い込み……

「――長いから台詞は割愛!」

「ええ~っ!」

 二匹は盛大にずっこけた。

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