episode.21 魔力よ再び
森の中でお祖母様と睨み合いながら向き合う。呑み込まれそうになる静けさの中で頭を抱えながら苦しみ、唸るような声を響かせている。間違いなくリュシアン様と同じような状況下に置かれているのだろう。それにしても、ここに来てまでお
「うゔゔゔぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っぁ゙ぁ゙あゔ」
「お祖母様っ、お覚悟を」
今の私に武器もなく魔法を唱えることすら出来ない、使えるのはこの四肢のみ。お父様からは自身に次いでオーエンス家において武勲で名を挙げた人だとお祖母様を褒めていたのを覚えている。目の前にいるのは誰かの操り人形のような姿で、その鱗片を感じはしない。
《
お祖母様が放ってきた魔法は、圧縮された風のようで勢いよく向かってくるが体を捻って肩を掠める程度に済ませる。過ぎ去った風の砲弾は勢い衰える事なく飛び続け、後方の木に激しく衝突し薙ぎ倒していた。
「ぐっ」
痛みを押さえ込むようにして肩を掴む、掠めた程度ではあるものの抉られるような痛みが襲いかかる。これが直撃したらと思うと踏み出すのが躊躇われる、その証拠に先ほどから魔力を練り込んでいるのがここまで伝わってくるほどだった。
次の瞬間、吹き荒れるような空気の動きと共に先ほどと同じ魔法が立て続けに襲いかかってきた。今の私にそれらを防ぐすべはなく避け動くだけで精一杯だった。オルタナに当たらないように出来るだけ離れるようにして逃げ回る、お祖母様のその姿はまさに〝人間砲台〟といった所だろうか、国の兵器に聞いていた連射砲と同じに感じる。
「はぁっ、はぁっ……これは、前言撤回ね」
轟音とともに辺りの木々は抉れたように薙ぎ倒され、美しかった景色は変貌していた。このままでは防戦一方になると感じ、襲いかかる砲弾の嵐へと向かっていきながらその裂け目を探るようにして少しずつ距離を詰めていく、それでも全身が少しずつ抉られていくようで痛みに堪えながら、歯を食いしばり一歩ずつ一歩ずつ。
次第に詰まっていく距離にお祖母様の姿を捉えた、あと一歩踏み込めばこの拳が届く。全身に力を込めて腕を振りかぶり、地面を力強く踏み込む。
《
激しく立ち上がる暴風に私の拳が阻まれた、思わず手を引っ込めるが殴った拳から血が滴り落ちているがここまで近づけば関係ない、何度も何度も殴り続けるがこの壁は綻ぶ兆しすら見えずに、拳の痛みが次第に感じなくなっていくだけだった。
離れれば先ほどの砲撃が、近づけばこの壁。どうする事も出来ずに、ただただ憤りと焦りが募るばかりで魔法の使えないことがここまでの無力さを感じさせられると、何かを成すための力その意味が痛いほどに伝わる。今まさに、力のなさに苛まれている。
求めるは力、何かを成す力……。
力無き者は、何も成し得ない…。
これまで幾度となく聞いてきた声が私の中に響き渡る、今まではこの言葉に呑まれ自我を保てなくなっていた。それでも今だけは違うと言える、求めているものは変わらないが折角生きて再会したのだから、お祖母様を正気に戻したい。その先で私は
「熱っ」
全身を激流のように宵闇の魔力が暴れ回るのを感じ、熱を帯びながら止めどなく噴き上がるようだった。以前の感覚を思い出しながら意識を奥深くへと、そうして今度はしっかりと魔力を掴む感覚を感じ、右手の中へと収束していく。
「お祖母様っ、歯を食いしばってくださいね」
集めた魔力を次第に黒い炎へと換えていき、拳を燃え上がらせる。力強く握った拳を構え前を見据える、勢いよく放たれたそれは衝突した瞬間に、黒い炎が立ち昇るようにして包み込む。炎が消えると同時に、防壁は跡形もなく消えた。これで勝機は見えた、ここからは私の反撃だ。
私とお祖母様の魔法により木々が大きく揺れ、葉の擦れる音が大きく聞こえる。改めて対峙したが操られているとはいえ、その存在は大きく感じさせる。まだ苦しんでいるその姿からはお父様から聞いたディンズ家の魔法に抗っているようにも思えるが、そうでなければどれほどの脅威だったのかと、冷や汗が背中を伝う。呑み込まれるよりも先に、捕らえておきたい。
それに今は夜、私の時間だーー。
魔王の力は感じられないが、それでも今の私に出来る魔法はある。あの日の力を頼りに魔力を巡らせて、魔力の発現をイメージする。
《
私が二本指を立ててお祖母様に向けて指す、それと同時に地面から伸びた黒い腕が四肢を掴んで動きを捉えている。苦しんでいる隙であればこれで十分、それに少しだけ時間を作れれば魔力を練り詠唱を唱えれる。
振り払おうと苦しみながら暴れ回っているが、思うように力が入っていないのか簡単に振りほどけないでいた。その隙に少しだけ距離を取り手を合掌するようにして魔力を練り上げていく。
「
オルタナに言われていた事を思い出す、魔法とは元来形在るべきものではなく自由たれと。己が魔力を用いて起こしたい事象を詠唱にて唱え、それを魔法名にて形作るべきだと。私は、宵闇の魔法についてはそこまで教わっていないがこれが発現できれば、これからの戦術は一気に広がる。ぶつけ本番ではあるが、これぐらいでないと今のお祖母様を抑えることは出来ない。そう確信していたからこそ、唱えれる。
「ありがとうオルタナ……来なさい!《
唱えた瞬間、お祖母様の足下から竜巻のようなものが巻き起こり掴んでいた黒い手を全て引き千切ってしまった。私は変わらず手を合わしたまま魔力を解き放ったが何も反応はなく、静かな時間だけが流れた。
「もしかして……失敗?」
態勢を立て直したお祖母様が手をこちらに向け、自身の周りに風を集めるかのようで周囲の木々がざわつき始めていた。ここからは何も聞こえないが、先程とは違う魔法を唱えようとしている事は明白。躱すか迎え撃つか、考えがまとまらず魔法が定まらない。自由で強力な反面、突発的な状況には弱いなどと時すでに遅しだが思い知らされた。
「オルタナ、ごめん……」
お祖母様に集まる風が強くなってきた瞬間、それらの風を呑み込むようにして周囲を黒い炎が囲っていた。その炎は揺らめきながらも数本の黒い棒として形を成し始めていく。それらは勢いよく周囲を囲むようにして上に伸び始め、次第に甲高い金属音を打ち鳴らしながらも格子状に勢いよく形成されていく。
異常を感じたお祖母様はその場を離れてこちらに向かって走ってくる、私は迎え撃とうと構えを取る。だが、そんな事は関係ないかのように格子の牢は姿を現し開いたままの扉から数本の黒い腕が伸びる。それらはこちらに向かってくるお祖母様を掴み引きずり込もうとしていた。
「うっうぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙あああっあぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」
お祖母様の抵抗も虚しく、牢の中へと引きずり込み中に入った瞬間に扉は閉じられ見事に捕らえることに成功した。それを見た私は、魔法の発現と同時に無事に捕らえられた事に対して安堵する。それでも、
牢の中で魔法を何度も撃ち放ち壊そうとしているが、それも叶わないでいた。隙間から私に向かって撃とうとしていたが、全て黒い炎によって遮られる。それを見てようやく安心する、オルタナの言っていた通り魔法は自由なのだと。そうして目の前に近づき、手の届かない距離に立つ。
「お祖母様無駄です、先生には魔法の優劣と性質についてしっかりと教わりましたので」
「うがぁぁぁっ!!あぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ」
「先生に魔法について教わり、オルタナには自由に発現するほうほうについて教わりました」
「あぁ゙ぁ゙ぁ゙っあぁぁ………」
「これが今の私に出来る最大限です」
「あぁぁっ……」
変わらず魔法を一心不乱に撃ち続けたお祖母様は、糸が切れたようにしてその場に倒れてしまった。それと比例するようにして牢を覆うようにして黒い炎が激しく燃え上がっていた。この炎は熱を帯びることはなく、触れても熱くはない。が、牢の中にいる者の魔力を燃料に燃え上がるようになっている。
「魔力切れよ」
それを見た私もその場に倒れ込むようにして座る、どうやら思っていた以上に魔力を消費していたらしく全身から汗が吹き出し、力が入らずに震えていた。
「ははっ、こんな簡単なことだったなんて…ぐっ」
側で燃え上がる牢をみて思う、案外簡単な事だったなんて。それに気づけずに悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてくる、それでもひとたび踏み間違えば以前のように力に呑み込まれる事は間違いない。強力な反面、危険も伴うのがこの宵闇の魔力なのだろう。そのせいか先程から体の内側が激しい痛みが襲っていた、最初の魔法の時には感じなかったがこの牢は私の体を蝕むものなのだろう。その証拠に口中で鉄の味がし、血が伝うように落ちていった。
「私は誓う、あいつらに復讐をし、全てを元通りにさせる」
この力にどのような危険が伴おうとも、どれだけ体を蝕もうとも皆の苦しさ、死んでいったお父様を思えば辛くはない。それどころか、この身を犠牲にすれば出来ることは増えると知れたことが何よりだ。
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