episode.04 婚約者について
夜会の襲撃事件から数日が経過していた。その間、私は自室から出る事は禁止されており、一人部屋の中で行き場の無い気持ちを巡らせていた。
ため息すら誰にも届かず、置かれている現状にただ何も出来ず。ただ、毎日決まった時間に自室の扉がノックと共に開かれる。
「どうぞ」
「失礼します、エレナお嬢様」
中に入ってきたのはお父様の連れてきたメイドのアリサだった、彼女は食事と間食のティーセットを持ってきてくれて、この数日はアリサとしか言葉を交わしていない。
「アリサ、まだ私は自室から出れないのかしら」
「申し訳ございません、旦那様と奥様からの指示でございますので、どうか沙汰があるまでお待ち下さい」
「そう、ありがとう」
私も閉じ込められている理由を聞かされていない、正直な所あれだけ活躍したのだと思うのだけれど何の沙汰もないのは不思議だと感じる。まるで、誰かの思惑の中に絡め取られているかのような。
この日も食事以外の時間は読書にふけるか、魔法の鍛錬に費やしていた。部屋の中で出来る事といえば限られてくる。
「夜会の日も魔力切れであれ以上は動けなかったからね」
鍛錬の一環として私の課題である魔力燃費の悪さを克服するために、魔力を効率よく体内に循環させる。地面に座り落ち着く姿勢で体内の魔力に意識を向け、ゆっくりと動かし循環させる。
「うぐっ……」
流れが詰まったり悪くなると内から弾けようとする負荷がかかる、これに耐えるか負荷のないように緩やかに魔力を流していく必要がある。
「うぅっ……あっはぁっ」
抑えきれなかった魔力が溶け落ちて行くのを感じた、この鍛錬は昔から続けているが毎度あるラインから
「はぁーっ…はぁーっ……ふぅーっ」
気がつけば滝のような汗が流れていた、それだけ体にも負荷がかかっていたこのでしょう。耐えることも出来なければ、上手く流す事もできない。これでは強力な魔法の発現はおろか、発現したとしてもすぐに魔力切れに襲われる。
「お父様にアドバイスがもらえたらいいのにな……」
ついそんな言葉が溢れだしてしまう。甘えることが出来なかった分、夜会の日の出来事が私の我慢していた心を掻き乱す、期待したくないのに期待を寄せたくなってしまう。
「話があるって言ってたのに、部屋にも来てくれない…いつもの事なんでしょうけど」
そんな愚痴を吐いたところでお父様は来てくれない、そんな感情を抱く前に私はもう一度鍛錬に励む。私に出来ることを、機会が巡った時に掴めるように。
それからしばらくして、いつもと違う時間に自室の中にノックが響いいた。
「はい」
私はそう答えるとアリサが入ってきた。
「あら、食事の時間ではないでしょう」
「はい、旦那様と奥様がお呼びです」
「えっ」
私は思わず座っていた椅子から立ち上がる、ようやくお父様と話せる機会が巡ってきたからだ。お
「分かったわ、すぐに行くと伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
そういえばアリサはあんな雰囲気だったかしら、夜会の日に身支度を整えてくれた時にはもう少し明るかった気がするのは、気のせいでしょうか。だが、それよりも私には確認するべきことがある。急いで着替えを済まし、呼ばれた大部屋に向かって自室を出ていく。
いつもと違って静まり返った廊下、歩き慣れた屋敷の中だというのに大部屋まで遠く感じる。何を言われるか分からない恐怖なのか、久々に会える高揚感なのかは分からない。
私としては夜会の功績を褒めて欲しい所ではあるが、お
大部屋の前に着くと扉をノックする、中から声が聞こえたのを確認して扉を開ける。部屋の中にはお
「遅くなりました」と一言添えて頭を下げる、部屋の中に案内されたので私はお父様と向き合うような形でソファに腰掛ける。
「あらお
「ソフィア、静かにしなさい」
お父様が制止しようとするが、ソフィアを話し始めた口を止めなかった。
「いいじゃない、せっかく王太子殿下が連日会いに来てくださっていたのに姿も見せず……「ソフィアっ」
「はーい、お父様。静かにしてまーす」
リュシアン王太子殿下がこの屋敷に来ていたと、私はそんな事も知らずに自室に籠もっていた。ソフィアの口ぶりからするに何度か接触しているのだろう、もしかして私も呼ばれたのは王妃の選定を決められた報告の為でしょうか、そして私は選ばれずに……。
「ふふっ、可哀想な可哀想なお
そう呟く言葉に誰も反応しなかった、私もどこかで諦めていたのかもしれない。私が選ばれるはずがないのだからって、夜会の日も淑女らしからず
こんな私より、ソフィアのような可愛らしい女性の方が好まれるでしょう、性格は多少あれだとしても。
「ごほんっ、話を始めようか」
そうしてお父様が場の空気を流し直す、今回全員が呼ばれた理由について話し始める。
「まずはエレナ、夜会の日はありがとう。おかげで沢山の人が救われた事だろう」
「いえ、私ごときの力は些細なものでしたので」
「その話はまた後ほどしようか」
「えっ?「それでお父様っ、王妃は決まったの!?」
「そうですわ貴方、何度か屋敷にお越しになられてる際にお話を重ねていらっしゃったでしょうから、
「分かった、話を戻そうか」
お父様がそう告げると場が張り詰める、分かっている事でも緊張するものなのね。私はあまり良い面持ちではなく、下に俯きながらお父様の話を聞く。
「今回、リュシアン王太子殿の王妃として婚約者の指名を受けたのは……
その言葉に全員が言葉を失っていた、私も下を俯きながらも気を失ったかのように呆然とし、話を聞いていたが顔を上げるどころではなかった。
「っ!?」「はぁっ!?」
二人の慌てた言葉に我に返り、私は顔を上げる。お
「お父様っ!何かの間違いでしょう??この灰被りが王太子殿下の婚約者にって」
「そうよ貴方、何かと間違えてるのではなくて?」
「そうよ!あれだけ楽しく過ごしていたのよ、王太子殿下だって私の事が素敵だって言ってくれたのよ!?」
ソフィアはお父様に掴みかかりそうな勢いで迫るが、冷静に話を続ける。
「何も間違えてないし、エレナを婚約者にと」
「お、お父様。よろしいでしょ「黙りなさいよ灰かぶりがぁっ!」
「なんだ、エレナ」
お父様は冷静にソフィアを気にしないようにしながら私の方に向き直る、後ろで変わらずソフィアが何か喚き散らしているがその真剣な眼差しに押されて、ようやく私も冷静になり自分の気持ちを話せるように、頭の中が整理されていた。
「何故、私なのでしょうか。見た目もお世辞にも良いとは思えないですし、灰かぶりと皆に揶揄されております。それに王太子殿下とお会いしたのは夜会の日が初めて、それ以降はお会いすらしていないです」
「ほら、お父様!エレナもこう言っていますわ、王妃には私の方が相応しいでしょう!ねぇ、お
「エレナ、お前の気持ちを教えてくれ」
「私は……
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