episode.17 思い出の中で

側で激しく燃え上がる黒い炎、明かりが灯ることはなく変わらない暗闇の中苦しみながら次第に消えていく声だけが、この闇の魔法を証明していた。それを目の当たりにしたソフィア達は迂闊に飛び込めずにいるのか、少しだけ後退りをしている。


「これ…」

「お主の炎の魔力と混じり合ったようじゃの」

「ねぇ魔王、この力ってそれだけかしら」


体中に闇の魔力を通したからこそ感じた、私の中には明らかに異質な別の力が宿っているように思える。その正体が分からずにいたが、何故か魔王と同じ気配を感じていた。


「おや、さすがお主じゃの気づきおったか。それはほんのサービスで妾の力を植え付けておいた」

「魔王の?」

「そうじゃ、じゃがその前に………」

「エレナよ。私の名前」

「そうかすまんの……のぉ、エレナよ。お主に駆けつけてくれるような仲間はおるか?」

「いないわよ」

「そうか、森に複数の人間が入り込んだぞ」


その人間とは恐らくお継母かあ様が引き連れていた敵兵の事でしょう。ここで時間を食ったせいでここに合流する可能性が出て来た、闇の魔法があるとはいえあれだけの勢力が加われば状況はかなり悪くなる。


そうなる前にソフィア達から逃げるか、全員を焼き尽くすか。幸いな事にこの炎であれば明かりが灯る事も無いので、ここの場所は見つかりにくい。


「素早く焼いて逃げるか……」

「調子に乗らないでよ灰かぶりのくせにぃ」


私が黒い炎を両手に宿し構えをとり、今度はこちらから仕掛けるようにして敵に向かって行く。すかさず二人ほど黒い炎で包み込み、残った敵にも襲いかかる、それでも数の不利は簡単に覆せないようで、囲まれそうになった所を後退りしながら離れていく。


「はっ、口だけのようね」

「簡単にはいかないね」


せめてソフィアだけでもと思っていたが、今度は囲うように広がり簡単に逃げることも難しくなっていた。こうして攻めあぐねている隙にも、森の入り口からも敵が迫ってきている。焦りと不安が、微かに見えていた勝機に暗い影を落とし始める。


「仕方ないのぉ、特別じゃ」

「魔王?」

「魔王の力の一端使わせてやろう、詠唱を唱えるから妾に続くといい」

「え、ちょ、そんな急に…」


そう言うと魔王は、私の背後から耳元に囁くようにして詠唱を並べ始めた。言われるがままに聞こえた詠唱を後を追うようにして口に出していく。



ワレ魔王マオウナリテビカケルハ深淵シンエンナルヤミライシモノ覇道ハドウツクリシヅル混沌コントン畏怖イフトナワリヲゲル』



身体の内側から異質な力が私の自我を呑み込むようにして襲いかかり暴れ回るようして力の奔流が駆け巡っていく。これが魔王の力の一端かと恐怖すら覚えるが、危うくも意識を保ちながら詠唱を終える。


「今じゃ唱えよ!」


冥獄伏魔殿メイゴクフクマデン闇夜ノ狂軍乱舞ヤミヨノキョウグンランブ


そうして私が魔王の力を吐き出した瞬間、辺りは静けさを増し落としていた影がより一層と濃くなり始める。この場にいる者が感じる異常さからか、震える声を出しながら腰を落とす者までいた。木々はざわめき始め、空気も重たくなる。


「何よ、何よこれ何よこれ……あんたら何とかしなさいよ」


その言葉に慌てた様子でこちらに向かってくるが、未知を前に恐れているにも関わらず違和感のあるその行動は、冷静になった今になって思う。彼らもまた、ディンズ家の魔法による被害者なのではないかと。でも、仮にそうだったとしてももう遅い。


「ごめんね、私にもどうなるか分からない」


発動したこの力はもう留まることは知らない、足下から繋がる影に向けて闇の魔力が流れていくのを感じながら身を委ねる。すると、影の中から何かが這い出るようにして一体、また一体と出現。


それぞれは骸骨の兵士や黒い狼などで全身を黒く染め上げており、その存在感は一体だけでも脅威に感じる程だった。


「凄い…何これ」


現れた兵士は黒い炎が燃え上がる剣を携え、狼達も同じように全身を黒い炎で身を包んでいる。先ほど発現していた炎と同じようにも見え、間違いなく私の力も注がれているのだと感じれる。


それらが落ち着くと暗い森の中で静かに命令を待つかのようにして佇み、圧倒的な戦力の前に私は恐る恐る命令を下す。


「敵を殲滅せよ」


下された命令、骸骨兵士は剣を空に掲げ狼は遠吠えを上げる。肌に感じるほどの振動、唸る地面。それだけでこの場を蹂躙できるほどの戦力が制圧をしたのだと感じる、動き出した闇の尖兵はソフィア達を埋め尽くすが如く動き始める。


先程までの戦力差は何だったのかと笑いたくなるほどの圧倒、そこらじゅうから悲鳴と恐怖が伝わり元凶たるソフィアはその場に座り込み動けずに震えていた。


「ははっ、何これ」

「おぉ、壮観じゃのぉ」


奥にいたソフィアは叩き起こされるようにして逃げるように走り出した、追いかけるように命じようかと思ったが私も感じるほどに後方から勢力が迫っていた。


今ここで追いかけるのは無意味だと感じる、恐怖を刻み込む事が出来ただけでも効果はあったと思う事にする。それよりも、お継母かあ様の戦力の方が問題だ、その数は勿論のことで先の戦闘によりこちらの場所は把握されたはずで、かなりの戦力が投入されるされるはず。


それよりも先に、こちらが有利な今の状態から奇襲をかける。私はすかさず辺りに溶け込むように指示を出すと、再び影に潜るようにして消えた。はたから見れば私一人で退けたようにも見えるだろう、満身創痍だと思わせたその時が勝機となる。いつでも来るといい、全て迎え討ってやろう。


私の思惑通り、到着した敵兵はこちらを見た途端に作戦の成功を確信したのか疑う事もせずに向かってきた。お継母かあ様の姿は見えないのが惜しい、あの人のことだ森の外で私たちの首を待っているに違いない。


「舐めるな。敵を囲え、闇の尖兵共よ」


突如として現れる勢力に辺りは騒然とする、「ヒィッ」「何だこれ!?」「た、戦え!」「あの女を狙え」これを見ても変わらない冷静さに自分でも驚く。圧倒的な力を手にすると、人は余裕が生まれるようで淡々した殲滅が続く。


「助けてくれ!」「命だけは」「嫌だ嫌だ嫌だ」次第に辺りにを埋め尽くすほどの死体が転がり、むせ返るような死臭はより一層酷くなるばかりだった。いつの間にか凍えるような空気は生暖かくなり、悲鳴すらも聞こえなくなっていた時には向かってくる敵の影は消え失せていた。


全てを蹂躙し終わり生きている者は私だけとなった今、終わりさえすれば呆気ないものでこの力に感じていた恐怖はいつの間にか消えていた。


「ははっ、呆気ないものね……」


闇の力、魔王の力とはここまでのものなのかと改めて感じる。隣に立っている魔王はこんな力を内に秘めながらも、過去には人族との戦争に敗北したのかと理解が追いつかなくなる。昔の人々はそれを跳ね返す程の戦力を有し、この魔王オルタナを封印せしめたのかと。


「何でもっと早くにこの力を使えてなかったの…」


静かになった途端、急に後悔の念に駆られる。これが私の内に秘められた力なのであれば、魔王の力が無くとも闇の魔力だけでも目覚めさせることが出来ればお父様はおろか、リュシアン様たちですら救うことがょ出来たのではないかと。


そう思わずにはいられなかった。失ったものはもう取り戻せない、どれだけ後悔しようがどれだけ願おうが何も戻らない。


「ふふふっ」


もう笑うしか無い、感情がどうにかなってしまいそうだ。命令を終えた尖兵達は音もなく影に溶け込むようにして消えていった、その瞬間に私の中から魔王の力が抜けていくような感覚になる。それでも、この力がもたらした惨劇に笑わずにはいられない。


「あはははは……あーっははははははっ!!!」ーー。




ーー「それが今に至るまでの全てよ」

「そうじゃったか、苦労したようじゃの」

「苦労どころではなかったよ」

「すまんの、簡単な話ではないな」

「いいよ……聞いてくれてありがとうね」


ここに至るまでの経緯を話し終わり少しだけ気持ちが軽くなったように思える、ずっと誰かに聞いて欲しかったような気がするがこの魔王という存在には何故か心を許してしまい全てを話してしまった。


それは魔王という器がなせるのか、それとも彼女自身にそう思わせる何かがあるのかは分からなかった。


「それで、これからどうするのじゃ」

「そうねぇ、復讐でもしようかしら」


そう思わず呟いてしまったが成せるとは思っていない、一人で戦うには非力過ぎる。魔王の力が宿ってるとはいえ今回は特別だったらしく、説明の通りで今の私にはその力の燐片すら感じることが出来ないでいた。


魔王曰く、一時的に呼び起こしただけに過ぎす、これから使いこなせるかどうかは私にかかっているらしい。それならと、この力を思い通りに扱う事が出来れば復讐を夢見ることすらも現実になり得る、それだけの力を目の当たりしていたからこそ現実味を帯びている。


「魔王、ありがとう」

「構わぬよ、妾はきっかけに過ぎぬ」

「それでも魔王のおかげで生きていられたわ」

「オルタナでよいぞ」

「……お言葉に甘えるわ、オルタナ」

「そういえば、また森に二人ほど入ってきておるぞ」


二人と言われてももう思い浮かべるものは何もなくソフィアが来るとは思えないし、お継母かあ様が時間差で送ったにしては戦力として心許ない。今もなお確実に迫りくる未知の敵に自然と構えていた。


だが、暫くして現れたのは思いがけない人物だった。


「エレナお嬢様!」

「エレナ様!」

「セブンスにアリサ、生きていたのね!!」


私を生かすためにその身を犠牲に命を落としていたと思っていた二人が生きていた、何かの罠かと思ったが傷だらけのその姿を見て杞憂だと感じた。


「会えて……良かっ…た………」


二人に会えた安心感からか、そこで私の意識は途絶えていた。打倒したのか逃げ切ったのかは分からないが、こうして一人でないことを感じる。失ったものは大き過ぎるが失わなかったものもあるのだと、途絶える意識の間際にオルタナに告げる。


「貴女の……おかげ…」

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