episode.08 二度目の襲撃
ソフィアが襲いかかってきてから数日が経過していた、命に別状はないらしいが未だ目を覚まさないらしい。お
私はというと……。
「それではエレナ様、本日は魔法について講義させて頂きます」
「はい、宜しくお願いします」
空いた時間は王妃教育に充てていた、王国周辺との関係性やこの国の歴史についても知っていた事は多くあったが、それ以上の知識を求められていた。悠長に学んでいる時間は残されていないので、集中して取り組む。
「エレナ様もご存知の通り魔法とは体内の魔力を練り上げ、望む事象を発現させる行為となります」
そう言いながら先生は握っていた手を開くと、空気中から集められた塵が集まり丸い鉄の玉を創り出していた。
「先生は
「はい、エレナ様は火炎の魔力と伺っております」
発現出来る魔法は個々によって決められている、私は火炎以外扱えなければ先生も土岩以外は出来ないといったように、産まれた時からどんな魔法が使えるかは定められているのだ、これには例外もなく。
「では、見学なされるなら参考までに王太子殿下の魔法も見せていただいてもよろしいでしょうか」
その言葉に驚きながらも私は後ろを振り返る、そこにはあの日以来となるリュシアン様が立っていた。久しぶりに会ったからなのかその姿が輝いて見える、静かな部屋の中が一気に華やぐ様に。
「やあエレナ、様子を見に来たよ」
「リュシアン様、お忙しい所ありがとうございます」
思わない訪問に心臓の音が煩くなり、婚約者としての話を受けると返事をしてから久しぶりの再会となった。その間は文通を続けていたので近況を知ってはいたが、それでも忙しい合間を縫って会いに来てくれたのは理解できたし、すごく嬉しい。
「王妃教育に励んでいるようだね」
「はい、おかげさまで先生の指導も良く」
「王太子殿下、セレナ様は物覚えも理解も要領よくとても教え甲斐があります」
「そうか、邪魔するわけにはいかないので私には構わず続けてくれたまえ」
「後でお時間は頂けますか?」
「勿論だよ、ここで待っている」
「えっ、ここでですか!?」
特に問題があるわけではないが、リュシアン様が見ている前で王妃教育を受けるとなると些か緊張してしまう。それでなくても目を見て話すとすら顔が赤くなっている気がして恥ずかしいのに。
「それではエレナ様、続けましょうか」
「はい、宜しく……お願いします」
そうして授業は再開された、私も幼い頃から勉強は真面目に取り組んでいたので基本的なところは省かれていた。そういえば、歴史の時も褒められたっけ。
「それでは魔法の一段階先にある、【
先生によると魔導とは魔法の力を宿した一つの道具として具現化するものらしく、具現化されるものは様々で武器や防具はは勿論のこと、仕事で使われる道具類など今までに見つかったものは沢山あるらしい。
その話を聞いて私は、自身が既に魔導具を使っていた事に気がつく。
「先生、もしかしてこれでしょうか?《灰燼斬刀》」
今回は魔力を込めずに略式で炎の刀を発現させる、説明するだけならこれで十分だった。
「なっ、まさかお使いになられるとは。それは間違いなく
先生が興奮気味に驚かれていた、私ごときが使える力などそんなに驚かれるような事では無いと思うが。
「これは皆様が使われるものでは?」
「いえ、そうではありません。自身が身に宿した魔法を
「ある程度、極めた?」
「はい、これは古くから様々な検証を続けられましたが具体的な指標は見つけられず私たちも"ある程度極めた"としか表現ができないのです」
「なるほど……」
「そうして自身の魔法を極めし者は、ある日突然頭の中に詠唱文が刻まれて自然と使いこなせるようになる」
「あ、確かにそうです。いつものように魔法の鍛錬をしていたときに急に頭に浮かびました。初めて
本当に突然のことだった、いつものように魔法の鍛錬をしていた時に頭の中に聞き覚えのない言葉が流れ初めて体の中に何かが刻まれたような感覚に襲われた。
恐る恐るそれに触れるようにして言葉を連ねると灰燼斬刀が発言された。何度か倒れては起きてを繰り返してるうちに、戦闘で使える程度には仕上げる事が出来ていた。
「そうです、魔力の消費量も激しくこれを極めるのはさらなる険しい魔道を歩むこととなります」
「初めて知りました」
「独学で
初めて自分の頑張りが報われた気がした、この数日間だけでも沢山褒められたが一番自信のなかった魔法を褒められたことが何よりも嬉しかった。
「凄いねエレナ、私でさえ師事してもらいながらようやく行き着いた事だったのに」
「えぇ、リュシアン殿下も覚えは良い方でしたがそれ以上の驚きですよ」
「えっ、もしかして先生はリュシアン様にも?」
「言っておりませんでしたでしょうか、今は退いておりますが昔は教育係として……」
そんな凄い先生だとは思いもよらなかった、確かに教えるのも上手く分かりやすいと感じていたが、リュシアン様に教育をするほどの人物であればそれも納得できる。
それからは魔極をどれだけ使いこなせているのかを確かめるとの事で庭に出てその様子を披露した。威力や出来ること、そして発動時間など知るために限界を迎えるまで先生と模擬訓練を行った。
訓練を終える頃には魔力も使い果たしその場で座り込んでいた、それだというのに先生は汗一つかかずに涼しそうな顔をしている。
「はぁ…はぁ…はぁ…ありがとう、ございました」
「いえいえ、良くできていると思いますが強いて言うのであれば魔力効率と強度が悪いように見えますね」
「はい、それは……私の悩み…です」
「それではこれから毎日の課題を課します」
先生曰く、魔力強度が足りてないので余計な魔力を消費しているらしくそれを高めるために毎日寝る前には魔力を空にしてから就寝するようにとの事だった。
そうする事で筋肉を鍛えるのと同じ要領で魔力強度が鍛えられ、体内の魔力循環も無駄なく行えるようになると。それに加えて部屋でやっていた魔力循環の訓練も継続して行えばさらに効果が良くなるらしい。
「お疲れ様、エレナ」
そう言いながら後ろから近づいてきたリュシアン様は、優しくタオルを被せてくれた。
「し、失礼しました!」
私は思わず立ち上がりリュシアン様と距離を空ける、自分でも分かるぐらいに汗をかいているので今は近づいて欲しくない、少しだけ恥ずかしくなりタオルで顔を隠しながら後ろに下がっていく。
「どうしたんだい?」
「いえ、今は……今だけは…」
「リュシアン様、どうか乙女心を察してあげてください」
いつの間にかアリサもトレーにコップ一杯の水を乗せて持現れていた、ここ最近は以前のように普通に話したり笑顔を向けてくれるようになっていた、こうして王妃教育の合間に息抜が出来るようにと、とても心強くもあった。
体を撫でる風が心地良く感じ、リュシアン様とアリサが、女心について話し合っているが見ているだけで微笑ましい。今までこんなにも満足できる日を過ごせた事があっただろうか、以前に比べて毎日は慌ただしく過ぎ去るがとても満足している。
分かりやすく師事してくれる先生もサポートしてくれるアリサも、心の支えになっているリュシアン様も。皆がこうして隣にいてくれるからだろう。
「ありがとう」不意に漏れた言葉に皆が振り向く、私はまた恥ずかしくなりタオルで顔を隠す。それぞれの笑い声が聞こえるが、今の私にはタオルで隠れてその顔は見れなかった。
「エレナっ!!!」
ただならない声が上げられタオルをずらした私の視界に映ったのはリュシアン様の顔だった、私は状況が分からずにそのまま押し倒されるような形でその場に伏せる。
「リュシアン様っ!?」
鈍い音が聞こえ、その方向には氷の氷柱が地面に突き刺さっていた。間髪入れずに立ち上がったリュシアン様は腰に携えていた剣を引抜き向かってくる氷の氷柱を次々と叩き落としていた。
「白昼堂々向かってくるとは、向こうも余裕が無くなってきたのかな?」
「リュシアン様、これは一体!?」
すると見覚えのある黒装束が四方から迫っていた、あの日夜会に襲撃をしていた連中と同じような格好をして。場は先程とは違い騒然となり、先生とアリサも戦闘に加わっていた。リュシアン様と先生が向かってくる敵に立ち向かい、アリサが私を守るようにして側にいてくれた。
「エレナ様、ご無事ですか」
「えぇ、私は大丈夫ですがリュシアン様と先生が」
「お二人は任せておけば大丈夫でしょう、それよりもこの場を離れる方が先決かと」
「確かにそうね……今の私は…」
先程魔力を使い果たしてしまったので、今の私は無力でしかない。この場にいては二人の足を引っ張るだけになってしまう、アリサの言う通りこの場を離れる事が二人の助けになるでしょう。その証拠に先ほどから私の方へと近づけさせないように立ち回り、防戦一方になっている気がする。
私は立ち上がり逃げ道を探るために周囲を見渡す、屋敷の庭とはいえ周囲に何もないので遮るものがなく、屋敷まで一気に駆け抜けるしか無い。
「アリサ……」その事を伝えようとアリサの方を向いた瞬間、その奥から二人ほど迫っているのが捉えられていた。アリサからは死角になっており気づいていないだろう、迫っている事を知らせなければ。
でも、そう考えるよりも先に体が勝手に動いていた。
「エレナ様っ!?」
辛うじて絞り出した魔力の残りで《
「エレナァァァッ!!!」
遠くの方でリュシアン様の声が聞こえる、アリサも後ろに引っ張ったので無事だろう。幸いな事に魔力が完全に切れた事で痛みを感じること無く、意識が溶け落ちていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます