episode.02 オーエンス家
物心付いた頃から理由も分からず毛嫌いされ、その環境を作っていたのが
そんな、私の家族と呼んでいいのか怪しい全員が一同に会するのは実に珍しい事だった。屋敷の人全員が呼ばれていたようで執事やメイドも壁の方で並び立っている、私も含め呼ばれた理由については誰も知らないらしい。私の追放などではないかと内心気が気でなく、自分を落ち着かせるのに必死になる。
暫くすると、屋敷用の装いに身を包んだお父様が大部屋の中に入ってきた。こうして改めて見ると我がお父様ながら、整った顔立ち、鍛えられた体つきなど客観的に見てもこの国で上位に入るほどのかっこよさだと思う。髪は
「すまんな、皆。急に集まってもらって」
「ねぇねぇお父様、何のお話なの?」
例のごとく空気も読まずにソフィアが間に割って入る、
「そうよ貴方、急に何のお話かしら?」
「一週間後王太子主催の夜会が開かれる事となった」
「あら、その程度の話?それなら
たしかにそれぐらいの事でわざわざ全員を寄せ集めるとは思えない、まぁ今まで夜会に参加することはおろか知らぬ間に終わっている事がほとんどだったので私にとっては気にすることではない。
「表向きは、先日の"大規模魔獣掃討作戦"の成功を祝した会という事にはなっているが、その裏で王太子の婚約者を選びだす事になっている」
その瞬間、
「その話はどこから?」
「王から直接な」
「他の家には?」
「そこまでは知らん、だが此度の掃討作戦において私が戦果を一番に上げた事を考えると……」
「当家だけの可能性が、とういう事ですわね?」
「真意はわからんが可能性はある」
私も夜会に出れるという事なのでしょうか、王太子がどんな人かは噂程度でしか知らないですが、可能性があるのであれば夢見ずにはいられない。それに、お父様が話を持ってきたという事は私達に王妃の座を狙えと言っているようなものでしょう、成し得た暁には褒めていただけるでしょうか。そんな事を考えているとお父様と目があった、何を伝えようとしてるかは分かりませんが私にも頑張れと言いたいのでしょうか。私が話しかけようとすると、ソフィアがすぐに間に入ってきてお父様と話し始めた。
「ねぇねぇ、お父様!私がお姫様になれるの!?」
「可能性の話だ」
「ソフィア時間がありません、当家が優位かもしれない状況ですがやれるだけの準備はしますよ?」
「なにそれ?」
「私に任せておきなさい、他家を蹴落としてでも貴女を王妃に仕立て上げて見せますわ」
「うん、頑張る!」
いつも通りに私のことは視界に入っていないらしい、二人が舞い上がっている姿を見ると、途端に自信がなくなる。思い返せば夜会に行くようなドレスも、アクセサリーも持ち合わせていない。それどころか、巷では"灰かぶり姫"とまで呼ばれる始末。私の容姿では王太子の目にも留まらないだろう。
そうしてその日は解散となった、夜会まであと一週間。屋敷の者が総出でソフィアを王太子の婚約者に仕立てようと動き回っていた、ドレスのお直しや礼儀作法の練習、当日の装いの確認など私以外が慌ただしくしている。お父様は書斎にこもって持ち帰ってきた書類仕事に勤しんでいるらひく、話しかける事はおろかセブンスに入室すら禁止されていた。夜会までは何もする事がなく、時折やってくるソフィアの嫌味を聞き続ける日々でしかなかった。それでも少しだけ夢見ずにはいられない、婚約者として見初められる事になればこの生活から抜け出せられるのかしらと、
そうして迎えた夜会当日の昼頃、私の周りは静かになり皆がソフィの元へと集まっていた。私はというと、自室に残されたドレスの中から一番マシなものを選び、身化粧を整えていく。初めは不参加にしようかと思っていたが、何故か
「仕方ないわね、逆らう事は出来ないのだから」
そう自分に言い聞かせながら化粧台に座ると、扉のノックする音が聞こえた。またソフィアが嫌がらせでもしに来たのかと嫌になる。
「はい」
私は扉を開けると目の間にいた人物を疑ってしまった、だってこんなところにいるなんて夢にも思わなかったのだから。
「突然すまない、少しいいか?」
「はい、お父様。お入りになられますか?」
「あぁ、失礼するよ」
いつぶりだろうか、こんな他愛もない会話ですら今まで交わことが無く込み上げるものがあり不思議と涙が流れそうになる。でも、この後のことを考えると堪えるしかない、冷静にいつも通りにと。
「突然すまない」
「ふふっ、先程も聞きましたよ」
「そ、そうか……すまない」
どうしても会話がぎこちなくなってしまう、お互いに必死に言葉を探っているのでしょう。話したい事は多いですが、この時間にここに来た理由があるはず。それを話さなければ。
「お父様、何か御用がおありでは?」
「あ、あぁ今夜の夜会のことだがドレスやアクセサリーなどは満足したものがあるのか?」
「えぇ、特に不満はございません」
嘘をついた、ここで本当の事を言えば私自身の現状が伝わるかもしれない。そうなればこれから私の扱いはより酷いものになるかもしれない、だってお父様は傍にいてくださらないのだから。そう考える事だけが唯一自分を守る事なのだとこの数年で思い知らされている。
「そうか……もし良かったらなんだがな」
そう言うと扉のノックする音が聞こえ、お父様が扉を開けた。すると、大きな鞄を持ったメイド服の女性が部屋の中に入ってきたが、この屋敷で見たことの無い顔だった。一体誰なんだと不思議そうにしていると、そのメイドは抱えたカバンを開け、中に入ってるものを私に見せてくれる。
「エレナさえよかったら今夜の夜会にどうだ?」
私は思わず口元を手で押さえる、中に入っていたのは美しいドレスが一着と、アクセサリーが数点だった。予想していなかった出来事に言葉が出てこないほど驚いた、まさかお父様が私のために用意してくれるなんて思ってもみない。私が着る予定だったドレスとは比べ物にならないほど美しく、まるで夜空のようなディープブルーに控えめながらも散りばめられた宝石が星々の様に輝くドレスは息を呑むほどだった。
「私に……ですか?」
「あぁ、勿論だ。今までこういった贈り物をしたことが無かったからな、アリサに相談しながら決めたんだ」
そう言いながらお父様はメイドの方に目をやる、彼女は遠征先で雇ったメイドで【アリサ】と言うらしい。
「でも、こんな高価なもの私には」
「いらなければ別に構わないから」
そう言いながらお父様はアリスを残して部屋を出ていってしまった、残された私はドレスにそっと手を触れてみる。
「アリサでしたか、ありがとうございます」
「いえ、そのお言葉は是非ドレスに身を包んでから旦那様に申してあげて下さい」
「そうね、そうね……」
初めてのことに戸惑いながらもドレスに身を通していく、化粧やアクセサリーなどはアリサが施してくれた、気がつけば鏡の向こうには全くの別人が立っていた。
「綺麗……」
思わず口からこぼれてしまう、ドレスもアクセサリーも全身を包むもの全てが美しい。だからなのか、この灰色の髪が疎ましく感じてしまう。
「私にはもったいないわね」
「いえ、そのような事はありませんよ」
「お世辞でも嬉しいわ、ありがとう」
「エレナ様、"ドレスは女の鎧"です。素敵なドレスに身を包んだ貴女なら、怖いものすらないかと」
「ふふっ、素敵な言葉ね。確かに、このドレスなら怖いものなど無いのかもしれないわね」
そうして鏡の奥のドレス姿に見惚れていると夜会に向う馬車がやってきたようで庭に皆が集まる、その視線は私の方に集中していた。驚き、嫉妬、妬み、その感情は様々だった、ソフィアの表情が今までに見たことが無いほどに引きつっていたのは少し気分が良かった。私も馬車に乗り込もうとすると
「誰かしら貴女は?」
「あら、あまりの変わりように娘の事もお忘れで?」
「そんなドレスどこから盗んできたのかしら、それともバカな男でも捕まえて貢がせたのかしら?」
「ご存知の通り知人すらいない生活でしたので、意味がわかりかねます」
「名前気な」
そう捨て台詞を残し馬車の中へと入っていった、内心手を出されなくてホッとする、背筋を伝う冷や汗を感じながらもこのドレスのおかげで臆することなく言い返す事が出来た、アリサにもお父様には感謝しなければね。
「その意気です」
隣でそうつぶやきながらアリサが場所まで案内してくれた、私は
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