第14話『ダンジョン脱出』


「ガチもガチっすよ……」


「これってさ、偶然にしては凄いよね! きっとボク達が出会ったのって、運命なんだよ!!」


「そうじゃなぁ……ハルトの件と言い、神様のお導きかも知れないのお」


 確かヘラ様が僕を転生させたのも、ダンジョンを攻略させるのが理由だった筈だ。

 それが何故僕なのかは分からないが、人間には計り知れない何かがあるのだろう。


「かも、知れないですね……」


「かも知れないも何も、ハルトは女神様の使徒として、ココにやって来たんでしょ? ならさ……きっと、神様がボク達に頑張れって応援してるんだよ!!」


「そうだと良いのお……」


「そうだと良いっすねぇ~。……っと、話が長くなり過ぎたっすね。早くココから出るっすよ」


 そう言ったアキレウスが立ち上がると、他の二人も立ち上がったので、僕も釣られて立ち上がった。

 すると、副団長のアキレウスが、他のメンバー一人一人に指示を出す。

 

「ヘファイストスさんの神器は、俺が持つっすから。プロメテウスは、俺とアルテミスさんの神器を」


「OK! じゃあ、落ちてるの取って来るね!」


 まずはプロメテウスへの指示。

 その指示を聞いたプロメテウスは、サムズアップをして走って行った。

 

「ヘファイストスさんは、アルテミスさんを」


「了解じゃよ」


 次はヘファイストスさんへの指示。

 その指示を聞いたヘファイストスさんは、アルテミスさんを抱き抱えた。


「それじゃあハルトは、団長をお願いするっすよ」


「うん、分かったよ」


 最後は僕への指示。

 その指示を聞いた僕は、エマを抱き抱えた。

 

 鞘がぶつかった音がした。

 ガタッとした、そんな耳に残る音だ。

 その音が耳を通って脳に到達したとき、僕は自分らしからぬ違和感に気づいた。


(・・・あれ? なんで僕、ナチュラルにお姫様抱っこしてるんだろう……?)


 そうなのだ……。

 さっきと言い今と言い、何故か、ナチュラルにお姫様抱っこしているのだ。

 別にお姫様抱っこ自体は、今までの学校行事とかで何回かやっていたし、問題では無い。

 

 では、何が問題なのか?

 それは僕が、何の躊躇いも無く、お姫様抱っこをしているという事実である。

 僕は別に、簡単に女性を抱き抱えられる様な、そんなキザ野郎では無い筈なのだ。

 

 それがどうだ?

 今の僕はアニメに出てくる様な、格好の良い王子様キャラみたいでは無いか。

 

 この現実が、本来の自分ではあまりに不可解で。

 まるで、──自分が自分じゃないみたいだ。


 と、そんな懐疑心に襲われていると、明瞭とした声が耳に入って来た。


「何ボーッとしてるんすか、ハルト? みんなの準備終わったんで、ダンジョンから出るっすよ~」


 それはアキレウスの声だった。

 その声で意識を取り戻した僕が顔を上げると、そこには僕のことを見ている三人が居た。

 アキレウスは右手で、大きな斧を肩に担いでいる。


「ハルト、はやく行こ!」


 それはプロメテウスの声。

 プロメテウスは、槍・盾・弓・短剣を持って、僕に微笑んでいる。


「ハルトよ、何をボーッとしておる? はやく行くぞ」


 それはヘファイストスの声。

 ヘファイストスさんは、アルテミスさんを両手で抱き抱え、僕に微笑んでいる。


「うん! 今行くー!」


 そう言って僕が駆けると、四人並んで前に進む。


「そー言えばさ、結局僕って仲間になれるの?」


「んー……瀕死だったとは言え、ヒュドラを倒せる程の強さがあるっすよね? それが本当なら、大丈夫っすよ」


 それが本当なら、って……まぁ、それもそうか。

 僕自信もこのチート指輪がヤバいと思いつつ、これだけでやれるのか分からないのだ。

 それなのに、他人が僕の強さを知る筈も無いよね。


 それはそうと、大丈夫とは何だろうか?


「大丈夫とは?」


「それはねー、多分だけど入団試験じゃないかな?」


「入団試験か……それで入団試験ってさ、何やるの?」


「色々っすね。ステータス能力を測ったり、実践で試験官と戦ってみたり……」


「まぁ……ハルト場合はそうじゃな。それよりも先に、王様への謁見じゃな」


「あぁ、確かにそうっすね」


「王様と謁見かぁ……大丈夫かなー……」


「王様優しいから大丈夫だよ! それに王様って、団長のお父さんだし!!」


「ガチッ!?」


 驚愕の事実を知った僕は、その本人の寝顔を見た。


「エマさんってお姫様だったのかぁ……すげぇ……」


「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃのお……でもワシらからしたら、お姫様よりも団長の方がしっくるわい」


「「分かる」」


 ヘファイストスさんの言葉に、アキレウスとプロメテウスが息を合わせて賛同した。

 その姿から、エマに対する皆の信頼が伺えて、何処か自分のことの様に嬉しかった。

 

 やがて部屋の奥まで往くと、大きな石の扉を見つけた。

 しかしそれは、扉と言うには不完全で、遠目からは壁にしか見れない。


「ワシ一人じゃ、ちと厳しそうじゃからよ。アキレウス手伝ってくれないかのお」


「了解っす!!」


 ヘファイストスさんがアルテミスさんを抱えながら、扉の隙間に右手の指を入れ……。

 アキレウスが斧を持っていない左手で、扉の隙間に指を入れ……。一気に石の扉を開けた。

 開けるときの扉の音は重々しく、その音から、この扉の重量が感じ取れる。

 

 そして、そんな重たい石の扉の向こうには……

 それぞれ、上と下に繋がる、──階段があったのだ。

 その階段の柱の部分には青の松明があり、空間を薄暗く照らしている。

 

 足を踏み外しそうだし、螺旋階段だから下が見えなくて少し怖いな……。

 まぁ……下が見えるのは、それはそれで恐いけど……。


「もしかして、これを降りるの?」


 と、僕が問うと。

 アキレウスが、階段に足を踏み入れて言う。


「そうっすよ。ちょいと足場が見えにくいっすけど、階段の長さは無いので大丈夫っす」


 少しずつ降りていくアキレウス。

 そんなアキレウスに続くように、プロメテウスが階段に足を踏み入れる。


「それじゃあ先に行くね!」


 軽快に降りていくプロメテウス。

 そんなプロメテウスを僕が見ていると、ヘファイストスさんが階段に足を踏み入れる。


「心配せんでも大丈夫じゃよ。ハルトの真摯さを信じた、ワシらを信じろ」


 僕の真摯さ、か。それはよく分からないが、そう言って貰えるのは嬉しいな……。


「分かりました!」


「うむ、いい返事じゃ!」


 ニコリと微笑んだヘファイストスさん。

 その姿に絆された僕は、階段に足を踏み入れていた。


 やがて本当に短い階段を降りると、そこにはアニメでよく見る魔法陣があり……。

 それに足を踏み入れた僕達は、満点の青空が広がるダンジョンの外へと、──ワープしたのだった。


―――


【世界観ちょい足しコーナー】


ハルトの真摯さ。

▶︎跪くポーズは忠誠を表しており、ここグレースでは最高級の信頼を表している。初対面に対してやるのは、「僕は初対面が相手でも信頼し、真摯に向き合います(直訳:貴方達を信頼してるので、死ねと言われたら死にます)」と言ってるのと道理。であるが故に、みんなはハルトに心を開いたのだ。


○フィアナ騎士団のトップに君臨するエマの、その四人の仲間はみな、────神話の──と、──の生まれ変わりである。神話において『火』などの『自然』は、その物語の主軸に関わってくる根幹である。しかしそれらは、──が無ければ存在しない。そしてハルトの前世は、──の──である。そのため、運命に惹かれ逢ったこの『五人』は、───がかなり上がりやすい。ちなみにエマとハルトの───は、エマからハルトへは──の運命で高くなりやすく、逆にハルトからエマへは──の効果で異常に高くなっている。

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