第11話『ありがとう』


「女神様の意向で……」

 と、不死鳥系女の子が。


「ワシらとダンジョン攻略する為に……」

 と、ヘファイストスさんが。

 

「異なる世界より馳せ参じた、っすかぁ……?」

 と、アキレウスが。──言った。


 立ち上がって居た二人は、急に座った。

 座っている三人は、互いに見つめ合い。

 やがて、その視線を跪いている僕に戻す。


「それ、マジっすか?」


「マジです」


 僕は真摯な目で肯定した。

 別に、間違ったことは言ってないのだ。

 ならば、堂々として居ようじゃないか。

 

 四年後に滅んでしまう様な、そんな異世界とは言え。

 拾って貰った、この命への恩返しの為にも。その命で長生きする為にも。

 このダンジョンを踏破するために、信頼出来る仲間を沢山集めなければならないのだから。


 そんな考えを持っている僕が、キリッとしていると、金髪碧眼のイケメン・アキレウスが口を開く。


「もしかしてっすけど。九つの首を持つ竜・ヒュドラを倒したのも、貴方なんすか?」


 九つの首を持つ竜・ヒュドラ?

 一つの首が、首だけで動いて居たが……。


「九つの首を持つ竜・ヒュドラ? は、分かりませんが。青い鱗と赤い目の首一つ? は、倒しましたね……」


「ん? お主、それはどういうことじゃ?」


「僕にもあまり分かりませんが、そのままの意味です。今寝ている彼女が動く生首に襲われていたので、僕の神器を解放して倒しました……」


 正直なところ、これ以上に適した説明文が思い浮かばないくらいには、的確ではあるのだが……。

 うん。自分で言ってても、疑問しか出ないや。

 なんだよ、動く生首に襲われるって……下手なB級ホラー映画よりホラーしてるわ。


 と、そんなノリツッコミをしていると、不死鳥系女の子が重たい口を開いた。


「ねぇみんな……それってさ、アレじゃない?」


 声もボーイッシュガールって感じだ……。

 と……それは兎も角、「アレ」とは何だろうか?


「アレ、とは?」


「んー……おそらくだけどね」


 不死鳥系女の子は、彼女に視線を合わせる。


「今寝てるこの人が、ボク達フィアナ騎士団の団長なんだけどね。団長が、神器で一つの首以外を燃やしたんじゃないかな? それでね、倒しきれなかった一部を、君が倒したんだよきっと」


 疑問形で首を傾げたかと思えば、座りながら剣で切りつけるジェスチャーをする不死鳥系女の子。

 その様子を元に、自分なりに想像してみたが……。

 

 僕が一目惚れした彼女は、凄く凄い強いね!

 僕の脳内語彙力が、無いなるくらいには……。


「なるほど……それは、余計なことをしてしまったかな」


「フハハハハハハ! そんなこと無いわい! ワシらは死んでて分からぬが、助けてくれてありがとうの!!」


 頭をガシガシと撫でられた。

 なんだか、お父さんみたいだ……。

 ちょっとだけくすぐったいな……。


「ふへへ……。僕なんかが貴方達のお役に立てて、本当に良かったです…………」


 会うことの出来ない両親に、この思いを馳せ。

 お父さんみたいなヘファイストスさんに、心が綻んだ。

 そんな僕は、キリッと決めていた筈なのに、どこか照れくささと憂いを残してしまった。


 あぁ……両親が、恋しい……。

 ──あれ? 僕の手に、温かな感触がある。


 それが気になった僕は、自分の手を見た。

 その感触は誰かの手で。その手の正体は……僕を一番に警戒していた、アキレウスだったのだ。

 そんなアキレウスは、その碧眼を潤わせ、言葉を紡ぐ。


「僕なんかが、って……。そんなことを、自分で言っちゃダメっす。貴方は、俺達の命の恩人なんすから」


「で、でも……」


「でもじゃないっす! 副団長なのに、感謝を言うのが遅れてすみません。助けてくれて、──ありがとうございます」


 このとき、走馬灯の様に過去の思い出が、一気にフラッシュバックして来た。

 

 登校中の学生の声が、毎日のように聞こえて。ブルーな気持ちになって、毛布にくるまって逃げた日々。

 ──その度に、普通の学生と自分を比べて、日に日に自分は無価値だと思い知った。

 

  両親と会うのが、どこか気まずくて。ご飯にすら食べに行けなかった、そんな日々。

 ──その度に、置き手紙付きのご飯が、部屋の外に置いて合って。心が、凄く苦しくなった。


 僕は苦しかったり、辛かったりするときに何時も、アニメやゲームで現実逃避をしていた。──クズだ。


 そんな、何の役にも立たないクズなのに……。

 知らない人に、何故か励まされてるのに……。

 僕が、両親に甘えて、泣かせて……。ただただ引き篭って居た、どうしようも無い人間なのに……。

 別に、僕の力で助けれた訳でも無いのに……。


 どうしてかな?

 心がさ、救われたんだ……。

 

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