第12話『波打つ感情』


 俯く僕は、流涕りゅうていし。

 瞳に映る地面が、ボヤけて見える。


 僕。今日は何か、泣いてばっかだな……。

 早く、この不甲斐ない涙を止めないと……。

 じゃなきゃ、頼りないって思われちゃうよ。


 辺りには、啜りが鳴り響く。

 そんな静寂の中で僕は、彼女のことを見ていた。


(こんなカッコ悪い姿。絶対に見せたく無いなぁ……)


 何故かは分からないけど、一目惚れした彼女。

 そんな彼女の寝顔は、見ているだけで愛おしくて。

 この世界に転生して良かったと、そう思えたし。

 そう思えてしまうくらいに好きだから、泣いてるなんて情けない姿は見せたく無いのだ。


 嬉しくて溢れる感情に、男の性とも言える感情。

 それらがグツグツと心で煮だっていると、辺りからアタフタとした声が聞こえてきた。


「えっ? ちょっ、何泣いてるんすか!? あぁっ、ヘファイストスさんっ、プロメテウス! こーゆーとき、どどどどどどーすれば良いんすか!!??」

 

 それは、アキレウスの声で……。

 アキレウスは僕の手を握りながら、隣に居るヘファイストスさんと、不死鳥系女の子プロメテウスを交互に見た。


「あーあ。副団長が泣かせちゃったぁ」


「えっ?! 俺が悪いんすかコレ!?」


 アキレウスは手を離し、大振りで驚愕した。


「アキレウスよ。過ちはのお……正してこそ、未来に生きていくものじゃよ」


「ヘファイストスさんまでっすか!!??」


 揶揄われているアキレウス。

 その慌て様が面白くて……クスッ

 

「ハハハハハハハハハッッ!!!!」


 思わず、吹き出してしまった。

 こんなに笑ったのは、一体何時ぶりだろう。

 あぁ……全然覚えてないや。

 でも覚えてなくても良いんだよ、きっと。

 だってさ、──現在いま笑えているんだから。


 僕が盛大に笑っているとき。

 アキレウスは、目を点にしながら唖然としてて。他の二人はニコリと、優しく微笑んでいた。


「ハァ……久しぶりに、こんなに笑ったよ。心配してくれてありがとうね」


「なら良かったよ。ね? アキレウス」


「う、うん? そっ、そうっすね?」


「ふぉっふぉっふぉっ! アキレウスは、素直で良い子じゃからのお!!」


 アキレウスの頭を、ヘファイストスさんが撫でた。

 それに対してアキレウスは、何処か、満更でも無い様子で照れている。

 そんな、お父さんみたいなヘファイストスさんは、僕のことを再度見ると、優しく提言してくれた。

 

「おっと……それはそうとしてお主。もっと、楽に座って良いんじゃぞ?」


 そう言えば僕、ずっと跪いたままだった。

 確かに、地面についている方の左足が痛いし、ココは甘えさせて貰おう。


「はい、ありがとうございます」


 そう言って僕が座ると、ヘファイストスさんは満足そうな表情を浮かべた。


「無理をすることは無いわい、それで良いんじゃよ」


 ニコリと顔を綻ばせた、ヘファイストスさん。

 そんな、僕とヘファイストスさんの会話が終わると、プロメテウスが口を開き話題を変える。


「そー言えばさ。ボク達の方は、誰一人として自己紹介して無かったよね」


「「「確かに……」」」

 

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