第26話『プルーフ・リング』


 冒険者ギルドのカウンター。

 それは、何処か市役所を思い出させる。

 透明なプレートで隔てられてこそ無いが、ビシッとした空気感は、僕が想像して居た虚像とは似て非なるものだ。

 そんな冒険者ギルドのカウンターに、僕達は居た。

 

「すまない。この者の冒険者登録をしたいのだが」


 僕のことを手で示し、そう言ったエマ。

 僕達の目の前に居る受付の人は、人間っぽい様でエルフっぽい様な……そんな、眼鏡を掛けている綺麗な女性だ。


「承知しました、エマ様」


 その女性は一礼すると、僕の方を見て爆弾を投下する。


「貴方様が、今噂になっている姫Tの御人ですね」


「はい。そうな、ん、です……」


 んんんんんんんん????????


(今、噂になっている姫Tの御方って、そう聞こえた様な気がするのは気の所為だよね!?)


「すみません……今なんとおっしゃりましたか?」


「貴方様が、今噂になっている姫Tの御人ですね。と、そう申しました」


「おっふ……」


 僕が怖々とした様子で聞くと、受付の女性は不思議そうに首を傾げて、もう一度同じことを言ったのだ。

 その内容に、思わず呆けてしまった。

 間抜け顔を晒してあんぐりしている僕を見て、クスッとして笑みを浮かべたエマが悪戯に言う。


「これではまるで、ハルトが私の事を好いてると、そう噂になっているみたいだな。(ななななななな、何を言っているのだ私は!! あわわわわわわ……)」


「ははは、昨日初めて逢ったばかりじゃないですか。(ななななななな、何を言ってるんだエマさんは!! 確かに僕エマさんのこと好きっぽいけどさ!!)」


 パリンッ!!

 僕とエマが見詰め合いながら、互いに冷や汗をドバドバかいていると、ガラスの割れる音がした。

 音の方を見ると、そこには受付の女性がおり、その眼鏡にヒビが入っていたのだ。


 いや、ギャグ漫画かな!?

 こんなのギャグ漫画でしか見た事ないよ!!


「あのー……大丈夫、ですか?」


 そう僕が心配を呈すると、受付の女性は割れた眼鏡を控えの眼鏡と、超高速で取り替えた。


(え、はやっ……。こんなことある? 早すぎて素顔見れなかったんだけどぉ!?)

 

「ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございません。私の眼鏡が尊死しただけですので、ご安心ください」


(眼鏡が尊死って何!!?? しかも、尊死する要素なんてありましたかね??!! やだ、この世界怖い……)


 この世界の住人のオタクさに、一オタクである僕が戦慄していると、耳にくすぐったい風が吹きかかる。


「私達、尊いらしいぞ…………ふふふ」


「あっあっあっあっあっ…………みっ」


 くすぐったい風と共に僕の耳を過ぎったのは、照れたエマの色っぽい声だった。

 その声が凄く凄かったため、僕の脳がオーバーヒートし魂が抜けてしまったのだ。


(エマさんが世界で一番でぇ~す………………と、いけないいけない。今、めちゃくちゃ脱線してるよ……)


「めちゃくちゃ脱線してすみません……」


「いえ、全然大丈夫ですよ。それでは、手続きへと参りましょうか」


 そう言った受付の女性は、引き出しの中から紙とペンを取り出し、僕の目の前に置く。


「それではこの紙にペンで、氏名と年齢に誕生日、生物学的な性別、そして種族の方を記入してください」


「種族って人間とかってことですか?」


「はい、そうですよ」


「分かりました」


 冒険者登録用紙と書いてある紙。

 それに僕は、名前と年齢に誕生日、性別、そして種族を記入した。

 

「終わりました」


「はい、かしこまりました。この情報は、これからお渡しします指輪の方に、インプットされます」


 そう言った受付の女性は、何かをスキャンする機械であろう台の上に、僕の個人情報が書いてある紙を置いた。


 指輪に情報をインプット?

 そんなことも出来るのか……すげぇな。


「それでは次に、こちらの同意書の方にサインし、戸籍や配偶者等を書類に記入ください」


「それなんだがハルトは、戸籍はもちろんのこと、配偶者が存在しないのだ。よって特例とする旨を、グレース王から了承の書類を賜っている。これがその書類だ」


 エマは手下げバッグの中にある書類を出し、受付の女性へと手渡しした。

 その書類には王家の印があり、それが本物であることを示している。


「はい、承知致しました。それでは、同意書へのサインだけを記入してください」


 受付の女性は書類をしまった。


 凄く頼りになる……。

 流石は王族で団長のエマさんだ。


「分かりました」


 エマに感謝しつつ、僕は同意書に目を通した。


(ふむふむ、同意書にサインと…………)


「え? 私はダンジョン内で起こる全てに責任を持ち、自己責任として墓まで持って逝きます? んーーー?」


「あ、申し訳ございません。間違えてしまいました」


 凄く申し訳なさそうにしている受付の女性は、間違ったらしい同意書を戻すと、一瞬で他の物へと変えた。


「そうですか……良かったぁ……」


「はい……大変申し訳ございません。私としたことが、ムカついた客用の物を出してしまうとは……一生の恥です」


 えぇ……(困惑)

 それはそれでどうなんだろうか……。


「今回は間違いがありませんので、こちらの同意書の方にサインをしてください」


「分かりました……」


 僕は同意書の内容を確かめた。

 それを簡単に言うと、こんな感じだ。


 ダンジョン内で怪我をしたり死んだりすると、冒険者ギルドが保険として手当てを出してくれる。

 その見返りとして冒険者は、ダンジョン内で手に入れたアイテムの換金を、冒険者ギルドでする。

 そしてそれは義務であり、破ると刑事処分に……。

 また、ダンジョン外での怪我や死亡は、冒険者ギルドの管轄外であり、保険は出ない。


 要は僕の場合だと、ダンジョン内に入れる見返りに、アイテムを冒険者ギルドに売れということだ。

 別に困ることも無いし、サインして良いだろう。


「はい、大丈夫です」


 僕は同意書にサインし、提出した。


「サインの程、しかと確認致しました。」


 受付の女性はサインを確認し、その同意書をしまった。

 すると受付の女性は、先程僕の個人情報が書いてある紙を置いた、その台の方へと向かった。

 しかしそこには、紙なんて物は無く、代わりのものと言わんばかりに、金属の何かが置いて合ったのだ。


「エマさん、アソコに置いてある金属って何です?」


 そう言って金属を指差すと、エマが答える。


「あぁ……あれは指輪だ」


「指輪?」


「そうだ。まぁ……見てれば分かるさ」


 エマのその言葉と共に、受付の女性が指輪の載ったトレイを持って来た。

 その指輪はエマの瞳と同じ色の綺麗な赤色で、輪っかの部分が約五センチ程ある指輪だ。


「お待ち致しました。こちらがハルト様の、冒険者の証プルーフ・リングでございます。大きさは指毎に変幻自在に変わりますので、ご安心くださいませ」


「へぇー、凄いですね……ありがとうございます」


 受付の女性から指輪を受け取ると、それを自分の小指に嵌めてみることにした。

 すると凄いことに、本当に指輪の大きさが、小指サイズに変わったのだ。


「うわ、ガチだ……」


 なんか異世界っぽい……そんなことを思っていると、受付の女性が、更なる情報を開示した。


「そして、プルーフ・リングを嵌めた状態で、指輪に御自身の魔力を送ると、ステータスを確認出来ます」


「ステータスの確認……ですか?」


「試しにやってみたらどうだ?」


 ステータスか……。

 少し気になるし、やってみよ。


「分かりました」


 ヒュドラと対峙したときの感覚。

 あのときの感覚を呼び覚まし、徐々に、徐々に感覚を研ぎさ増していく。

 

 やがて、あのときの感覚を完全に取り戻すと。

 指輪が光を放ち出し、プロジェクターの様な感じで、空中に映像が写し出された。


◆◆◆


Намаэ(名前)

:ハルト・タカハシ

Нэнрэи(年齢)

:18

Сэибэцу(性別)

:男

Тандзёуби(誕生日)

:7月25日

Сюдзоку(種族)

:人間

Рэбэру(レベル)

:1/12

Кинрёку(筋力)

:3/10

Сюнбин(俊敏)

:5/10

Марёку(魔力)

:2/10

Махоурёку(魔法力)

:2/10


◆◆◆

 

「意外とハルトは、普通だったんだな……」


「えぇ……」


ーーー


【世界観ちょい足しコーナー】


『魔法力』

▶︎魔法の威力であり、制御力であり、干渉力である


〇その他

筋力▶︎その者の力

俊敏▶︎その者の速さ

魔力▶︎その者の最大魔力許容量(増えることは無い)

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