第25話『ギルド総本部』


 ラフな格好をしている僕とエマ。

 エマは白のワンピースと、茶色の手下げバッグを手に掛けて持っている。

 そんな僕達は城の外に出て、露店で売られていた惣菜系のクレープを買い食いしつつ、ギルドへと向かっていた。


「これ、美味しいね」


「そうだろう、そうだろう、美味しいだろう」


 クレープの生地はパリッと、そして、中に入っているジューシーな肉にはピリ辛なソースが絡まっている。

 それがマッチしていて、とても美味しいのだ。

 それに感動した僕は、クレープについての率直な感想を言ったのだが、何故かエマが得意気にしている。


「何故にエマさんが得意気……」


「ふっふん! この国、この世界は私の全てだ! 褒められた全てのことは何でも嬉しいし、貶された全てのことは何でも悲しい。王族とは……人の上に立つとは……そーゆーことなのだ。だからこそ私は、戦わなくてはならない。この些細な幸せを、守るためにな……」


 凄く凄い……。

 あんな適当な僕の質問から、ここまでに盛大で重い話が出てくるとは……。

 格好が良すぎて、男の僕の方が女になりそうだ……。

 まぁ、口元にソースが付いてなければの話だが……。


「めちゃくちゃ良い話をしてますが……エマさん、お口にソースが付いてますよ」


 そう言った僕は、エマの口元に付着しているソースを撫でる様に人差し指で取ると、その指を舐めた。


「らいじょうぶれす。もう取れました」


「そ、そうか……あ、ありがとう……」


「はいっ!」


 バタッ……バタッ……。

 何処からともなく、倒れる音が聞こえてきた。

 一体、何があると言うのだろうか?

 露店の人も、さっきまで横を歩いて居た人も、今では天を仰いでいる状態だ。


「みなさん、どうかしたんですかね?」


「さぁ……? 知らんが、最近の流行りと言う奴だろう」


「なるほど……? それはまた……変わってますね?」


「まぁ……我が国民だ、その様なこともあるだろう。そんなことよりも、早くギルドへ行こう」


「その信頼はどうなんだろうか……」


 奇妙な経験をした二人は、その後も、仲睦まじく他愛も無い話をしながら、ギルド総本部へと足を運んだ。

 そんな二人は、知る由も無いだろう……。

 自分達の無意識イチャイチャが原因で、周辺に居た人はもちろん、その噂話を聞いた人まで尊死したことを……。

 そして、国で一番大きい総合病院である、『アクスレピオス総合病院』の病室が、満室になっていたことを……。


◆◆◆


 僕達は今、ギルド総本部へと来ていた。

 ギルド総本部の建物は大きく、煌びやかで。まるで、豪邸を想像させる様な造りをしているのだ。

 だから、一般人である僕は恥ずかしく無い。

 あんぐりし過ぎてエマに笑われたけど、これが普通の反応だと思うから恥ずかしく無いったら無い!!


 だがしかし、大事なのは外装じゃない。

 ギルド総本部の、──役割だ。

 

 ギルド総本部には主に、二つの役割がある。

 一つ。──三種類あるギルドを、まとめ上げること。

 二つ。──城下町の市場を、管理&調整をすること。

 大きな役割は、この二つである。

 要は簡単に言うと、ギルドの本社であり、行政の様な役割を担っている。そんな存在なのだ。


 ちなみにエマ曰く、城の次に重要度が高いらしい。

 実質的に国のナンバーツーが、ギルド総本部と言うことになるのだろう。

 

 そして、そんなギルド総本部がまとめるギルドは三つ。

 

 一つ。──冒険者ギルド。

 冒険者やクランの登録、そして、アイテムの換金等が出来る施設だ。

 二つ。──商業者ギルド。

 あらゆる商会をまとめ、そして、冒険者ギルドからアイテムを買い取り、流通させる施設だ。

 三つ。──鍛治師ギルド。

 武器や装備を創る鍛冶職人が集まり、そして、武器や装備の売買取引をする施設だ。


 そんな三つのギルドだが、その関係を大雑把に説明するとこんな感じだ。

 冒険者ギルドが商業者ギルドに売り、商業者ギルドが鍛治師ギルドに売る。

 そして、鍛治師ギルドが冒険者に売り、冒険者がダンジョンのアイテムを冒険者ギルドに売る、と……。

 要は三つのギルド間プラス冒険者で、一つの循環が出来ているのだ。


 僕達……いや、僕は、そんなギルドの中の一つ、冒険者ギルドに用があった。──僕の冒険者登録である。

 ダンジョンに入るには冒険者登録が必要であり、本来であれば登録して無い者は入れない。

 それはダンジョン内で伴った怪我や病気、死んだときの色々が理由で、個人情報が必要になるからだ。

 

 だからこそ僕は、今こうして、冒険者ギルドの受付カウンターに立っている。

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