第24話『お姫様は純粋です』


 意識が覚醒し、闇に一筋の光が差した。

 ボヤけて掠れた視界は、徐々に色を付けていく。

 目に映るのは、左に直角した世界。

 それは、僕が半胎児型で寝ていることを示唆し。そんな僕の背中には今、柔く、温かい感触が在るのだ。

 その感触からは何かが脈打つ感覚があり、それを感じていることに一種の安らぎすらもある。


「んぅぅ~………………」


 眠気に唸った僕は、感触の方へと身体を向けた。

 するとそこには、寝息を立てて眠っている、愛らしい表情のエマが居たのだ。

 そんなエマは下着しか身に付けておらず、毛布から身体がはだけているのを見て、毛布をそっと掛け直した。


「ふふっ。可愛い……」


 エマの頭を撫で、柔く微笑んだ。

 そんな僕は心とも無く、──エマを抱き寄せた。

 肌と肌が触れ合う、温かな感触。

 それは僕の心を安らげつつ、同時に、僕を淫らな気持ちにさせたのだ。


(エマ……可愛い。好き、大好き、愛してる。僕と同じベッドで寝てるってことは、キスくらい良いよね……?)


 どうしようも無い愛欲を抱いた僕は、その唇を彼女の唇へと近づけたそのとき、──ふと我に返った。


 すうぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………。

 んんんんんんんん??????????


(僕が、エマさんと、一緒に、寝ている、…………?)


 寝惚けた頭に、すーっと血の気が引いていく。

 やがて、状況判断を終えて全てを理解したとき、募りに募った過去の蛮行と現状が明確になり、──吃驚きっきょうした。


「うわあああああああああ!!!!!!!」

 

 ベッドから転げ落ち、テーブルに頭を打った。


「いてて…………あれ? 痛くない?」


 普通ならばテーブルに頭を打ったとき、それ相応の痛みに襲われる筈なのだが……。

 これまたどうして、痛みが微塵も無いのだ。


「んー……僕の身体の感覚、バグったのかなぁ……?」


 自分の頭を撫で、僕が疑問を呈しているとき。

 僕の声で起こしてしまったであろうエマが、その目を擦りながらベッドから起き上がったのだ。


「んっ、ふぁぁぁぁぁ………おはよう、ハルト…………」


「お、おはよう…………ヌッ!!??」


 なんと言うことでしょう……。

 何色にも染まらぬ上下両方の純白が、その姿を突如として僕の目の前に、顕したではありませんか……。


「あっあっあっあっあっ…………ブハー!!」


 あまりの美しさに感極まってしまった僕は、その度し難い興奮故に鼻血を吹き、そして倒れた……。


「どうしたのだハルト!!??」


 殺虫剤を撒かれて倒れた虫の如く、その手足をピクピクさせる僕に、エマは急いで駆け寄って来てくれた。

 だがしかし、追い討ちとでも言おうか……。

 此方に駆け寄ったときに揺れたエマのアレが、凄く凄かったためだけに、誇り高き童帝の僕には刺激が強く……

 

「ど……童帝オタクには、刺激がつよ……みっ」


 そう言って、死んでしまった……。


「ハ、ハルトーーーーー!!!!!!」


 こんなんで死ぬ訳無いだろ!

 いい加減にしろよ僕!!


「ふぅ……死にかけた」


「ハ、ハルトーーーーー!!!???」


 いや……鼻血の出過ぎで、普通に死ぬとこだったわ。

 ハルトの死因! 女子の下着を見て興奮し、出血死!

 とか……普通にヤバ過ぎて、親に顔向け出来ない……。


 と、そんなことを思っていると……。

 エマが僕の肩に手を添え、目を見ながら、その心配を呈してくれた。


「ハ、ハルトよ……だ、大丈夫なのか?」


「大丈夫って鼻血のこと? それなら全然大丈夫だよ!」


 大丈夫の意味は分からないが、エマが僕のことを心配してくれているのだ。

 そのことが嬉しく、出来る限り元気に答えると、エマは胸をそっと撫で下ろす。


「そ、そっかぁ……昨日のこともあったし、凄くビックリしたぞ……」


「ん? 昨日のことって?」


「・・・ん? 覚えていないのか?」


「んー……部屋に入ったところから、記憶が無いや……」


「そ、そっか……うん。それなら、知らない方が……」


 顎に手を当て、ボソッと呟くエマ。

 ──それなら、知らない方が……。

 その言葉の意味は気になるが、今はそれよりも、もっと気になってしまうことがあるのだ。

 そう、その気になることと言うのは、──下着である。


「あのー、エマさん……。それよりもですね、寝るときは何時も下着なんです?」


「あ? あぁ……そうだが? それが、どうかしたのか?」


「い、いえ……そのー……下着姿は、意中の男性以外に見せるものではありませんよ…………」

 

 うぅ……顔がアツいよぉ……。

 あまりの恥ずかしさに、僕は顔を塞ぎ込んだ。

 すると、不思議に思ったらしいエマが、首を傾げながらその口を開く。

 

「そう言うものなのか……んー、確かに小さい頃はよく、お父様とお風呂に入っていたのだが……最近は、お父様に断られるようになったな……」


「いやそういう問題!?」


「違うのか?」


「違うよ! それにさっ! 意中じゃない男と一緒に寝るのも良くないよ! 変なことが合ったらどうするのさ!」


「変なこと?」


「へ、変なことって言うのは……そ、その……こ、子どもが出来ちゃったりとか!!」


(何言ってんだ馬鹿ヤローー!!! 僕は馬鹿なのか? 大馬鹿ヤローなのか!? すすすす好きな人にこんなことを言うなんて、正気じゃないよ僕!!!)


 自虐に対する後悔と羞恥。

 それらが脳内でグツグツ煮え滾り、僕の頭はショート寸前だったのだ。

 しかしそれは、僕以上に純粋なエマの一言で、オーバーヒートすることになる……。


「ハハハ! ハルトは面白いな! 一緒に寝ただけで子どもが出来る訳無いだろう?」


 た、確かに……。

 子どもが出来るにはその……


「此処には畑が無いではないか!」


 そうそう畑畑……


「えええええええ!!!!????」


「何を驚いているのだ? この世界は滅亡してしまうかも知れない……いや、させないが。私とて王族なのだ。その様なことは小さい頃から、お父様とお母様に教えて貰っているぞ!!」


「おっふ…………」


 お、親バカだぁ……。

 いや……しかし、学校で教わる筈だ。

 そうだ、学校で教わらない訳が無い!

 僕だって、学校で知ったんだもん!!


「え? 学校とかでは習わなかったの?」


「あぁ、ソレなんだが……私が登校した日は、何故かその様な授業は無かったのだ。まぁ……私は王族として、一般教養さ知っているからな! 不要だろう!」


 お、親バカだぁ……(二回目)。

 これは駄目だ……。

 教えたら殺されるヤツだ。


「そ、そっかぁ……」


「あぁ! それに実際、子どもが実る畑があるぞ?」


 そう言って服を着たエマに連れられ、城の付近を示す地図を見た所、立ち入り禁止区域として本当に合った。

 しかも出来たのは、ここ十年くらいのことらしい……。

 これが本当なのか、はたまた、親バカ故の蛮行なのかは知らないが、僕はこんなことを思った。


(あ、この王様やべー……)


 そうして今日が始まった僕は、エマと二人で『ギルド』なる所と、『騎士団本部』なる所へと行くのだった……。


―――

 

【可哀想な生き物図鑑No1・ハルト】


ハルト君は可哀想なことに、その容姿からな人からモテていたのだが……。女が女から、男が男からハルトを守るとか言う、ハルトからすれば傍迷惑な騎士団が存在し、ハルトの好みそうな性格の人に、な嫌がらせをした。その嫌がらせと言うのが、コピペ告白の強制やら、身体部位入りチョコやら、物品盗難やら、リスカの写真やら……であり。その結果として、ハルトが告白にOKしたことは一度も無く、純粋過ぎるハルト君は童帝のままである。ちなみにその騎士団の団長と言うのが、例の腐女子と例の男友達だったのは、ハルトが知らないココだけの話。

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