第28話『仲間にして頂けませんか?』


 騎士団本部。

 それは、──城だった。

 正確には、城では無いのだが。

 城の様な容貌をしているのだ。

 そんな騎士団本部に、エマに連れられて行った僕は今、何故かエマと、手合わせすることになっていた。


◆◆◆


 騎士団本部のエントランス。

 エントランスの中央には大きな噴水があり、エントランス全体を、煌びやかなシャンデリアが照らしている。

 そんなエントランスだが、僕の目を奪った物があった。

 それは、母性に溢れ見る者全てを魅力する容貌の、そんな女神様が描いてある、綺麗なステンドグラスだ。

 その女神様は白の羽織り物を身にまとい、茶髪の髪に王冠を被っているのだが……。

 それは紛れも無い、──ヘラ様であった。

 個人的には、実物のヘラ様の方が美しいと、そう思う。


 そうしてエントランスを見終わった僕達は、アキレウス達が待っているであろう中庭に、向かうことにした。

 しかしその際、僕はとあることが気になっていた。


「エマさん、さっきから人を見かけませんね」


 そうなのだ。

 さっきからずっと、人一人見かけ無いのだ。

 騎士団本部と言うからには、騎士団員の数人……いや、数十人程度居てもおかしくは無い筈。

 しかし現実として、僕は騎士団本部の中で人を、一人として見て居ない……。

 広い内装とは裏腹に、あまりにも静か過ぎて、気味悪さすらある程だ。

 で、あるからこそ僕は、エマに質問をしたのだが、騎士団長であるエマすらも、どうやら分からない様子だった。


「そうだな……こんなことは、あまり無いのだが……それこそ何時もなら、みんなで駆け寄って来て、揉みくちゃにされるものなのだが……アレはアレで、無いと寂しいものなのだな」


 何処か感傷に浸ってる様子のエマ。

 そんなエマの表情は穏やかで、さっき見たヘラ様のスタンドグラスよりも、──女神様だった。


(エマさんのこの顔、好きだなぁ……。それにしても、エマさんが揉みくちゃにされてる姿が想像出来ない……)


 エマさんは美しく、格好の良い女性だ。

 そんなエマさんが揉みくちゃにされてる姿など、僕が想像出来るはずも無かった。

 だからこそ僕は微笑んで、こんなことを口走ってしまったのかも知れない。


「僕……エマさんが揉みくちゃにされてるところ、少しだけ見てみたいです」


「ハハハ! 特別面白いことでもあるまいよ。ただ、互いに生きてることを、肌に感じることが出来るだけさ」


 四年後に滅んでしまうかも知れない世界。

 この世界が、どうして滅ばなくてはならないのかとか。

 どうやって滅びるのかとかは、常人である僕には知る由も無いけれど……。

 意図も簡単に人が命を散らしてしまう、そんな危険なダンジョンに挑戦することが、どれだけ苦しいことなのか。

 それだけはきっと、今の僕にも理解出来ると思うんだ。

 だって、僕も苦しみを知ってる人間なのだから……。

 そして、そんな自分だからなのだろう、心とも無くエマの手を取っていたのは。


「大丈夫……エマさんは今、生きてます。こんなにも、温かいんですから」


 僕の左手とエマの右手が、互いに絡まり合う。

 エマの、宝石の様に綺麗な赤い目は涙に揺らぎ、シルクの様に艶やかな白い髪は風に揺らいだ。


「そうか……そうだな……。うん、確かに私は生きてる……それも、ハルトのオカゲだなっ!」


 そう言って、ニコリと微笑むエマを見たとき。

 何の確信もありはしないのに僕は、こう思ったんだ。


(あぁ……。きっと僕は……エマさんを護る為に、ヘラ様に転生させられたんだ……)


 そう思うと、何だか力が湧いてくる。

 何が合ったとしても、大丈夫だと思える。

 だからこそ僕は、慰めでも何でも無い本音を、この力に任せて言ったのだ。


「いえ、これは僕の力じゃありません。前にも言ったとは思いますが、ヘラ様から貰った言わばズルです」


 その通りなのだ。

 使える人が少ない高等治癒魔法である、アクスレピオスを使うことが出来たのも。

 神レベルの魔力が無いと使えない様な、そんな超高等魔法である死の魔術を使うことが出来たのも。

 全部、ズルのオカゲなのだ。

 そして……きっとこれからも、このズルに助けられていくんだと思う。


「だからこそ僕は、このズルに見合う成果を上げなくちゃならないんです……。そしてそれは、この世界を救うことで得られて……だから、同じ目的を持ってるエマさん達と出逢うことが出来た……。それってきっと、運命だって僕は思うんです」


 そう言った僕は、エマの手を取ったまま跪き……。

 そして、最後の言葉を紡ぐ。


「僕は僕が何を出来るのか分からないけれど、このズルで誰かの役に立てるのなら僕、戦います。だからエマさん、僕のことを仲間にしてはくださいませんか」


 真摯な眼差しでエマを見詰める。

 しかしエマの方は、何故か俯いたのだ。

 

(やっぱり……ダメ、かな……)


 そう思ったときだ。

 エマは身体を震わせると、大声で笑ったのだ。


「プフッ……ハハハハハ!!!!」


「え……? 何故に笑っておるんです?」


「いやぁ……すまない。仲間にするも何も、それは此方からお願いする事だし。何を言うかと思ったら、ハルトが凄く真面目な表情で言うものだから、少し可笑しくてな」


 ──はぁ、笑った笑った。

 そう言うエマを見て、僕の顔は真っ赤になった。

 なんだろう、この気持ちなんだろう。


「むうううううう!!!」


「すまないすまない。そうでなければ、騎士団本部なんて来る筈が無いだろう?」


「むぅ、そうだけどさぁ……」


「そうプリプリせずに……さぁ、行こう。今からハルトには、私と手合わせして貰うからな!」


「・・・えっ?」


 そうして連れられた中庭には、アキレウス達四人や、その他の団員がゾロゾロと居た。

 そして僕は今は、多数の観衆に囲まれながらも、木剣を装備したエマと、対面して居るのだ。


「ええええええ!!!!!?????」

 

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