フィアナ騎士団・入団篇

第9話『異世界ってすげぇ』


「……………………」


 僕は彼女を抱き抱えながら、辺りを見回した。

 周りにはそう、彼女の仲間と思わしき四人が、地面に倒れて居るのだ。


「どうしよう……」


 抱き抱えている彼女を見る。


「でも、その辺に寝かせるのもなぁ……」


 倒れている人を診たいのは山々なのだが、地面は彼女を寝かせるには凸凹し過ぎている。

 

 ふむ、どうしたものか……。

 

 そう、悩んでいる時だった。

 火緋色の炎が燃え盛り、倒れている一人の身体を灰と化したのだ。


「は……? なんだアレ……」


 信じられない光景に驚愕した。

 空いた口が塞がらないとはまさに、この様なことを言うのだろう……。

 だがしかし、呆けている場合では無いのだ。

 気を取り直した僕は、彼女を優しく地面へと寝かせ、燃えている人へと駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


 服が、肉が、血が、骨が焼けていく。

 近づく度に血腥い臭いが強くなり、鼻腔の奥を掠っては離れない。


「アッツ……!」


 両手で顔面を防ぐ。

 火元から三メートル離れている所なのに、肌が爛れそうなくらいに熱い。

 

(くっ……! もう手遅れなのか……!?)

 

 と、そう思ったときだった。

 男か女かは分からないが、燃えている背の低い人物。

 その人物の燃え残っていた身体の全てが、一瞬で灰となって崩れ落ち、轟々しい光を放ったのだ。


「うわっ?!」


 眩しい……眩しくて前が見えない。

 瞳を瞼で覆い隠し、光のダメージを咄嗟に守った。

 

 ジリジリと燃える火の音が、徐々に小さくなる。

 それに伴い、肌に伝わる温度も低くなったのだ。

 やがて、瞼越しに伝わる光と肌に直接伝わる熱の、その存在が共に消失する。


「………………っ?」

 

 その事実に恐る恐る瞳を開くと、目の前で起こっている現実に驚愕した。

 今日は驚くことの連続だ。

 死んだことに始まり、女神様に転生させられ、転生後直ぐに化け物と戦い、そして今、──不死鳥を見ている。


「生き、返ってる……?」


 僕の目の前には今、赤髪赤目の可愛らしい女の子が、その姿を炎の中から顕にしていた。

 見た感じ、身体は傷一つ無い状態であり、服ですらも燃えた後を感じさせない状態。

 そんな、異様とも言える状態で、僕の目の前に存在して居るのだ。


「は、はは……は…………」


 異世界と日本。

 その常識が違うと思っていたつもりだったが、まさか、人が不死鳥の如く生き返るとは……


「異世界って……すげぇ…………」


 そんな言葉しか、これを名状出来るものが無い。

 もはや呆れ半分で、苦笑いを浮かべている程だ。

 

 しかし、これだけでは終わらない。

 

 間抜け面の僕が、苦笑いを浮かべているときだった。

 倒れていた筈の人達四人が、その息を吹き返して、起き上がったのだ。


「ケホッケホッケホッ……状況は、どうなってるの?」


 赤髪赤目の女の子が、咳き込みながら起き上がった。


「うっ……頭が痛いのお…………」


 髭を蓄えているガタイの良いオジサンが、その頭を抑えながら起き上がった。


「ヘファイストスか……余は死んだ筈じゃが……生きてるってことは、エマの魔法かのう……」


 耳が長い銀髪碧眼の美人が、脱力しているのか、壁に寄り添いながら起き上がった。


「だ……団長…………団長………………」


 虚ろの目をしている金髪碧眼の男子。

 その男子は歯を食い縛って地を這う。

 寝ている彼女の方へと、徐々に、徐々に。


 僕はその光景を、ただ眺めることしか出来なかった。

 あまりにも一途で献身的で、自分を厭わない、真の愛情がそこにはあったからだ。

 どうして二人の間に、ただ一目惚れしただけの僕が、割って入って水を差せようか……。


「……………………………………」


 得体の知れない感情が波打った。

 ポツポツと、水滴が地面に滴り落ちる。


 ──僕は、部外者だ。


 そう、感傷に浸っているときだった。

 トントンとした感触が、僕の肩に伝わった。


「お主、何者じゃ?」


 優しい声の裏側に、何処か警戒心を感じる男声。

 その声に振り向いた僕の目には、儚くて切ない、そんな無意味な涙が溢れていた……。


「なっ!? 何故泣いておる?!」


 あぁ……この人は、優しい人だ。

 警戒心はありつつも、本心で心配してくれている。


「い、いえ……何でも無いんです……えへへ」


 頬を爪でポリポリとかいた。

 僕の目の前には、優しいオジサンと、徐ろに警戒をしている耳の長い美人が居て……。

 そして僕の後ろには、寝ている彼女と、そんな彼女を心配しているイケメン、と不死鳥系女子が居るのだ。

 それらの人々は、身体に痛々しい傷を負い、今にも目の前の美人が倒れそうにふらついている。


「そー言えば、僕が何者か……ですよね? それについては皆さんが元気になってから、色々と説明しますね」


 袖で涙を拭き、指輪を構える。

 右手の人差し指に嵌ってる指輪に、辺りの大気を急速吸収させる感覚……。

 それを研ぎ澄ませ、魔術の神輪ヘカテイアに相応の魔素及び、変換された魔力が蓄積させたとき。

 自分が仲間だと思っている対象に、超広範囲の回復を可能とするのだ。


超治癒魔法アクスレピオス


 部屋に居る僕以外の五人の身体が、瞬間的に癒える。

 まぁ……あの不死鳥系女の子は、最初から傷が無かったから意味無いと思うけど……。


 と、そんなことを思っていると。

 耳の長い美人と優しいオジサンが、張り詰めていた緊張の糸が解けたのか、脱力して座り込む。


「はぁぁぁぁ…………アクスレピオスをワシらに使えるってことは、敵意は無いってことじゃな…………」


「その通りじゃなヘファイストス」


 この優しいオジサンの名前は、ヘファイストスと言うのか。


「余も一回死んだりで、体力がきつぅてきつぅて……今直ぐ寝たい……のう…………」


 ウトウトしながら言った耳の長い美人は、やがて、優しいオジサンの肩に頭を寄り添い、眠りについた。

 そんな、何処か微笑ましい光景に僕がはにかんだ。

 すると、ヘファイストスさんが寝ている耳の長い美人を優しく抱き抱え、立ち上がった。


「そいじゃ、コッチに付いて来てくれ。お主が言った通り色々と説明して欲しいからのお」


―――


【世界観ちょい足しコーナー】


超治癒魔法アクスレピオス

この魔法には、四段階の効果がある。

一段階目。──自分のみの治癒。

二段階目。──仲間と認識した者も含めた、全体治癒。

三段階目。──個人の蘇生。

四段階目。──仲間と認識した者全体の蘇生。

段階が上がる毎に、その効力と消費魔力が上がるのだ。

 

(全体系の回復は人数によって消費魔力が増える)


治癒魔法ヒギエイア

アクスレピオスとは違い、言わば健康状態の回復をする治癒魔法である。毒や麻痺等の状態異常に加え、吐き気や頭痛等の症状に、肌年齢の若返り等々が出来るのだ。戦闘でよく利用するのがアクレピオスだとすると、日常でよく利用するのがヒギエイアと言える。


〇エマとプロメテウス以外は、一回は死んだことあるよ。

※An〇therなら普通に死んでたね!

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