第7話『女神様と二つの選択肢』


 僕は、久しぶりの登校をしていた。

 その通学路が何処か懐かしくて、昔のことを思い出しては、感傷に浸っていた。

 しかし同時に、学校に行くことへの不安もあった。

 それを紛らわす為に『僕なら大丈夫!!』と、確証も無く自分に言い聞かせていた。

 

 そんな通学路で、とある女の子を見つけた。

 その女の子は小学生低学年くらいで、赤信号なのに横断歩道を渡っていたのだ。

 『赤信号とか分からないのかな?』 と、そんなことを考えていると、その女の子は走りだして転んだ。

 転んで擦ったのか、膝から血が出ていた。

 それに対して心配していると、眠そうにウトウトしているトラックが、女の子の方へと走って来たのだ。

 

 そんなトラックを見た女の子は漏らし、精一杯の声で泣き叫び、その恐怖を周りに知らせた。

 しかし、周り居る人は誰一人として反応せず、自分には関係無いと言った様子だ。

 実際、僕も女の子を心配に思いつつ、心の中では何処か他人事だったのだから。

 

 女の子は、怖くて立ち上がれなくなって居た。

 トラックの運転手は、女の子に気づいて居ない様子。

 徐々に、女の子とトラックの距離が縮まっていった。

 

 僕がどうすれば良いのかたじろいでいると、あと少しで衝突しそうになった瞬間。

 女の子が一言、たった一言。

 僕の方を真っ直ぐに見て、恐怖で声が掠れながらも、精一杯な声で言ったのだ。

「お兄ちゃん、たすけて……」

 その言葉を聞いた僕は、無意識的に荷物を投げ捨て、女の子の元へと全速力で駆け出していた。

「もう大丈夫だよ」

 そう言って助けた僕は、急に曲がって来たトラックに吹き飛ばされ、十八という若さで命を散らしたのであった。


◆◆◆


 意識が覚醒した。

 視界に知らない天井が映る。

 身体にはフカフカとした、温かい感触が……。

 どうやら僕は今、ベッドに寝ているらしい。

 僕は起き上がると、自分の心臓に手を当て呟く。


「……あれ? 生きてる……?」


 僕は死んでしまった、その筈だったのだ……。

 しかし僕の心臓は今も、鼓動を鳴らしている。

 僕は透明じゃない手を、グーパーと動かしてみた。

 普通に手が動くし、動かした感触もちゃんとある。


 そして一つ。

 手を動かしたときに、気づいたことがある。


(なんで、リオンT着てるんだろう?)


 そうなのだ、僕は制服を着て登校をしていた筈。

 それなのに、リオンのTシャツを着ているのだ。

 

 しかし今は、他に留意するべき点があった。

 それは、僕が寝ていたこの部屋のことである。

 

「そう言えば……ここ、何処だ?」

 

 呆然とした僕は、辺りを見回した。

 ここの感じは、まるで、高級ホテルの部屋だ。

 ダブルベッドにソファー、大きなテレビがある。

 

 しかし、それだけだ。

 他に、これと言った情報が無い。

 無いから、考えようが無い。

 

 きっと誰かが、僕のことを助けてくれたのだ。

 そうだ、そうに違いない。

 ならば、ここが何処か考えるだけ無駄だ。


「…………もう少し寝よう」


 毛布を被って、また寝ようとしたとき。

 寝ようとして、横になったとき。

 寝っ転がっている美しいお姉さんと、目が合った。

 そのお姉さんは、美しい白肌の巨乳で、茶髪のお下げに王冠を被り、白の羽織物を身に付けている。


「また寝ちゃうの? 寝る子は育つと言うものね! 元気に育つのよ?」


 あぁ……この人の声、すっごく安心する。

 それに、なんて気品溢れる、綺麗な人だろう。

 女性が苦手な筈なのに、惚れてしまいそうだ。


(………………ん? いや、待てよ。そもそもさ……なんで、僕の横で寝ているんですかね?)

 

 んんんんんんんんん?????????


「………………ぎゃああああああああ!!!!」


 知らない人が僕の横で、しかも、同じベッドで寝っ転がっていることの驚愕。

 それに脳がオーバーヒートした僕は、叫び声を出しながら、そのベッドから転げ落ちた。

 床に転げ落ちたときにぶつけたのか、頭が痛い。


「いてて…………」


 頭を軽く摩ってみる。

 タンコブは……無さそうだ。

 

 それにしてもビックリした。

 知らない所で知らない女性と寝てるとか、どんなシチュエーションだよ……怖いよ、ホラーだよ。


「あらあら……ホラーとは、失礼しちゃうわね?」


「いや、知らない人と寝てたらホラーで、しょ……?」


 んんんんんんんんん?????????


「すうううううう…………なんで、僕の思考が分かったんですかね?」


「神様だから?」


 あー、なるほど……神様か。


「そうよ?」

 

 それなら納得……って! な訳あるか!!

 いやいやいや、可笑しいから!

 知らない人と知らない所で寝てるのも大概だけど、人の心を読む自称神様も可笑しいから!!


「……えっ!? なんで?!」


 頭を抑えながら、受け入れ難い現実に、健気にもツッコミを入れていた。

 それはもう、盛大な脳内ツッコミだ。

 しかし、それを繰り返した今、僕は、とある重大な事実に気づいてしまった。


(ん? そう言えばこの人、僕の心と会話してない?)


「してるわね?」


「なんで僕の思考と会話してるんですかね!?」


「神様だから?」

 

「あー、なるほど……神様か。それなら納得……って! これさっきもしたよ!! 天丼だよ!!」


「あらあら。これは、取られたわね……天丼だけに!」


「やかましいわ!! いや……でも、それ美味いな……天丼だけに……」


「返してくれるなんて……まさに、丼でん返しな展開ね!」


「「わーはっはっはっはっ!」」


 一連の親父ギャグやり取りを交わした、僕と女神様。

 そんな、理解不能で名状不能な現実に、僕は頭を抱えた。

 

「死んだと思ったら、僕。なんで、女神様と寒いギャグ連発してるんだろう……」


 膝からガクッと崩れ落ちる僕。

 そんな僕を見ている女神様はベッドに腰を掛けており、右頬に右手を添え、微笑んでいる。

 

「まぁまぁ……そーゆー日もあるわよ? ね?」


「はぁ……? あ、そー言えば何ですが……どうして僕を女神様が、ココに呼んだんですか?」

 

 そう言えばそうだ……。

 色々なことが合って忘れていたが、どうして僕は、女神様の元に居るのだろうか?

 薄らとだが……自分が死んだことは、覚えている。

 そして今、僕の目の前に居る、女神様と言う存在だ。

 それらの要素から推測するに、本当に今更だが、ココは死後の世界だろう。

 次いでに言えば、仏教だと、死んだ後は閻魔大王様の所に行って、死後の裁判をするのだとか……。

 つまり僕は、本当に恐らくだが……天国行きか地獄行きかを決める、そんな、重要な局面に居るのかも知れない。

 で、あるならば、不敬の無いようにしなければ……どんな所か詳しくは分からないが、地獄には落ちたくない。


「死後の裁判とか……そーゆーの、なんですか?」


「あらあら。私ったら……つい楽しくて、本題を忘れていたわね……」


 本題を忘れていた……?

 つまり、死後の裁判では無いのか?


「ほ、本題とは、なんでしょうか……?」


 僕が恐る恐る聞くと、女神様は穏やかな笑みを浮かべ、トンデモナイことを言い放つ。


「グレースって言う箱庭世界異世界に転生して、とある女の子と世界を救って貰おうかなー……って?」


(グレース? 異世界? とある女の子と世界を救う? いやいやいや……は?)


「じょ、冗談……ですよね?」


 ニコーッ!!

 女神様の微笑む攻撃!

 僕には、(恐怖で)効果は抜群だ!!

 

 魂が抜けそうだ……。

 いや……もう死んでるから、魂が抜けるも何も無いか。


「は、はは……は…………みっ」


 僕が幽体離脱していると、女神様は困り眉をして、右頬に右手を添える。


「あらあら。仕方ないわね……そんなに嫌なのなら、特別に選択肢を上げましょう!」


 この言葉を聞いた僕の魂は、口から体内へと戻り、意識を覚醒させた。


「ほ、本当ですか!? 引き篭っていたものの、最期に善行を行えてて、よ"か"っ"た"ぁ"……」


 僕が前世の善行に安堵していると、女神様は二つの大きな看板を、どこからとも無く取り出す。


「そ、それで。選択肢と、言うのは……? ゴクリ……」


 僕の言葉にコクリと頷いた女神様が、二つの内、一つ目の看板を前に出すと、絵と文字が浮かび上がった。


「一つ目の選択肢はグレース! チート付きの転生よ!」


 看板には「四年後までにダンジョンを十二階層踏破して世界を救う!期限切れで世界滅ぶよ!」、と書いてあり。

 絵の方は、白髪赤目の女の子と僕が手を繋いでおり、その周りに四人の人物が描いてある。

 そんな、何処か楽しそうな印象を受ける看板だ。


「な、なるほど……? チート付き転生、ですか……。それはそうと女神様。チート付き転生なんて、何処でそんな言葉を覚えたんですか?」


「ふっふっふっ! 神様は暇なのよね、だから色々と人間の文化を学んだのよ! ふんすっ!」


 えぇ……(困惑)

 チート付き転生とか言う女神様、嫌だなぁ……。

 ライトノベルの中だけで合って欲しかった……。


「な、なるほど……それは勉強熱心ですね?」


「でしょー? それじゃあ次の選択肢を出すわね」


 可愛らしいドヤり顔の女神様が、二つ目の看板を前に出すと、先程同様に、絵と文字が浮かび上がった。


「じゃじゃーん! レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し! エ〇デンリング世界に転生!!」


 看板には「次いでに武器縛りで、全ボス討伐! 死んだら死ぬよ!!」、と書かれてあり。

 絵の方は、ツ〇ーガードに僕が虐殺されている、グロテスクな風景が描いてある。


 ふーん、なるほどね。

 レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し、蘇生無し、武器縛り全ボス討伐、エ〇デンリングか……ふっ。


「喜んでグレースに行かさせて貰います! 舐めた口きいてすみませんでした!!」


 日本人(特に社会人)のお家芸、The土下座。

 床に頭を擦り付ける姿は、滑稽でありながらも、何処か美しさすらもあり……。

 自分の中に流れる、純粋な日本人の血が、色んな意味で滾っているのを感じた。


 マジで無理、絶対無理、死ぬ、百万回死ぬ。

 死にゲーに転生して復活無しとか、余裕で来世にお願い自殺するレベル。


ーーー


【世界観ちょい足しコーナー】


○陽翔がリオンTシャツなのは、それが、陽翔の魂に一番根付いている衣服だからです。


 

エ〇デンリングは簡単に言うと、死にながらストーリーを攻略する言わば死にゲーです。「普通」に攻略しても、死ぬ人は全クリまでに数百回と死にます。そんなゲームで縛りプレイをすんのは、もはや変態と言う名の神です。人間やめてます。そんな世界に転生したい人は、いな……いないよな…………?


〇以下茶番

 

『死にゲー博士』

読者のみんな。ここに三つの選択肢がおるじゃろ?この三つの選択肢の中から好きな転生先を一つ選ぶんじゃぞ?

と、言いたいところなんじゃが、一つはもう選ばれてしまってのぉ……この二つで我慢して欲しいのじゃー


①無理ゲー転生:エ〇デンリング

【特徴】レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し、蘇生無し、武器縛り全ボス討伐。


②最凶ゲー転生:S〇KIRO

【特徴】忍具禁止、回生禁止、アイテム禁止、生命力&攻め力初期値縛り、バク無し、チート無し、蘇生無し、全ボス討伐。


『死にゲー博士』

ワシのオススメは②じゃよー

 

※その後の人生は保障しないものとする

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