第19話『王との謁見』
城の中へと足を踏み入れた。
その城は、どちらかと言えば神殿に近いのだが、神殿かと聞かれればイエスと答え難い。
そんな城の中には、沢山の目を奪われる物が合った。
大小それぞれの絵画は、繊細なタッチによって仕上げられており、一目でその価値を理解出来る代物で。
精巧な造りの石像は、肉体美を感じさせる物が多く、この世界の芸術センスが地球と同じであることを理解した。
やはり何処の世界でも人は、エロスに目を惹かれてしまう運命にあるのかも知れない。
そんな美術品を物珍しさに僕が見ていると、みんなから勘違いされてしまい、エマに「エッチ」と言われた。
その言葉は普通なら罵倒なのだが、最近の僕は感覚が麻痺しており、ご褒美だと解釈しているのだ。
そんな僕は今、新たな黒歴史誕生の果てに、グレース王の御前に跪いて居た。
「エマよ、この者は何だ」
王座に儼乎たる姿勢で座っている王は、その反面で何処か優しい印象を与える顔だ。
そんな王がエマに問うと、同じく跪いて居たエマは、その顔を上げて答える。
「はっ! この者は我等の命の恩人で御座います」
言葉を紡ぎ終えたエマは、再度頭を下げた。
その姿の何と凛々しく、美しいことか。
顔を伏せながらも、横目で見ていた僕の心を、ぎゅっと掴んでは離してくれない。
(カッコイイなぁ……)
そんな格好の良いエマに近づく為に、より一層無礼の無い様にしなくてはと、そう思った。
「ふむ……それは誠か? 名も知らぬ者よ」
名も知らぬ者とは、おそらく僕のことだろう。
ココは大事な場面だ、絶対に間違える訳にはいかない。
気合いを入れた僕は、顔を上げて謙虚に、だけど力強くその言葉を紡いでいく。
「はっ! 左様に御座います。あのときはエマさん以外が蘇生中で、唯一戦えるエマさんもボロボロでした。そんな状況でしたから、最悪全滅も合ったと、
出来る限り自分を下げて、出来る限り相手を上げる。
しかしながら自分の有用性を示す為に、その功績を遠回しにアピールしなくてはならないのだ。
その塩梅が良く分かっておらず、平然を装っている僕の心臓はずっと、ドクンドクンと鼓動を鳴らしている。
(あぁヤバいかも……滅茶苦茶顔に影が着いてるし、何も反応が無い。これ、死んだかも…………オワタ)
人生が終わったと思った。
そう思ってしまう程に、恐かった。
しかし、そんな得体の知れない無味無臭の恐怖は、大きな哄笑に絆されて消えることになる。
「ハーハッハッハッハ!! そなたは誇りと申すか!! なるほど、中々どうして謙虚だっ! よかろう、我に名を名乗ることを許そうぞ!!」
誇りとは、それ即ち。
自尊心であり、自惚れであり、名誉と思うこと、そのものである。
故に王は、陽翔の言い分をこう受け取ったのだ。
──我等を助けることに品位を感じ、それを守ることを最大の名誉とする救世主。
で、あるからこそ、その様な献身的で謙虚な陽翔に、王が自ら名乗り出ることを許したのだ。
「王よ、その大心遣い有り難き幸せに存じます……」
僕はそう言うと、深く頭を下げ。
その目を、王へと真っ直ぐに見詰めた。
「名をハルト・タカハシ」
まずは、堂々と名前を名乗り。
「この命を拾ってくださった、慈悲深い女神様にこの世界を救う使命を賜り。この指輪と共に、異なる世界より馳せ参じた」
僕の神器である三つの指輪を見せつつ、そして女神様の存在をアピールし。
最後に、その身分を明かす。
「使徒に御座います」
と、キリッとした目付きと姿勢で。
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