第17話『姫Tのイケメンおにーちゃん』


『はいこれ、アルテミスさんの弓と短剣』


 あ、やべ……普通に下ろすの忘れてた。


『感謝するぞ、プロメテウス』


「知らない人に抱き抱えられてて、ビックリするよね。ゴメンね……。今下ろすから」


『じゃあ、こっちもっすね。はい、ヘファイストスさん』


「あ、あぁ……」


『おう、ありがとうのお』


 縮こまりながら言うエマの、まるで借りて来た猫の様な姿に萌えた。


『はい、これ。アキレウスの槍と盾』


『ありがとうっす!』


 ずっとこのまま抱き抱えていたいが、それでは、エマに嫌われてしまう……。

 そう思った僕がエマを下ろすと、一瞬だけ照れた表情を見せつつも、直ぐにキリッとした表情になった。


「色々と聞きたいことがあるが、まずは我々フィアナ騎士団と共に、城に来て頂きたい……」


 エマが言葉を紡いでいくと、先程まで武器の交換をしていた面々が、僕の前にやって来た。


「名前も知らぬ者よ。私を運んでくれたこと、我々と助けてくれこと心より」


「「「「「感謝する」」」」」


 感謝の言葉で締め括られると……。

 彼女等は、自分の胸に手を添え、会釈した。

 

 その姿の、何と凛々しいことか……。

 瞳には消えぬ炎の光が宿っており、その雄々しさに思わず身震いしてしまいそうだ。


「い、いえ……こちらこそ?」


 あれー? こーゆーとき、何て言えば良いんだー?

 そんなことを内心で思っていると、エマがクスッと微笑んで言う。


「ふふっ。それでは行こうか、着いて来てくれ」


「はいっ!」


 一歩、また一歩とその歩を進める。

 やがて、その歩が民衆の前まで進むと、民衆は真ん中を空けて道を作ったのだ。


(はえー……すっげ……)


 そう関心していると、青い声が聞こえて来た。


「ねぇイケメンのおにーちゃん! なんで、おひめさまのおふくをきているのぉ?」


 それは、年端もいかない少女の声。

 その純粋とも言える言葉を聞いた六人は歩を止め、そこに居た陽翔以外の人達が、その顔に影を付けた。

 何とも言えない空気感が漂う。

 そんな空気感の中で、この場に居た人達がみんな、心の中で同じことを思ったのだ。

 

『遂に言っちゃったかぁ……』

 

 もしかして僕、ずっとオタTだったの?

 ──エマを抱き抱えてたときも?

 ──カッコよく自己紹介したときも?

 ──エマを助けたときも?

 ──ずっと?

 記憶を、超高速で遡った。


(あ……そう言えば僕。ヘラ様と逢ったときも、このオタTだった様な………………)


 僕の目の前にいる少女が、目をキラキラと輝かせ、僕のことを真っ直ぐに見ている。


(まずいまずいまずいまずいまずい。何? この年端もいかない少女に、「これオタTなんだよねーwww」って、言えば良いの? バカじゃないでしょ!! そんなん言える訳無いって!! あっ……そうだ!!)

 

「このTシャツ可愛いでしょ?」


『・・・あっ、終わったな…………』

 

(って……おいいいいいいいい!!!! 何をバカなこと口走ってんだよ僕!! みんなから、めちゃくちゃドン引きされてるわ!! もう駄目だァ……お終いだァ…………)


 冷や汗をかき、顔に影を付けている僕。

 そんな、絶望を隠しきれてない僕に、小さな女神が微笑んでくれたのだ。


「うんっ! かわいい!!」


 それは、裏の無い屈託とした笑み。

 その笑みはまさに、人類を光へと導く、光の女神そのものであった。


『ホッ………………』


 女神の純粋さに、周囲の全員がホッとしていると、女神が続け様にニコリと笑う。


「イケメンって、なにきてもにあうんだね!!」


「あ、ありがとうね…………」


 複雑な気持ちの僕が、純粋な女神の頭を撫でた。

 撫でられている女神は、気持ち良さそうに、その目を細めている。


「そ、それじゃあ……なんだ……城に行くぞ…………」


「は、はいっ!」

 

 そんな、一種のコミュニケーションを終えた僕達は、エマの声で再度足を進めた。

 人を掻き分け、坂を登り、階段を上がる。

 そうした道の末に、僕達は『グレース城』の目の前へと着いて居た。

 

 このときの僕は、まだ知らない。

 僕が民衆から、『姫Tのイケメンおにーちゃん』と、そう言われていることを……。

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