第9話

「エマ様。ここに来て1ヶ月が経ちましたけど、少しは慣れました?」




フリフリのメイド服に身を包んだメイドのリリィが私の顔を覗き、パッチリとした目を瞬かせて微笑む。



可愛い…。推せる。


純粋無垢な瞳にファンレターを300枚。



彼女は私より2つ下の18歳らしいが、顔付きは少し幼い。


小さい顔をコテンと傾げる姿はまるで天使。



背も小さいし、体も華奢、縦巻きのツインテールがよく似合う。



愛おしいったらありゃしない。


この窮屈な広い檻の中で彼女だけが私の癒やし。




「少しだけね。空気も良いし」




体を軽く伸ばし、微笑むリリィにニコっと口角を上げて返事をする。



本当にそう。


この辺は街と違って空気は良い。


自然もいっぱいだし、元々花屋で働いていた私は庭園で花を育てるのが何よりの楽しみ。



ただ口では少し慣れたと言ったものの、本当はあんまり慣れていない。



家の中は広すぎるし、侯爵様は突拍子もなく来るし、人が多くて気が休まらない。


マナーだとか仕事だとか覚えることも多くて結構大変。



しかも、奥様…。


そんな名称で呼ばれている自分にまだまだ違和感がある。



つい1ヶ月前まで街の花屋で働いていたのに。


今や何故か侯爵婦人。


信じられない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る