第27話


「エマ」



夜遅く。寝室のドアが開き、リュカ侯爵様が部屋に入ってきた。


既に入浴も済ませ、寝巻き姿。かくいう私も寝る準備を終えてネグリジェを着ている。


 

「お帰りなさい」


「あぁ、ただいま……」



傍に駆け寄ると侯爵様は力なく私を抱き締めてきた。


魂の抜けたような顔をしてグッタリ。


火の消えた暗い顔をしている。



きっとマリア様が家に帰って寂しいんだろう。


先ほどまで家に送り届けに行ってたから。



マリア様が他の男の人の元へ行かれたから尚更寂しいのかも知れない。


地獄と化しかけていたお茶会も楽しいものになったみたいだし。




「元気を出してください」 


「あぁ」



背中に手を回してそっと撫でる。



すると、侯爵様は私の肩にオデコを乗せて深い溜め息を吐いた。


続けて甘えるように顔を擦りつけ、掠れた声で囁く。



「ねぇ、エマ……。顔を足で踏まれたいと強請るのはそんなにおかしなことかい?」


「えぇ。おかしなことです。館の外では絶対におヤメください。旦那様」



あまりの発言に気が動転してしまった。


思わず立場も忘れてスパッとと侯爵様に注意をする。



侯爵様は勢いよく顔を上げると納得できないと言いたげに綺麗な碧眼を見開いた。


私の肩を掴み「それはおかしい……!あり得ない!」と叫び出さんばかりに重々しく首を横に振っている。



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