第17話





「特別手当てを出そうと思う」



ベッドから起き上がるなり、侯爵様は頬を紅潮させて真面目な口調で言った。


興奮冷めきらぬ様子で額に手を当てながら。


ふざけてるんだか、本気なんだか、放心した顔で。



特別手当てって…。


そんなに名前を呼ばれたのが良かったのか…。


なら、その手当てで弟の新しい服を買ってあげよう…と、疲れた体を起こし、ぼーっと考える。




「そんなに良かったですか…?」


「凄くイイ!最高だったよ!」



聞くなりハイテンションで答えた侯爵様に苦笑いを浮かべる。



純粋な人だ。


素直に喜んじゃって。



でも、ちょっと複雑。


上手く真似出来た喜びと、別の人と重ねて見られている虚しさが、同時に心の中に押し寄せる。




しかし、侯爵様は無邪気なものだ。


顔を両掌で覆って照れた様子。


堪らない…!と言いたげだ。



うん。これはもう聞くまでもない。


よく想像出来たんだろう。



ここまで喜ばれたら責める気持ちも湧かない。



良かったね、の精神だ。

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