第29話
考えたって分からない。
私の頭では旦那様の行動心理を読み解くことは出来なくて、結局はされるがまま。
いきなり舌を這わされてビクつきながら侯爵様に身を委ねる。
「君、好きだよね。ここ」
「……っ、はい………」
「そこは“はい”じゃなくて“好き”でしょ」
「好き、です」
「じゃあ、ここは?」
いったい何の意図があるのか、手当たり次第に責められ、永遠に好きだと言わされる。
何故?と思うが、旦那様は教えてくれなかった。
快感に流されゆく私を見て、堪らなさそうに笑うだけ。
私も私で質問を投げる余裕は無かった。
与えられた刺激を大人しく受け入れることしか出来ない。
「旦那様……」
「名前で呼ばれたいな」
「……っ、リュカッ」
「いいね。今日はそのまま名前を呼んで好き好き言って欲しいなぁ」
何だか甘えるように強請られ、望み通り耳元で囁く。すると侯爵様は気を良くしたらしく、愛情を込めるように私を抱き締めた。
あぁ、永遠と終わらない夜がまた始まってしまう……。そう分かっていても拒否ることは出来ない。拒否したくないのか、契約だからか、自分でも分からなくなってて困る。
彼の願いに応える私もまた、彼に強請る側に立っているのだ。欲しいと言わされて粛々と彼の欲を受け入れる。
「エマ」
月明かりの下、侯爵様の私の名を呼ぶ声だけが私の存在が“エマ”であると告げていた。
複雑な思いはそのままに。自分の存在を綺麗に消して。私は今日も侯爵様の大好きなマリア様になりきって抱かれたのだった。
偽物奥様。契約結婚の名のもとに 柚木ミナ @yuzuki-mina
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