第4話 魔力の有無と力の使い方
リリアの屋敷にて、アークはリリアから魔力の基礎訓練を受けていた。リリアはその妖艶な瞳でアークをじっと見つめ、彼の魔力がどのようなものかを探っている。
「さあ、アーク……魔力を感じてごらんなさい。無理に力任せで感じようとするのではなく、あなたの中に流れるエネルギーに心を傾けるのよ……」
リリアの艶やかな声に、アークは少し戸惑いながらも目を閉じ、深呼吸をした。だが、どうしても彼の中で何かが巡っているような感覚は得られない。力を入れても、意識を集中しても、何も感じられないのだ。
「……うーん、わからない……」
何度も試してみるが、アークはただ首をかしげるばかりだった。リリアはその様子を見て、意味深な笑みを浮かべながら近づいた。
「ふふ……焦らないで、アーク。魔力というのは、そう簡単に感じられるものではないわ。特にあなたのように……力任せで生きてきた者にはね」
アークはその言葉に少しムッとした表情を見せた。「力任せって、俺はエルフだぞ。エルフが魔力を感じられないなんてことがあるのか?」
リリアは彼の問いに、艶っぽく微笑みながら肩をすくめた。「ええ、エルフは本来、風と水の魔法に秀でているの。でもね、魔力の流れを感じ取れなければ、それを使うことはできないのよ」
アークはその説明に頷くものの、まだしっくり来ていないようだ。彼は改めて目を閉じ、再び魔力を感じようとする。しかし、やはり何も感じられない。焦りと苛立ちが彼の表情に浮かぶ。
リリアは彼の肩にそっと手を置き、柔らかな声で囁いた。「ねえ、アーク……魔力は感じようとするものじゃないわ。もっと心を穏やかにして、自然に受け入れるのよ。無理に力を入れようとすると、余計に遠ざかってしまうものなの」
「受け入れる……?」アークはその言葉に首を傾げた。彼の頭の中には、ただ「力を振るう」ことしかなかったからだ。しかし、リリアの言葉が妙に心に引っかかり、彼はもう一度試してみることにした。
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しばらくして、リリアは一旦休憩を取ることにした。アークはうまく魔力を感じ取ることができず、苛立ちを隠し切れない様子だった。そんな彼の様子を見ていたフレイアは、ふと彼に声をかけた。
「なあ、アーク。お前、エルフなら弓も使えるのか?」
アークはフレイアの問いに一瞬、言葉を詰まらせた。そして周囲を見回し、庭の隅に落ちていた木の棒を拾い上げると、片手でポキリと音を立ててへし折った。
「こうなるんだよ……」
彼は呆然とするフレイアに、ため息をついて見せながら説明を続けた。
「俺が弓を握ると、こんな感じで全部へし折ってしまうんだ。だから、弓なんてまともに使ったことがない」
フレイアはアークが何の苦もなく木の棒をへし折る姿を見て、思わず唖然とした表情を浮かべた。心の中では「やはりお前はオーク……」と呟きつつも、その豪快な動作にはどこか笑いを堪えきれない自分がいた。
「そ、そうか……まあ、お前の力を見ていればそれも納得できる気がするな」とフレイアは言葉を絞り出す。
アークは少し頬を赤くしながら、「力が強すぎるせいだ……」と呟く。その姿に、フレイアは苦笑を浮かべながらも、少し微笑ましさを感じていた。
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再び訓練が始まった。リリアはアークにエルフの特性について説明しながら、もう一度魔力を感じる練習をさせることにした。
「アーク、エルフというのは風と水の魔法に長けているの。特に風の魔法は、エルフの身体的な軽やかさを活かして、戦闘でも移動でもとても役立つものなのよ」
「風と水の魔法、か……俺にはあまり縁がなさそうだな」とアークは少し自嘲気味に笑う。
リリアは彼の肩を軽く叩いてから、艶のある声で続けた。「そんなことはないわ。エルフだとすれば、才能が眠っているはず。でも、まずは魔力を正しく感じ取ることが必要ね」
アークは彼女の言葉に気を引き締めた。「わかった、俺に任せておけ!」と、彼は目を閉じて集中を始める。だが、まだ魔力の感覚を掴むには至らない。焦りの表情が浮かぶ彼に、リリアは再び妖艶な笑みを浮かべた。
「ほら、また力任せになっているわよ。魔力は無理に感じようとするものじゃないの。心の中を……もっと穏やかにね」
アークはその言葉に一瞬戸惑いながらも、リリアの声に耳を傾け、再び心を落ち着かせようとする。周りの風の音や、遠くで鳥がさえずる声にも意識を広げながら、自分の内側にある何かを感じ取ろうとするのだが、やはりうまくいかない。
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訓練の合間に、アークはふとフレイアに尋ねた。「お前も魔法が使えるのか?」
フレイアは軽く頷き、「ああ、私は身体強化の魔法を使える。戦場では役立つからな。お前も覚えられれば、力任せの戦い方だけでなく、もっと効果的に戦えるだろう」と説明する。
アークは彼女の話に興味を示し、目を輝かせて言った。「なるほど……身体強化の魔法か。俺がそれを使えるようになったら、今よりもっと暴れられるな!」
その発言にフレイアは一瞬目を見開いたが、すぐに冷静な表情でアークを睨みつける。
「違うだろう……魔法はただ暴れるためのものじゃないんだぞ。もっと使い方を考えろ」
アークは少しばつが悪そうに頭を掻き、「いや、そういう意味じゃなくて……」と口ごもる。だが、フレイアの鋭い視線に耐えきれず、結局言葉を飲み込んだ。
リリアはそのやり取りを微笑ましそうに見つめていた。そして、ふっとアークの方へ歩み寄り、優しく彼の肩に手を置く。
「アーク、まずは魔力をうまく扱えるようになれば、身体強化の魔法も風の魔法も使えるようになるわ。でも、暴れるための力じゃないのよ。あなたのその力、もっと人々のために役立てることができるようにしていきましょうね」
その言葉に、アークは少し戸惑いながらも真剣な顔で頷いた。「……ああ、わかった。俺の力をどう使うか、ちゃんと考えるようにするよ」
アークは決意を新たにし、もう一度魔力の感覚を掴むことに集中し始めた。彼の中に湧き上がる焦りや力任せの気持ちを抑え込み、ただ静かに自身の内側に耳を傾ける。
しばらくすると、彼の額に薄っすらと汗が滲んできた。訓練は一見地味だが、今までの彼にとっては未知の世界であり、思った以上に体力と精神を消耗しているのだ。だが、それでもアークは諦めずに続ける。リリアの言葉が頭に浮かぶ。「エルフだとすれば、才能が眠っているはず」——その言葉が、彼を前に進ませていた。
時間はゆっくりと過ぎ、リリアとフレイアは彼の様子を見守る。フレイアは、これまでの豪快なアークとはまるで別人のように、集中して訓練に取り組む姿に少し感心していた。そんな彼の努力が、ただの暴れ者ではないことを示しているように思えたからだ。
やがて、リリアがそっと声をかけた。「今日はここまでにしましょう、アーク。あなたにはまだまだ学ぶべきことがたくさんあるわ。焦らずにいきましょうね」
アークは目を開けて大きく息を吐くと、軽く頷いた。「ああ、わかった。俺はエルフだ。どんな困難にも立ち向かってみせる!」
その勢いのある宣言に、リリアは柔らかな笑みを浮かべた。「ええ、その意気よ。ただし、焦らずにね。あなたの中に眠っている力を、少しずつ引き出していくのだから」
フレイアもその場に立ち、アークの肩を叩いた。「まあ、まずは魔力の感覚を掴むところからだな。それができるようになれば、お前も少しは『エルフらしく』なるかもしれない」
アークは彼女の言葉に鼻を鳴らしながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべる。「ふん、俺は最初からエルフだ!」
「そうだな、お前がそう主張するならな……」フレイアは苦笑しながらそう答えた。
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アークが訓練を続ける日々は、簡単なものではなかった。魔力の感覚を掴むという行為は、彼にとって未経験であり、思い通りにならないことばかりだった。それでも、リリアの指導とフレイアのサポートを受けながら、彼は少しずつだが前に進んでいた。
ある日、フレイアがふとアークに声をかけた。「なあ、アーク。お前、エルフだとしたら、本当に風や水の魔法を使えるようになるのか?」
アークはその問いに、自信ありげに胸を張る。「もちろんだ!俺はエルフなんだからな。風の魔法くらい、すぐに使ってみせるさ!」
その発言に、リリアは微笑を浮かべつつ首を横に振った。「ふふ、そうね。まずは魔力を正しく感じ取ることから始めましょう。あなたの才能は……エルフだとすれば、眠っているはずだから」
アークはその言葉を胸に刻むように頷いた。フレイアは彼を見つめながら、少しだけ期待している自分に気づく。もしかしたら、彼は本当にエルフなのかもしれない——そう思える瞬間が、日に日に増えていくのだ。
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訓練を終えたその日、アークは庭に腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げていた。風が彼の頬を撫で、草木のさざめく音が耳に心地よい。魔力の感覚を掴むことはまだできていないが、彼は心の中に確かな変化を感じていた。
「魔力を使えるようになったら、俺はもっと……」
彼はフレイアが言った言葉を思い出しながら、再び拳を握りしめる。力任せではなく、魔法を正しく使えるようになれば、今よりもっと多くの人々を守ることができる——そんな思いが、彼の中に新たな決意を芽生えさせていた。
リリアの屋敷の中から、フレイアが彼を呼ぶ声が聞こえる。「おい、アーク。夕飯だぞ、早く入れ!」
アークはその声に応え、立ち上がる。「ああ、わかった!今行く!」
こうして、アークの魔力の訓練は続く。力任せの戦い方から、繊細な魔力の扱いへと変わろうとするアーク。その道のりはまだ始まったばかりだが、彼の心にはエルフとしての誇りが確かに宿っていた。そして、彼の周囲にはそれを見守る仲間たちがいる。その仲間たちとの絆が、彼の新たな力への第一歩となっていくのだった。
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