第13話 試練の幕開け
光に包まれたアークとフレイアは、互いに別々の場所へと引き離された。それぞれが自らに課された試練と向き合う瞬間が、今まさに始まろうとしていた。
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フレイアが目を開けると、そこは広大な草原だった。風が絶え間なく吹き荒れ、草の葉が波のように揺れている。空は透き通るように青く、雲一つない。だが、その風はただの風ではなく、まるで彼女の内面を見透かそうとしているかのように、重く感じられた。
フレイアは剣に手を添えながら周囲を見渡した。「ここは……何だ?アークもいない……」
その時、風が渦巻き、フレイアの前に透明な光が現れた。その光は徐々に形を取り、やがて風の精霊が現れる。優雅な姿をした精霊は、まるで風そのものの化身のようだった。
「私は風の精霊、この地で試練を与える者だ」と精霊は穏やかに語りかける。「フレイアよ、お前はエルフの友として、この剣『ウインドソウル』と共に戦う意志があるのか?」
フレイアはその問いに、一瞬言葉を詰まらせた。エルフの友……彼女はアークと共に戦い、エルフの魔法剣を手にしたが、自分がエルフの友であるかどうかは確信が持てなかった。しかし、アークと共に戦うことだけは確かだった。
「エルフの友として戦うか……それは、正直わからない」とフレイアは正直に答えた。「だが、アークを友として戦う決意はある。彼がどんな姿であれ、私は彼と共に戦う。だから私は、このウインドソウルを振るう覚悟を持っている。」
風の精霊はしばらく静かに彼女を見つめていた。風はますます強まり、フレイアの体を包み込むように吹きつけた。その風は、まるで彼女の決意を試すかのように、激しく荒れ狂った。
「お前の言葉は誠実だ」と精霊は穏やかに語った。「エルフの友であるかどうかは重要ではない。重要なのは、お前が誰のために、何のために戦うかだ。風は束縛を嫌い、自由である。お前もまた、自由な意志で戦う者なのだろう。」
フレイアは精霊の言葉に頷いた。「そうだ。私はアークと共に、自由な意志で戦う。」
精霊は静かに風を収め、再び語りかけた。「ならば、お前は風と共に戦う資格がある。ウインドソウルの力を完全に引き出すためには、風を操るのではなく、風と一体となるのだ。風は常に変化し、流動的だ。お前もまた、変化を恐れることなく戦え。」
その瞬間、フレイアの持つウインドソウルが光り始めた。剣が風の力を帯び、まるで風そのものが剣と融合しているかのようだった。フレイアはその力を感じ取り、剣を振るうと、風が彼女の動きに従って鋭く吹き荒れた。
「これが……風と共に戦う力……」フレイアは驚きと感動に満ちた声で呟いた。
精霊は微笑みながら、「お前はアークと共に、風の力を正しく使いこなせるだろう」と告げた。「だが、風は常に変わる。お前もまた、固定された形に囚われることなく、柔軟に戦う者であれ。それが風の本質だ。」
フレイアはその言葉を心に刻み、深く頷いた。「私にはまだ未熟な部分があるが、アークと共に戦い、共に成長していくつもりだ。」
「よかろう」と精霊は消えゆく前にもう一度微笑んだ。「お前の意志は固い。アークを友として戦う覚悟があるのなら、風はお前の力となるだろう。」
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フレイアが風の力を完全に手に入れたその瞬間、彼女の前の景色がぼやけ、再び精霊の森の中に引き戻された。彼女の心には確かな決意が宿り、アークと共に戦うことへの揺るぎない信念を得た。
「アーク……今度はお前の番だ」とフレイアは静かに呟き、彼の無事を祈った。
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次に、アークが向き合うべき湖の精霊との試練が待ち受けていた。アークが湖のほとりに立っていると、湖の水面が静かに揺れ、青白い光がゆっくりと立ち上ってきた。その光が集まり、やがて湖の精霊が姿を現した。精霊は静かでありながら、どこか威厳を感じさせる存在感を放っていた。
「我の声が聞こえるならば、そなたに流れる血はエルフのものに他ならぬ。」精霊は穏やかな声で語りかけた。「だが、外見に囚われている限り、そなたは真の力を得ることはできぬ。」
アークはその言葉に一瞬戸惑いを見せた。「俺はエルフだ。けれど、この姿はどう見てもオークだ……それでも、俺がエルフだと言うのか?」
精霊は静かに首を振りながら続けた。「そなたがエルフかどうかは外見で決まるものではない。大切なのは、そなたが何を求め、何のために生きるかだ。姿は心の鏡に過ぎぬ。そなたが心の内でエルフとしての誇りを持ち、己の力を受け入れるならば、外見などは意味を持たぬ。」
アークは精霊の言葉に少し考え込んだ。自分の姿を変えたいという思いと、エルフとして認められたいという願望が交錯していた。だが、精霊の言うように、外見に囚われている限り真の力は手に入らないのかもしれない。
「だが、俺はずっとこの姿に悩んできた。エルフとしての力を引き出したいと思っていたが、その壁を越えたとは思えていない……」
精霊は静かに水面を指し示した。「そなたの姿を見よ。それは、そなたが自分をどう見ているかの反映だ。己を受け入れ、内なる力を信じることで、真の姿が現れるであろう。」
アークは湖面に映る自分の姿を見た。そこには、オークのような外見が映し出されていた。肌は粗く、体格は巨大で、エルフらしさはまったく感じられない。しかし、よく見ると、その目の奥に、自分の強い意志が見えてくる。
「俺は……本当にエルフなのか?」アークは自分に問いかけた。
その瞬間、ノームがそっと地面に文字を書いた。「受け入れて」
アークはその文字に目を留め、さらに湖の精霊に視線を戻した。「受け入れる……か。」
精霊は静かに頷いた。「エルフであるかどうかではなく、そなたが何者でありたいのかが重要だ。姿に囚われることなく、己の力を信じよ。そなたがエルフであることに誇りを持つのではなく、何のために力を使いたいか、その意志が真の力を引き出す。」
その言葉に、アークの中で何かが変わり始めた。自分がエルフであることに固執してきたが、それが本当に重要なのかどうかを考え直す。フレイアと共に戦い、守りたいという強い意志が彼の胸に湧き上がってきた。
「そうか……エルフであるかどうかなんて、もうどうでもいい。」アークは拳を握りしめ、自分の中に確かな決意を感じ取った。「俺はアークとして、フレイアと共に戦いたい。彼女を守るために、どんな力でも手に入れる。それが俺の望みだ。」
その瞬間、湖の精霊が静かに微笑んだ。「よかろう、そなたの決意を見届けた。我は水を司る精霊であり、湖に宿る力を持つ。そなたにその力を授けよう。」
精霊が手をかざすと、湖の水が揺れ、その力がアークの体に流れ込んだ。水のように滑らかでありながら、強力な力がアークの内に宿っていくのを感じた。
「これでそなたは、己の力を引き出すことができるだろう。しかし、忘れるな。己を見失うことなく、その力を使いこなすことだ。」
アークは深く息を吸い込み、静かに頷いた。「ありがとう。これで俺は、フレイアと共に戦える。」
湖の精霊は静かに語りかけた。「我は湖の水を司る。しかし、海は広大であり、我が力の及ぶ範囲を超えている。海は無限の力を持ち、あらゆるものを包み込む。その前では、我ですら無力である。」
その言葉を聞いたノームは、じっと考え込んだように地面に文字を書いた。「海……見てみたい。」
アークはその言葉に少し微笑んだ。「そうか、ノーム。お前も海を見てみたいのか。」
ノームは元気よく頷き、さらに文字を地面に書いた。「一緒に行こう。」
アークは決意を新たにし、精霊に感謝の意を示した。「俺はアークとして戦う。エルフであることに拘らず、俺の力を信じていくよ。」
精霊が消えゆくと同時に、アークの周囲が再び霧に包まれ、彼は元の世界へと引き戻された。
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アークが戻ると、フレイアがすでに待っていた。彼女は新たな力を得たような輝きを放ち、彼に微笑んだ。
「無事に終えたようだな。」フレイアが声をかけた。
「ああ、俺は自分を受け入れた。姿なんてどうでもいい。俺は俺として戦うことを決めたんだ。」
フレイアは彼の言葉に頷き、「それでいい。お前がどんな姿であろうと、私はお前を友として共に戦う。エルフであるかどうかなんて関係ない。」
二人は再び笑みを交わし、次なる戦いに向けて歩みを進めた。
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