第12話 精霊の森への道
深い森の中、湿った大地が足元に広がり、まるでその先にある何かを拒むかのように険しい道が続いていた。エルフの里を出てから幾日も経過しているが、二人の進む道は少しも穏やかにはならない。それでもアークとフレイアは、迷いなく足を進めていた。ノームという小さな案内人が先導していることもあり、道に迷うことはなかったが、彼らが向かう精霊の森は簡単にたどり着ける場所ではない。
ノームはモグラのような愛らしい外見で、前足を使って土を掘る仕草が特徴的だった。森の道は険しいが、ノームが通るたびに、彼の前足が土を撫でるようにして道しるべを作っていく。まるで森そのものがノームに従っているかのように、地面はしっかりと踏み固められていった。
「こんな森をよく一人で進めるものだな……」アークは前を歩くノームを見つめながら、感心とも呆れともつかない口調で呟いた。
「彼にとっては、森は家のようなものだからな。」フレイアは冷静に答えた。「この森がどう変わろうとも、彼にはすべてがわかっているんだろう。」
ノームはそれを聞いてか聞いていないのか、鼻をピクピク動かしながら前足で地面を掘り続けた。土が軽く飛び散り、その後に滑らかな道が残る。ノームはその作業を黙々と続けていたが、急に立ち止まり、地面に前足で何かを書き始めた。
アークがそれに気づいて近づくと、地面には「危険な場所が近い」と書かれていた。
「危険……か?」アークは眉をひそめて、周囲を見回した。「何が出てくるんだ?」
フレイアも慎重にその場に目を走らせたが、森は静かで、動物の気配すら感じられなかった。しかし、ノームは真剣な表情で、地面にさらに文字を書き足した。「精霊の守りが強い場所に入る。道が閉ざされる。」
その言葉を読んだアークは、ふと前を見ると、目の前の木々が異様に密集していることに気づいた。それまでは何とか進めていたが、これ以上は人の手で木をかき分けることすら難しそうな場所に出くわしていた。
「なるほど、ここで道が閉ざされるのか……」アークは腕を組み、少し考え込んだ。「だが、どうやって進むんだ?斧でもあれば木を切り倒せるが……。」
その時、ノームが前足で土を掘り始めた。彼は素早く地面を掘り返し、まるで何かを探しているかのようだった。フレイアがその行動に気づき、彼に尋ねた。「何をしている?」
ノームはすぐに地面に文字を書き、「隠れた道を探している」と伝えた。
「隠れた道?」アークは驚いたようにその言葉を繰り返した。「この森にそんな道があるのか?」
ノームは静かに頷き、さらに掘り続けた。やがて、彼の前足が小さな岩を突き破り、隠された道が顔を出した。アークは目を見張った。ノームが掘り出した道は、まるで森が開けたように、自然のトンネルを作っていた。
「こんな場所に隠れた道があったのか……!やるな、ノーム!」アークは感心し、彼に軽く頭を下げた。
フレイアも少し驚いた表情でノームを見つめ、「さすが、森の案内人だな。お前なしではここを進むことはできなかっただろう」と褒めた。
ノームは鼻をピクピク動かし、少し誇らしげに見えた。そして再び地面に「この道は精霊の守りが薄い場所だ」と書き足し、二人に進むように促した。
アークはその言葉に頷き、慎重にその道を進み始めた。トンネルのように木々が折り重なり、足元はノームの作った道しるべが続いていた。ノームの案内によって、彼らは難所を抜け、少しずつ精霊の森の奥深くへと近づいていく。
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しばらく進んだ後、ノームがまた立ち止まり、地面に「もうすぐ精霊の森」と書いた。
「いよいよか。」アークは拳を握りしめ、いつでも戦えるように身構えた。「精霊の森に入ったら、すぐに何かが起きるかもしれない。気を緩めるな。」
フレイアも静かに頷き、剣に軽く手を当てた。「私も準備はできている。ウインドソウルの力を取り戻すために、ここに来たんだ。どんな試練があっても乗り越える覚悟だ。」
ノームは前足で軽く地面を掻き、「試練は近い」と書き残した。そして、さらに前方に進むと、彼らの前に突然広がる開けた場所に出た。そこには森の奥深く、神聖な気配が漂っていた。
「ここが……精霊の森の入口か。」アークは周囲を見渡しながら、低く呟いた。「静かすぎるな。まるで何かが俺たちを待ち構えているかのようだ。」
フレイアもまた、周囲の静けさに異様な気配を感じていた。「この場所には確かに精霊たちの力が満ちている。何かが私たちを試しているんだろう。」
ノームはその場で再び地面に文字を書いた。「ここで待て。試練が始まる。」
アークとフレイアはその指示に従い、じっと静かに待つことにした。ノームはその場で前足をピクピクと動かしながら、まるで周囲の変化を見守っているかのようだった。
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風が突然吹き抜け、森全体がざわめき始めた。木々が一斉に揺れ、まるで何かが目覚めたかのように、精霊たちの力が感じられた。その瞬間、アークとフレイアの目の前に青白い光が現れ、ゆっくりと漂いながら二人を包み込んだ。
「これは……精霊か?」アークはその不思議な光を見つめた。
その瞬間、二人の周囲が歪み始め、次の瞬間には全く異なる場所に引き離された。それぞれの試練が、今まさに始まろうとしていた。
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