第20話 山中での戦い
険しい山道を越え、アークたちは緑豊かな森の中を進んでいた。旅路はすでに数日を経過し、セレーネを気遣いながら険しい道を進んでいく。森は深く、周囲は静まり返っていた。だが、静けさの中にはどこか不穏な空気が漂っていた。
「この道は……思ったよりも過酷ですわね……。」セレーネはドレスの裾を持ち上げ、足元に気を配りながらつぶやく。彼女の表情には、初めて体験する山道の険しさへの戸惑いがにじんでいた。
「お嬢様にはちと厳しいかもな。でも大丈夫、俺たちがついてる。」アークはセレーネに気遣いの笑みを向けつつも、周囲に警戒の視線を走らせる。
「余計なことを言うと、緊張を増すだけだ。」フレイアはアークをたしなめるように言いながらも、ウインドソウルを握りしめた。「それに、何かいる……静かすぎるな。」
その時、ノームが地面に小さな文字を描き始めた。「森が静かすぎる。気をつけて。」ノームらしい可愛らしい字だったが、緊張感を漂わせていた。
「ふむ……ただ事じゃないな。」アークはノームの文字を見つめ、警戒をさらに強めた。
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しばらく進んだその時、森の奥から異様な気配が漂い始めた。冷たい風が一行の頬をかすめ、空気に微かだが焦げるような匂いが混ざり込む。遠くに雷鳴のような音がかすかに響いた。
「この感じ……まずいな。」アークは足を止め、険しい表情で森の奥を睨みつけた。「何かが近づいてくる。」
「魔王軍……か。」フレイアはウインドソウルを構え、気を引き締める。「気をつけろ、まだ敵がどこにいるかは分からない。」
「わたくしも何かの気配を感じます……。」セレーネは不安そうにアークたちの近くに身を寄せた。
その瞬間、森の奥から金属音とともに低いうなり声が響き、黒い影が木々の間から姿を現した。魔王軍の偵察兵たちだ。鋭い眼光でこちらを睨みつけ、次々と現れるその姿は、どこか異様な迫力を感じさせた。
「来たか!」アークは拳を握り、身構える。
偵察兵たちはアークたちを取り囲むように隊列を組み、じわじわと間合いを詰めてくる。彼らの武器からは不気味な光が漏れ、どんな攻撃を繰り出すかを想像させない威圧感を放っていた。
「セレーネ、俺たちの後ろに下がれ!」フレイアが冷静に指示を出す。彼女はウインドソウルに風の力を集め、敵に対抗する準備を整えた。
「わかりました……!」セレーネは緊張しながらも、アークたちの指示に従って後方に下がった。
「いくぞ、フレイア!」アークは風を纏い、素早く動き出した。
「任せろ!」フレイアはウインドソウルを振りかざし、風の刃を放つ。鋭い風が偵察兵たちの隊列に飛び込み、その一部を吹き飛ばした。
アークも手に水の力を宿し、フレイアの風に乗せて敵に向けて放つ。水の弾が風の勢いに乗って敵を叩き、彼らの防御を崩していく。
「数が多いな……!」アークは汗をぬぐいながら、敵の多さに圧倒される。「だが、負けるわけにはいかない!」
フレイアはウインドソウルを振り、さらに強烈な風の刃を作り出した。しかし、敵の攻撃も苛烈だった。魔王軍の偵察兵たちは次々に矢を放ち、鋭い槍を振りかざしながら一気に距離を詰めてくる。
「くっ……!」フレイアはウインドソウルで風の壁を作り出し、迫り来る攻撃を防ぐ。しかし、風の力だけでは敵の攻撃を完全には封じられない。
「フレイア、風だけじゃ不十分だ!」アークは声を張り上げ、水の力で彼女をサポートするために風の流れに水を乗せる。水と風が混ざり合い、敵に向かって勢いよく飛んでいった。
「オラァッ!」アークはさらに前に出て、拳を振り上げた。その拳には水の力が宿り、敵の槍を打ち砕く。
だが、敵の数は圧倒的で、アークたちは徐々に防戦一方になっていく。セレーネは彼らの戦いを見つめながら、自らの無力さを感じていた。
「わたくしも……何かできないのでしょうか……。」セレーネは震えるような声でつぶやく。しかし、戦闘に慣れていない彼女は、その場でただ見守ることしかできなかった。
その瞬間、一体の偵察兵がセレーネに向かって槍を振り下ろした。「セレーネ、危ない!」アークは咄嗟に飛び込み、彼女を庇いながら敵の槍を弾き飛ばした。
「きゃっ!」セレーネは驚いてアークの腕の中に倒れ込む。彼の腕は岩のように硬く、温かかった。
「お前は下がってろ、ここは俺たちに任せろ!」アークは彼女を安全な場所に押しやり、再び戦場に戻る。
「アーク、私たちだけで突破するぞ!」フレイアは叫び、ウインドソウルを振りかざして竜巻を生み出した。その竜巻は風と水を絡め取り、周囲の敵を巻き上げる。
だが、敵は一瞬で陣形を整え、再びアークたちに迫ってくる。「くそっ、しつこい奴らだ!」アークはその勢いを感じ取りながらも、風の力を解放し、フレイアの風に自らの水を纏わせる。
「こいつで突破口を開く!」アークは叫び、全力で拳を振り下ろした。風と水の力が融合し、強烈な衝撃波となって敵の中心を貫いた。
「うおおおっ!」アークの咆哮とともに、衝撃波が周囲の敵を薙ぎ払い、次々と地面に叩きつける。その圧倒的な力に、魔王軍の偵察兵たちはついに隊列を崩し、退却し始めた。
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