第21話 焼かれた村
アークたちは魔王軍の偵察兵との戦闘を終え、山道を進んでいた。緊張感から解放される間もなく、彼らの鼻先を焦げたような異臭が刺した。フレイアが風の流れを感じ、前方の空気に不穏な気配が漂っていることを察知する。
「……煙の匂いがする。」フレイアは眉をひそめ、周囲を警戒しながら前を向いた。「ただの小さな焚き火ではない、何かが焼けている匂いだ。」
「火事か、それとも……」アークは険しい表情で前方を見据えた。
「魔王軍の仕業かもしれませんわ。」セレーネが不安げに呟く。彼女の表情には焦りと恐れが入り混じっている。
ノームは彼らの言葉を聞いて足を止め、地面に文字を書いた。「近くに村がある。急ごう。」
「分かった。もし魔王軍が何かをしているなら、今度こそ俺たちで止める!」アークは力強く言い、先へと駆け出した。フレイアとセレーネも彼に続き、村へと急いだ。
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森を抜けると、前方に村が見えてきた。だが、アークたちの視界に飛び込んできたのは、荒廃し焼けた村の光景だった。家々は黒く焦げ付き、土煙がまだ立ち昇っている。大地は戦いの跡で荒らされ、村を囲む柵は無残に壊されていた。
「……ひどい。」フレイアが立ち止まり、目の前の惨状に息を呑む。
「魔王軍……こんな無慈悲な……」セレーネは震える声で呟き、目を伏せた。
「くそっ……間に合わなかったのか。」アークは拳を握りしめ、地面を睨みつけた。彼の瞳には怒りと無力感が浮かび、唇を噛みしめている。「俺たちがもっと早く来ていれば……!」
「今は嘆いている場合じゃない。生存者を探そう」フレイアがアークを諭すように言い、冷静に周囲を見渡す。「生き延びた者がいるかもしれない」
アークはその言葉に頷き、拳を握り直した。「そうだな……今は前を向いてできることをしよう。」
ノームも地面に「生存者を探す」と可愛らしく書き、アークたちにエールを送った。
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村の中を探索しながら、彼らは焼け落ちた家々を覗いていく。地面には住人たちが慌てて避難した形跡が残り、家の中には焦げた家具や生活道具が散乱していた。どれほどの惨劇がここで起こったのか、その悲惨さが痛ましいほど伝わってくる。
「こんなことを……。魔王軍は一体、何を求めているんだ……」アークは荒れ果てた村の一角で立ち尽くし、苦々しい表情を浮かべた。
「そうだな…魔王軍の意図が読めない」フレイアは慎重に言葉を選びながらアークに答えた。「彼らの行動には、ただの侵略ではない、何か別の目的があるのかもしれないが」
「でも、今はそんなことよりも……」セレーネが声を震わせながら言いかけたとき、ノームが足元に「地下に隠れ場所があるかも」と文字を書いた。
「地下か……そうだ、生存者が隠れているかもしれない。」アークはその可能性に希望を見出し、家々の床下や地下室の入り口を探し始めた。
しばらくして、フレイアが村の中央にある広い家の床板を見つけた。「ここに地下への入り口があるかもしれない。開けてみよう。」
アークとフレイアが力を合わせて床板を開けると、下から微かなすすり泣きの声が聞こえてきた。
「誰か、いるのか?」アークが優しい声で呼びかけると、暗闇の中から怯えた声が返ってきた。「た、助けて……」
「安心しろ、俺たちは敵じゃない。ここから出てきても大丈夫だ。」アークはそっと手を差し伸べ、地下から出てくるよう促した。
しばらくして、数人の村人が恐る恐る姿を現した。彼らはやつれた顔をしており、アークたちを見るとほっとしたように安堵の息をついた。
「魔王軍が……私たちの村を……すべてを焼き尽くして……」村の長老と思われる男が声を震わせながら語り出す。
「安心してくれ。私たちがもう魔王軍をここには寄せ付けない。」フレイアは静かに言い、彼らに希望を与えようとした。
「それにしても、ひどい被害だな。」アークは周囲を見渡し、深い憤りを抑えつつ言った。「とりあえず、ここを復旧しないと……」
「ええ、そうですわ。わたくしもお手伝いします。」セレーネが意を決して口を開いた。
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アークたちは村人たちと協力して、焼け跡の復旧作業に取り掛かった。アークの巨体と力強さは、大きな瓦礫を運び出すのに役立ち、フレイアは風の力を利用して村の周りの空気を浄化し、作業を効率化した。ノームは地面に文字を書いて村人たちに指示を出し、時には可愛らしく励ましの言葉を記す。
「よし、これで一区切りだ。」アークは汗を拭いながら、復旧が進んだ村を見渡した。「まだまだ完全には戻らないけど……少しはマシになっただろう。」
セレーネはその姿を見て、思わず胸が熱くなった。彼らの献身的な姿に心を打たれ、感嘆の眼差しでアークたちを見つめる。「あなた方は……本当に、強いですわ……」
アークは照れくさそうに笑いながら振り返った。「俺たちが強いんじゃない。みんなで助け合ったから、こうして少しずつ前に進めるんだ。」
フレイアも微笑み、セレーネに向かって言った。「そう、私たちは仲間だ。どんな困難でも乗り越えられる。」
「仲間……ですのね……」セレーネはその言葉を心に刻み、彼らのように強くなりたいという思いを新たにした。「わたくしも、皆様と共に戦う覚悟を決めましたわ。」
こうして、アークたちは焼け跡の村を後にし、次の目的地である海を目指して歩き出す。セレーネの中に芽生えた憧れと決意が、彼らの旅路をさらに強く、輝かしいものへと導いていく。
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