第5話 追放と魔王軍との戦い

それでは、アークの訓練の日々の描写を増やし、追放される際にリリアからアークに一言声をかけるシアークの訓練の日々は続いていた。リリアの屋敷で、毎朝のように魔力を感じる訓練を繰り返す。リリアの言葉を借りるなら、魔力というものは力任せでは感じ取れない。心を落ち着かせ、自分の中の流れを意識することが重要だという。


「アーク、もっと力を抜いて。あなたの中にあるものを、感じ取ろうとしないで……受け入れるのよ」


リリアは優雅な動作で彼に呼吸を整えさせる。だが、彼にはなかなかその感覚が掴めなかった。アークの人生は力で道を切り開くことが基本であり、繊細なものを感じ取るということには慣れていなかったからだ。


「……うーん、やっぱりわからないな」


彼は額の汗を拭い、息を整えながら不満げに呟く。リリアはその様子に微笑みを浮かべていた。


「焦らなくてもいいわ、アーク。あなたの中に眠っている力は、そう簡単に引き出せるものではないのよ」


隣でそのやり取りを見ていたフレイアは、アークの訓練を手伝うために時折アドバイスを投げかける。「お前の中には確かに強い力がある。それを正しく扱えれば、もっと強くなれるはずだ。無理に力を入れすぎるな」


アークは彼女の言葉に頷きつつも、思わず溜息をついてしまう。自分がエルフであることを証明するためには、魔力を使いこなせるようにならなければならない。だが、訓練は思うように進まず、彼の焦りは日々募っていった。


そんな彼の訓練の日々は、突然の報せによって中断された。その日、リリアの屋敷に駆け込んできたのは騎士団の副団長だった。険しい表情を浮かべた彼の姿に、フレイアはすぐに緊張を感じ取る。



---


「団長!そしてリリア様。重大な報告がございます!」


フレイアは立ち上がり、副団長の表情にただならぬものを感じた。「何があった?」


「街の外れに魔王軍の部隊が現れたとの報告が入りました。現在もこちらに迫っている模様です!」


その報告に、リリアは眉をひそめ、フレイアも驚愕の表情を浮かべた。街に迫る魔王軍。そんな状況を想像していなかった彼女たちに、副団長の次の言葉がさらに衝撃を与える。


「そして……これがすべて、白いオークであるあいつを招き入れたせいではないか、と疑っている者もおります!」


副団長の視線は、明らかにアークに向けられていた。彼の目には疑念と憎しみの色があり、まるでアークを一匹の魔物として見ているかのようだった。アークもその視線に気づき、眉をひそめる。


「白いオークだと?俺はエルフだ!」アークは声を荒らげて反論した。


しかし、副団長はその言葉を一蹴するように嘲笑った。「ふん、エルフ?どう見てもオークだろう。おまけに白い肌を持ち、人の言葉を操る……それこそが上位種である証拠と言えるではないか!」


フレイアは副団長の言葉に苛立ちを感じ、思わず前に出て反論しようとする。「待て、副団長!状況をよく見ろ、アークは……!」


「団長!」副団長はフレイアの言葉を制するように大声で叫んだ。「この者を招き入れたことで、街に魔王軍が迫っているのだ!事実として、あいつが現れてから我々は脅威に晒されている。あなたは団長として、その責任をどう取るつもりだ?」


副団長の言葉にフレイアは一瞬言葉を詰まらせた。確かに、アークが街に現れた後、魔王軍が動き出したというのは事実であり、状況証拠としては十分すぎる。だが、アークが原因であると決めつけることに彼女は強い抵抗を感じた。


「……副団長、その判断は早計だ。彼が……アークが魔王軍と関わりがあるという確証は何もない!」フレイアは声を振り絞って反論した。


だが、副団長は冷酷な笑みを浮かべて首を振った。「確証はない……だが、あいつがただのオークではないのは明らかだ。普通のオークが人の言葉を操ることなどあり得ない。これが魔王軍の策略でなければ何だというのだ?」


アークは副団長の言葉に激昂し、拳を握りしめた。「ふざけるな!俺はエルフだ!何度も言わせるな!」


「黙れ、白いオーク!」副団長はアークの怒りに動じることなく言い放った。「お前がエルフだと名乗ったところで、その姿はどう見てもオークだ。そして、この街にお前を招き入れてから事態が悪化しているのは揺るがぬ事実。団長、あなたがこの街を守るつもりなら、アークを追放する以外に選択肢はない!」


フレイアは歯を食いしばり、視線を下げた。彼の言葉が、重くのしかかる。状況が揃っている以上、彼女には反論する術がない。だが、それでも……。


「……わかった、副団長。確かに疑わしい状況は揃っている。私がアークを招き入れたことで、街が危険に晒されているのも事実だろう……」フレイアは深く息を吸い、ゆっくりとアークに向き直った。


「だが……だからこそ私は責任を取る。アーク、お前が追放されるなら、私は最後までお前を見届ける。団長として、そして、お前に恩を受けた者としてだ。これ以上街の者に危害を加えないためにも、私がお前と共に行く!」


アークはフレイアの言葉に驚き、そして彼女の目を見つめた。彼女の瞳には揺るぎない覚悟と誠実さが宿っていた。彼はやがてゆっくりと頷き、彼女の覚悟を受け入れる。


「ああ、わかった。お前がいてくれるなら、俺も戦える!」


副団長は彼らのやり取りを冷たく見つめ、最後にもう一度言葉を発した。「ふん、白いオークと共に行くか……いいだろう。だが、もし再び街に戻ってくるならば、それなりの覚悟を持て。団長であっても容赦はしない!」


フレイアはその言葉を静かに受け止め、毅然とした態度で副団長を見据えた。「心得ている。私の責任は最後まで果たすつもりだ」


その時、リリアが一歩前に出てアークに近づいた。「アーク、あなたが行くことになったのなら……これだけは言っておくわ。あなたの中に眠る力、まだ完全には目覚めていないわ」

リリアはアークの目を真っ直ぐに見つめ、真剣な表情で続けた。

「……だけど、それはあなたが諦めなければ必ず目覚める。あなたが自分を信じ続ける限り、エルフの誇りを持ち続けて戦いなさい。必ず、あなたの力があなた自身とこの街を救う道となるわ」


アークはその言葉にしばらく沈黙した。リリアの言葉には彼への期待と信頼が込められていた。彼女が自分を認めてくれている――その事実が、彼の胸に温かいものを灯す。


「ああ……俺はエルフだ。必ず、証明してみせる!」


リリアは微笑を浮かべて頷いた。「その言葉、忘れないで。そして、あなたたちが戻る場所はここにあるわ」


フレイアもまた、リリアの言葉に力を得て立ち上がった。「リリア、これから戦いに向かう。預けていた魔法剣を持ってきてくれないか?」


リリアは微笑みながら頷く。「ええ、少し待っていなさい」


リリアが屋敷の奥へと姿を消す間、アークとフレイアは無言で立ち尽くしていた。緊張と覚悟が二人の間に流れ、次第にそれが戦いに向かうための決意へと変わっていく。


しばらくして、リリアが一本の剣を手に戻ってきた。エルフから贈られた魔法剣であり、その刃は風を纏っているかのように微かに揺らめいていた。


「これが、あなたの剣よ、フレイア。しっかりと清めておいたわ」


フレイアはその剣を受け取り、感謝の気持ちを込めて頷いた。「ありがとう、リリア。必ず戻ってくる」


リリアは頷き、二人に微笑みを浮かべた。「気をつけて、二人とも。あなたたちの道に風が吹くことを祈るわ」



---


こうして、アークとフレイアは魔王軍との戦いに赴くこととなった。追放された形ではあったが、アークは自らの意思で戦いを選んだ。街の外れの森に差し掛かると、二人はそのまま森を抜けて魔王軍の陣地へと向かう。


森の奥から現れたのは、武装した魔王軍の集団だった。オークの兵士たちも混じり、アークはその姿に歯を食いしばる。


「魔王軍……俺がいるから、ここに来たっていうのか……!」


アークの中で、怒りと覚悟が混じり合う。副団長の言葉に憤りを感じつつも、それが自分のせいならば、なおさら戦う理由がある。エルフの誇りにかけて、彼は魔王軍を倒すと決めたのだ。


「おい、アーク!無茶はするなよ!」フレイアが後ろから叫ぶ。


「わかってる!でも、やるしかないんだ……!」


アークは彼女に一瞥を送り、全身に力を込める。魔力の感覚はまだ完全には掴めていない。だが、それでも彼の内側から湧き上がる何かが、彼を前へと駆り立てていた。


「俺はエルフだ……!魔王軍なんかに負けるもんか!」


彼はその言葉と共に、魔王軍の集団へと突っ込んでいった。フレイアもまた、魔法剣を手にその後に続く。彼女の中には、アークの決意を支えるための強い意志があった。


「行くぞ、アーク!お前の力を見せてやれ!」


アークは彼女の声に答えるように雄叫びをあげ、その巨大な体を揺らしながら敵のど真ん中へと突き進む。剣や槍を構えたオークたちに対し、アークは自らの腕力で迎え撃ち、風を切るような一撃を放った。


「うおおおおっ!」


その一撃で、数体のオークが吹き飛ばされる。まるで暴風が巻き起こったかのような衝撃に、魔王軍の兵士たちは一瞬ひるんだ。


「す、すごい……!あれがアークの力……!」


フレイアはその様子を目にし、彼の力の凄まじさに驚きを隠せなかった。これほどの力を持ちながらも、彼はまだ魔力を感じ取れていない。それならば、もし彼が本当に魔力を操れるようになったとしたら……。


「アーク、気を抜くな!相手はまだいるぞ!」


彼女の声にアークは気を引き締め、次なる敵へと視線を向けた。魔王軍の兵士たちは恐れながらも武器を構え、彼に立ち向かおうとする。


こうして、彼らの戦いが今まさに始まろうとしていた。追放され、疑念を向けられたアークと、それを支えるフレイア。二人の戦いは、まだ終わりを迎えない。

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エルフに転生したはずがオークにしか見えない件 足雄 @tasi507

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