第18話 海への旅立ち
アークは森の中で足を止め、ふと空を見上げた。青い空に白い雲が漂い、どこまでも続いているように見える。彼の隣にはフレイアが立ち、剣を手にしたまま警戒するように周囲を見渡していた。彼らは精霊の森での試練を終え、新たな目的地へと向かう準備を整えていた。
「で、海に行くというわけか?」アークは、フレイアに視線を向けた。
「そうだ。ノームがどうしても見たいと言っていたからな」フレイアは軽く腕組みをし、淡々とした口調で答える。「だが、それだけではない。お前も知っているだろう、海の精霊と契約することは、今後の戦いにおいて重要だと」
アークは頷いた。確かに、彼らが今後魔王軍と戦うためにはさらなる力が必要だ。精霊との契約は、そのために避けて通れない試練の一つだった。彼はふと自分の手を見下ろし、精霊の森で得た力の感触を思い出した。だが、海の精霊の力はまだ未知数だ。
「わかってるさ。だが、海に行くなんて言っても、ここからどれだけ遠いのかもわからないんだがな」
「確かに……」フレイアは険しい表情を浮かべた。「山を越え、川を渡り、長い旅になるだろう。だが、それでも行く価値はある」
「それに……」アークは少し視線を逸らし、木陰に座っている小さな存在を見た。「あいつがどうしても海が見たいって言うからな」
そこには、ノームがちょこんと座り、前足を使って地面に文字を書いていた。「海、キラキラ、楽しみ!」と、子供のような可愛らしい文字が並んでいる。アークは苦笑しながら、ノームの前にしゃがみ込んだ。
「お前、そんなに海が見たいのか?」
ノームはコクコクと何度も頷き、嬉しそうに鼻をピクピクさせた。そして、地面にさらに文字を書き始める。「海、広い、きれい、気持ちいい!」
「まあ、そう簡単に行ける場所じゃないと思うが……」アークは頭を掻きながら立ち上がった。「でも、お前の願いだ。叶えないわけにはいかないな」
「ふふ、やっと納得したようだな」フレイアは小さく微笑んでアークを見た。「精霊の森での試練を終えた今、お前の力をさらに引き出すためにも、海の精霊と契約することは必須だ」
「そういうことだな」アークは気を引き締め、再び空を見上げた。「よし、行くか。海を目指して!」
彼らの旅路は始まった。森を抜け、山岳地帯を目指す。道中、アークとフレイアは精霊の森での出来事を振り返りながら、これからの戦いに向けて心の準備をしていた。
「お前の試練、どうだったんだ?」アークはふと尋ねた。「俺は湖の精霊にいろいろ言われたが……お前も同じような感じだったのか?」
フレイアは少しだけ考え込み、答えた。「私の試練は、風の精霊から問いかけられた。エルフの友として戦う覚悟があるか、とな」
「ほう。それで、お前はどう答えたんだ?」
フレイアはまっすぐにアークを見つめ、毅然とした口調で言った。「私は、エルフの友かどうかはわからない。しかし、アーク……お前の友として戦うと決意した。それを伝えた」
アークはその言葉に少し驚きながらも、内心では嬉しさを感じていた。「そうか……それでウインドソウルは本来の力を取り戻したってわけか」
「そうだ。お前が自らをエルフと信じ続けている限り、私はお前の友として戦う」フレイアは少し笑みを浮かべた。「だから、お前も覚悟しておけ。私の剣は、お前のために振るわれる」
アークはしばし沈黙し、フレイアの言葉を噛み締めていた。彼女の決意が、自分の戦いにどれだけの力を与えるのか、今はまだわからない。ただ、彼女が自分をエルフとして信じ、友として認めてくれることが何よりも心強かった。
「わかった。お前がそう言うなら、俺も全力で戦うさ」アークは力強く答え、前を向いた。「行こう、フレイア。海の精霊と契約するためにな」
フレイアは頷き、彼の隣に立つ。「ああ、行こう」
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その後、彼らは険しい山道を歩き続けた。冷たい風が吹きつけ、岩場を越えるたびに足元が滑る。しかし、アークとフレイアは迷うことなく進んでいく。ノームも地面に文字を書きながら、彼らを励ますように笑顔を見せていた。
「さあ、この先の山を越えれば、次は川だ」フレイアが険しい表情をしながらも、周囲の地形を確認して言った。「気を抜くなよ、アーク」
「お前に言われなくてもわかってるさ」アークは肩をすくめ、岩場に手をつきながらよじ登った。「しかし、海ってのは本当に遠いもんだな」
「それだけの価値がある場所だ。ノームも楽しみにしているだろうし、私たちの力を高めるためにも必要な旅だ」
その時、ノームが岩場の頂上に到達し、地面に文字を書いた。「海、もうすぐ?」
アークはそれを見て苦笑した。「いや、まだまだ先だ。でも、必ず行くから安心しろよ」
ノームは少し寂しそうにうなだれたが、すぐに笑顔を取り戻し、「ノーム、待つ!」と書き込んだ。その可愛らしい反応に、アークとフレイアは微笑を浮かべた。
「いいか、ノーム。海にたどり着いたら、何をするか決めておけよ。せっかくの旅なんだ、楽しまなきゃ損だろ?」
ノームはアークの言葉に大きく頷き、前足を使って楽しげに地面に文字を書いた。「海、泳ぐ!魚、見る!楽しい!」
「ふふっ、元気だな」フレイアは優しい目でノームを見つめ、彼の純粋さに心を和ませた。「そのためにも、私たちがしっかりと進まなければな」
こうして、彼らの旅は続いていく。険しい山々を越え、川を渡り、海への道程はまだまだ長い。しかし、アークたちの心には確かな絆が芽生え、彼らを前へと進ませていた。彼らの旅は、ノームの願いを叶えるためだけでなく、これからの戦いに備えるための大切な時間でもあった。
「さあ、行くぞ。海はまだ遠いが……俺たちならきっとたどり着ける」
アークの力強い声に、フレイアとノームは頷き、再び旅路へと歩き出した。
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