第3話 力自慢のエルフ!?

朝日が昇り、屋敷の中がほんのりと明るくなるころ、フレイアはアークの部屋に足を運んだ。ドアを軽くノックして開けると、アークはすでに仁王立ちしていた。巨体が部屋の空間を圧迫し、まるで彼の存在がこの屋敷には馴染まないかのようだった。


「お前、朝から何をしているんだ?」


フレイアは少し呆れたように尋ねたが、アークは胸を張り、まるでそれが当然だと言わんばかりに答えた。


「エルフたるもの、朝から怠けてなどいられん! 今日は早速、街の連中に俺の力を見せつけてやる!」


フレイアはアークの勢いに少し戸惑い、眉をひそめて問いかけた。


「エルフというものはそんなに豪快で力強いものなのか?私の知っている限り、もう少し繊細な印象なんだが……」


アークはその言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにニヤリと笑って言った。


「ふっ、それはお前が本物のエルフを知らないからだ。エルフというのは自然の力を引き出し、どんな困難にも立ち向かう者だ。そのための力を備えているのは当然だろう?」


フレイアは彼の言い分に、呆れとともに少しだけ興味を持ったように首をかしげる。


「そうか……。まあ、どうせお前はやると言い出したら聞かないだろうからな。ただ、騒ぎを起こさないようにしてくれよ」


「任せておけ。俺が少しばかり力を見せれば、皆すぐにわかるさ。どんな状況でも役立つのが、本物のエルフってもんだ」


アークは自信満々に答えると、フレイアの促しに従って外へ向かった。彼は元気よく屋敷の外に飛び出し、堂々とした足取りで街の広場へと向かって歩き出す。その姿を見て、周囲の住民たちはざわつき始めた。



---


広場に到着すると、アークはその場に立ち止まり、大きく息を吸い込んだ。そして、広場に集まっている人々に向かって堂々と宣言する。


「おい、聞け! 今日からこの街で、俺の力を見せてやる! 困っている者はいるか、俺が助けてやるぞ!」


彼の声が広場中に響き渡り、周囲の人々は一瞬言葉を失った。アークの巨体と大声に圧倒され、ただ驚きの表情で彼を見つめている。しかし、どう見てもオークの姿をした彼が「エルフとしての力を見せる」などと言い出したことで、次第に人々の間から笑いや困惑の声が漏れ始めた。


「え、エルフ……? あれが……?」


「いや、どう見てもオークだろう……」


「でも、あれだけの巨体なら……」


そんな中、広場に駆けつけた騎士団副団長が険しい表情でアークを見やり、フレイアに歩み寄った。副団長はすぐに彼女の腕をつかみ、小声で厳しく問い詰める。


「フレイア団長、これは一体どういうことですか?街の広場であんな危険そうなオークを野放しにするとは、一体何を考えているのです?」


フレイアは少し困ったように笑みを浮かべ、彼をなだめるように手を振った。


「落ち着け、副団長。こいつは自分をエルフだと言っている。見た目は……まあ、確かにオークそのものだが、今のところ街の者を助けると言っているだけだ。少し様子を見てやろう」


副団長はフレイアの言葉に耳を傾けながらも、視線をアークに固定したままだった。彼の瞳には疑念と警戒心がはっきりと表れている。


「しかし、あの巨体と力……何かあれば街に甚大な被害をもたらす可能性があります。団長、あなたの責任において監視するというならば、それでよろしいですが、私は一瞬たりとも油断はしません」


「わかっている。騒ぎが起きそうになったら、すぐに止める。今は少し彼の行動を見守ってくれ」


副団長は不服そうにアークを見上げた。彼の力がどれほどのものか見極めようとしているが、その見た目はどう見てもオーク。だが、フレイアの毅然とした態度にしぶしぶ一歩引き、彼の行動を静観することにした。



---


アークの宣言に、広場にはざわめきが広がる。その中、勇気を出した一人の老人がアークに近づいてきた。彼は腰をかがめ、頭をかきながら話しかける。


「あのう……若いの、わしの店の荷物が重くてのう、運ぶのを手伝ってくれんかの?」


アークは老人の頼みに満面の笑みを浮かべ、豪快に頷いた。


「よし、任せておけ!この俺がいる限り、どんな重い荷物も軽々と運んでやる!」


老人に案内され、広場の片隅に積まれた重そうな木箱の山に向かう。周囲の人々が興味深そうに見守る中、アークはその大きな手で木箱を一つ持ち上げた。彼の筋骨隆々の腕が力強く動き、木箱が浮かび上がる。


「どうだ!」


アークは木箱を軽々と持ち上げ、肩に担ぐと広場を歩き出した。見物していた人々からはざわめきが起こり、少なからず驚きの声が上がった。


「す、すごい……!」


「見た目も力も本物のオークだな……」


その声を耳にしたアークは少し得意げに振り向いた。そして、腕を組みながら答える。


「力が強いだけじゃないさ。俺には森の力を感じ取り、それを活かす術がある。まあ、俺の力の一端を見せただけだがな」


周囲の人々は、その婉曲的なアピールに困惑しつつも、どこか納得したような様子を見せた。だが、そんな中で囁かれる声もあった。


「……どう見てもオークだが、善良そうではある…」


「確かに。ただのオークとは違うのかもしれないな……」


副団長はその声を聞きながらも、アークから目を離さなかった。心の中で彼がいつ暴れるかもしれないと警戒しつつ、フレイアの判断を信じるしかないと自分に言い聞かせているようだった。



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その後、アークは街のさまざまな場所で助けを申し出て、人々の手伝いをして回った。荷物運びや修理など、彼の豪快な力は次々と街の住民たちに驚きと感謝をもたらした。アークが一通りの人助けを終えた頃、彼は満足げに広場の真ん中で腕を組んだ。


「ふむ、エルフたるもの、人間の良き隣人たるべし、だな。俺がこの街で役に立つことで、エルフの品格を示していかねばならん!」


アークのその言葉に、周囲の人々は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、やがて困惑した笑みや安堵の表情が広がり始めた。彼がどれだけエルフを主張しようとも、その行動が実際に街の人々の助けとなっている事実は変わらなかったからだ。


「……エルフかどうかはさておき、なんだかんだで頼りになるな」


「そうだな。見た目はともかく、少なくとも危険な奴ではないみたいだ」


その言葉を耳にしたフレイアは、内心安堵しながらアークに近づいた。彼の純粋な行動が、少しずつだが街の住民たちの心を動かし始めているようだった。


「……ふむ、どうやら街の者たちにも少しは認められたようだな」


アークは彼女の言葉に満足げに頷いた。


「当然だ!俺の力は皆の役に立つためにあるのだ。エルフたるもの、困っている者を見過ごすわけにはいかないからな!」


フレイアはアークのその勢いにまたも呆れつつも、彼の行動に秘められた真っ直ぐな心意気を感じ取っていた。しかし、それだけでは彼の正体について確信することはできない。


「そうだな……お前の言うことも一理ある。しかし、ここで一つ、お前が本当にエルフなのか、確かめておく必要があるかもしれないな」


アークはフレイアの言葉に眉をひそめた。


「確かめるだと?俺は見ての通りのエルフだ!」


「見ての通り……ねぇ……」フレイアはその言葉を少し皮肉めいた口調で繰り返す。「だが、他の者にはそう見えていないのも事実だ。それに、本当にお前がエルフなら、エルフならではの何かがあるはずだ」


フレイアはそこで一拍置き、続けた。「そこでだ、賢者であるリリアにお前を見てもらう。彼女なら、お前の素性を何かしら見極めてくれるかもしれない」


「リリア……だと?」


アークはその名に耳を疑うように首を傾げた。フレイアは彼の反応に小さく頷く。


「リリアはこの街で賢者として知られている女性だ。魔法に精通し、人々から信頼を得ている。彼女なら、お前がただのオークなのか、それとも本当にエルフなのか、何か判断できるかもしれない」


アークはしばらく考え込むように腕を組み、やがて大きく頷いた。


「よし、わかった。俺のエルフとしての本質を見てもらおうじゃないか!」



---


翌朝、フレイアはアークを連れてリリアのもとへ向かった。リリアの住む屋敷は街の端に位置し、周囲には魔法の結界が張られていると噂されている場所だ。アークは初めて訪れるその場所に、少し緊張した様子で立ち止まった。


「ここが、リリアの住処か……」


「そうだ。ここでお前の真価を見極める。くれぐれも失礼のないようにするんだぞ」


フレイアの言葉にアークは頷き、門をくぐった。そして、広々とした庭を抜けて屋敷の扉の前に立つと、フレイアが軽くノックをする。


「リリア、いるか?」


すると、扉の向こうから軽やかな足音が近づいてくる。そして、扉が開くと、そこには若く美しい女性、リリアが立っていた。長い髪をなびかせ、知的な輝きを宿した瞳がフレイアとアークを見つめる。


「おはよう、フレイア。今日は何の用かしら?」


リリアは柔らかな声で問いかけると、すぐにアークの姿に気づき、目を見開いた。


「……あなたが噂のエルフだと言い張る者ね?」


アークはその視線に少しもひるまず、胸を張って答える。


「そうだ。俺はエルフだ!」


リリアはその言葉に、興味深そうにアークの全身を観察し始めた。彼の耳や鼻、そしてその体格を見渡し、再びフレイアの方へと視線を戻す。


「なるほど、確かに一見するとオークに見えるわね。でも、何かが違うような気もする……」


リリアは腕を組んで考え込み、しばらく無言のままアークを観察していた。アークはその視線を受けながら、少しだけ緊張の色を浮かべていたが、それでも毅然とした態度を崩さない。


「……リリア、何か感じるか?」フレイアが問いかけた。


リリアはゆっくりと頷くと、静かに口を開いた。


「ええ、感じるわ。彼には……尋常ではない魔力が宿っている。少なくとも、ただのオークではないことは確かね」


アークはその言葉に表情を輝かせた。


「ほら見ろ!俺はただのオークじゃない!」


フレイアはその瞬間、あまりにも自然に「オーク」と言ったアークの言葉に、つい突っ込まずにはいられなかった。


「お前、自分でもオークの自覚が……?」


その言葉に、アークは一瞬口を開けたまま硬直した。次の瞬間、慌てて手を振りながら言い返す。


「ち、違う!そうじゃない!俺はエルフだ!ただ、言い間違えただけだ!」


「へえ……エルフが自分をオークと間違えるなんて、聞いたことがないけどな」


フレイアは意地悪そうに微笑みながらそう言うと、アークはさらに狼狽えた様子で言葉を詰まらせた。顔を真っ赤にして大声で叫ぶ。


「だ、だから違うと言っているだろう!俺は紛れもないエルフなんだ!」


その姿を見ていたリリアは、思わずクスッと笑みを漏らした。彼の必死な主張に、どこか憎めないものを感じたのだ。彼女はフレイアに向き直り、微笑みながら言った。


「まあ、落ち着いて。彼が何者かはまだわからないけれど、まずは魔力の基礎から見てみましょう。そうすれば、何かしらのヒントが掴めるかもしれないわ」


アークはまだ少し顔を赤らめたまま、しかし気を取り直して大きく頷いた。


「そうだ!俺の中にはエルフの力が眠っているんだ!見せてやろうじゃないか!」


フレイアはその様子を見て、また少し呆れつつも、リリアに視線を戻した。


「リリア、お前が彼を見て何かしら導き出せるというのなら、頼む。アークの力を引き出して、彼が本当に何者なのかを確かめてくれ」


リリアは静かに頷き、アークに向き直る。


「わかったわ。まずはお試しに、魔力の基礎から始めましょう。ただし、簡単なことではないわよ?」


アークはその言葉に力強く頷いた。


「ふん、エルフたるもの、どんな困難にも立ち向かうものだ!」


こうして、アークの本当の姿を確かめるための試練が始まる。リリアの導きのもと、アークは自らの魔力を磨き、エルフとしての潜在力を引き出そうと奮闘するのだった。



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